#4
「つまりだ、この演習場内では全ての事象がなかったことになるわけだ」
学院長がこれでもかと大雑把に説明する。いや、その説明じゃ分からんて。
「つまり、ここは一種の魔術空間というわけですか?」
ライトがアリス教官の方に質問をしたがアリス教官は何も答えない。一体どういうことだ?
「た、たぶん魔術だけじゃないと思います。僅かに精霊の加護も感じられるので…」
「そうね、火と水と風…土の精霊も感じられるわ」
何か納得したようにシャルとロゼが頷きあっている。
「えっとつまりどういうこと?」
一番状況が飲み込めていないのは間違いなく俺だろう。
この演習場だって若干の違和感はあるが精霊がどうとかはよくわからない。
もしかして分かってないの俺だけかと思っていたのだが
「すまぬ、拙者もよくわからないのだが…」
セツカがみんなに質問をするのを見て、少し安堵。そうだよな!急にこんなこと言われてもわからないよな!
「つまり四元素を司る四精霊がこの空間を作る事によって、擬似的な無属性を創っているという解釈でいいのでござるか?」
前言撤回、どうやらポンコツなのは俺だけのようだ。
「そうですね、そこまでの解答であれば十分でしょう。みなさんとても優秀で私は嬉しいですよ」
アリス教官の言葉を聞いて胸が痛い。
「セツカさんやみなさんが考えている通り、この空間は無の属性を擬似的に作り出しています。今回は火の再生、水の透過、風の幻影、土の固定の概念によって構成されています」
「なるほど、つまりここで起こる事象は全てなかったことになると言うことですね」
「なるほど、納得でござる」
「で、でもこんな複雑な魔術構造、一体誰が…」
「そうね、範囲を固定してるといってもこの規模を安定させるとなると並みの魔術師じゃ発動すら難しいわね」
「……全くその通りだな!」
一応話に乗っておこう。
「話が少し逸れましたが、みなさんも今から此処で何をやるかを理解したと思うので、早速始めたいと思います」
つまりこの試合は、俺たちの実力を図るための催しってわけだ。
すぐに試合を始めるものだと思っていたが、各々準備があるだろうという事で、30分後に始めることとなった。
セツカとライト、あとロゼも演習場内で散らばり。それぞれこの空間で何ができるかをいろいろ試している。
シャルも同様に、何やら魔法書を開いてブツブツと呟いている。
俺は何をしているかって?そりゃもちろん…
「ゲン君は何もしなくていいの?」
「え?いや…はい、いやいや、準備運動位してますよ⁉︎ええ」
アリス教官の心配もごもっとも。他の生徒は準備をしている中、真ん中で1人何もせず突っ立っているんだからな。
別に何もしてないわけじゃないのだが…
「ロックベル、無様な試合をしたらただじゃおかないからな。お前は私の一存で入学を認めたんだから、これで使えないやつだったら私の信用問題に関わる!」
「いや、無理やり連れてきといてその言い方はないでしょう⁉︎」
学院長が信用とか気にすら玉じゃないだろう?「信用だと?そんなものどうでもいい、ついてこい!」とか言いそうだし。
ほんとこの人はどこまで本気なのか全くわからいからタチが悪い、だいたいあの時だって……
「はい!それではそろそろ試合を始めたいと思います」
アリス教官は手をパチンと鳴らすと、みんな中央に集まる。
「では対戦相手を発表したいと思います。第1試合、ライト対セツカ、第2試合、ロゼ対シャル」
「「「「はい」」」」
あれ?俺は?
「そして、第3試合はゲン対カリオストロ学院長です」
「なっ…え?ちょま…」
「異論は後で聞こう、日も暮れ始めている。早速始めよ!」
(絶対後で聞かないよこの人…)
これは間違いなくこの場にいる全員が思ったであろう…。
そして、第1試合、ライト対セツカの試合が始まった。