14 認めるものか
フレイベルが剣の鍔部分に刺さった鍵を左に回して抜くと、彼女の全身を覆っていた真紅の鎧が光の粒子になって霧散した。生身の姿に戻り、一体どこに収まっていたのやらボリュームのある紅い髪がふっさりと降りた。
役目を終えた剣と鍵も光に包まれて虚空へと消える。
がたがたがた、という石畳を叩く車輪の音が聞こえてくる。
程なくして広場にやってきたのは二頭の走り鳥に牽かれたワゴンだ。四つの車輪が付いた箱型の乗り物がリュードたちの前で停車し、ドアが開いて中から二人組の男女が降りてきた。
ギルドのボスとエミリーだ。
慌てた様子で飛び出したボスは広場に転がっている天気塔の残骸を一瞥し、
「何があった?」
「壊したのは彼女です」リュードは隣のフレイベルを指さした。
「彼は放り投げてましたわ」
速攻で言い返された。
「……」
「それで、リュード。この子をギルドに採用するの?」
ボスが拳を額に当てて俯いているのを横目にエミリーが訊ねる。
元々そういう話だった。彼女が『バスター』として相応しいかどうかのジャッジはリュードに委ねられている。
リュードは腕を組み、ちらりとフレイベルの方を見た。彼女は背筋をピンと伸ばして自信に満ち溢れた顔をしていた。やりきった、という顔だ。
確かに、彼女と協力したことでパラズマにも巨大化した魔物にも特に苦戦することなく勝つことができた。リュード一人でも負けることはないが、ここまで早く任務を終えられなかっただろう。
ギルドに入れば、間違いなく活躍できる。
だから、はっきりと答えた。
「いや、断る」
「えっ」フレイベルが目を丸くして声を上げた。「なぜ……? 共に戦って、悪霊を退治したではありませんか。役に立てたのに」
「君は確かに強い」
向日葵畑の一件への怒りを新鮮に思い出しながらリュードは言う。
「だが天気塔を破壊するほどの力を振りかざしていては魔物よりも先にこの街の方が保たない。だいたい最初に僕の獲物を横取りした時から君のことは気に食わなかったんだギルドに入りたければ他をあたってくれ認めてくれる保証はないけどね」
後半はただの私怨になっていた。
「わたくしは不合格、ということでしょうか?」
「ああ」
「それじゃあ天気塔はリュード一人で弁償ね」
「ああ…………なんだって?」
エミリーの言葉に、危うく流しかけたリュードが変な声で反応する。
「ちょっと待った、どうしてそうなる? 壊したのは彼女だぞ」
「ギルドに入ればその限りじゃないんだけど、あなたがこの子を認めないならただの一般人として扱われる。そして任務に連れまわした一般人が起こした問題は連れまわした当人が責任を負うことになってるんだよね。連帯責任ってやつ?」
「そういうルール?」
「そういうルール。おお、詳しいな私、さすが」
またかよ、とリュードは頭を抱える。
「そもそもどうして僕が塔の修理費なんて支払わなきゃいけないんだ。あんなの魔法を使えばすぐ直るんじゃないのか」
「あのねリュードくん、魔法使いって魔法でお金貰ってるの」
エミリーに諭すように言われた。そういうことらしい。
気が付けば。
エミリー、ボス、そしてフレイベルの三人がリュードに注目していた。その視線は彼にこう訴えている。早く答えろ。
リュードは天を仰いだ。正直に言って彼女を認めるのはかなり癪だった。
フレイベルをバスターとして認めないのは勝手だ。別にリュードが不合格を突き付けたところで彼女は困らない。他の人間に例の制度を使ってもらえばいいだけだ。
その代わり天気塔の賠償金はこちらが背負わされてしまう。
二つに一つ。プライドと金銭の天秤が少年の頭の中で揺れていた。
そして。
リュード・ジャーガルは覚悟を決める。息を吐き、紅い髪の天使の顔を見て、絞り出すような声でこう告げるのだった。
「ようこそ、ギルドに」




