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17.護心術③

「まずは合気道の演武で、そのヒントを探っていきますね」


叡山は、もう1人の高弟を手招きする。


「小林さんです」


叡山が紹介すると、小林は照れた様に頭を掻いて、ペコリとお辞儀した。叡山より大分年配の高弟だった。


剽軽な印象を受けたが、演武が始まると気配が一変し、殺気とも言える陰の気を放ち始めた。

小林の陰の気に、瀬里奈の内臓が反応し、重くなる。

陰の気は、標的のみでなく、全方位に発散されるのだ。


小林は、素早く踏み込んで、叡山に手刀を打ち込んだ。

左半身の叡山は、手刀を手刀で受け流し、体を反転させ、小林を後方へ投げた。

小林は、自重を感じさせない身のこなしで受け身を取った。


姿勢を整え、間髪入れず正拳を突く。

叡山は体を入れ替え、正拳を優しく包み込む様に掴み取り、迷いない足捌きで導くと、流れる様に小林を投げた。

小林の小柄な体が綺麗な弧を描いて一転し、畳に打ち下ろされた。


これも何事も無かった様に小林は立ち上がると、今度は右の中段蹴りを放つ。

叡山は、自分から小林の間合いに踏み込むと、蹴り足を制し、軸足を払った。

小林は、背中から畳に落ちた。


陰と陽の攻防。


叡山は、小林の多彩な仕掛けに戸惑う事なく瞬時に対応していく。

どれだけ激しく動いても、叡山の体幹はぶれなかった。

瀬里奈は、叡山の美しい背中のシルエットに釘付けとなる。


それは、鋭い正中線の屹立する、熟練者のみが到達できる佇まい。


更に素早く立ち上がり、次の一手を繰り出そうとする小林を、叡山は掌を翳して制止した。


「有難うございます」


叡山が言うと、小林は陰の気を払い、素の剽軽な様子に戻って一礼し、下がった。

息つく暇の無い連続攻撃だったが、叡山は、その全てを捌いた。


「陰の気に対し、同じ陰の気で挑んでも、合気道は破綻します。

陽の気、つまり、相手を受け入れる気持ちが、演武を可能にするのです」


あれだけ激しく動いても、叡山は息1つ乱してはなかった。

瀬里奈は、まるでたおやかな日舞の舞を観賞した様な気持ちになった。

叡山は、殺気の籠る小林の痛撃の数々を、柳の様な柔らかさで制し、受け流した。

合気道の奥深さの一端に触れ、瀬里奈は身震いした。


「これを、いじめの対処法として昇華し、皆さんに伝える事が、このセミナーの目的です。

それでは順を追って説明していきたいと思います。質問は、その都度受け付けますので、遠慮なく挙手してくださいね」


叡山はそう言って、瀬里奈達を見やる。


「足、大丈夫ですか?」


瀬里奈と鈴香だけが、足を崩さず正座のままだったのだ。

それに気づいた叡山が、2人を気遣ってくれた。


「お2人とも、とても美しく正座されていますね。失礼ですが、何かやられているのですか?」


叡山の質問に、鈴香が答えた。


「私は書道を教えていますので、正座には慣れています。

娘にも小さな頃から指導しております」

「なるほど、それで」


合点がいったという様子で、叡山が頷く。

隣で美音が、アヒル座りからひっそりと正座に切り替えている。

瀬里奈はそれに気づいて肘で突いた。

美音がばれたか、という様に舌を出し、瀬里奈の肩に額を擦り付けてくる。

叡山は、微笑ましげに瀬里奈と美音を見た。


「さて…」


叡山が言葉を繋いだ。





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