#3
そのあとすぐに演習場へ移動となった。俺たちは言われるがままついて行き、校庭の奥にある割と大きめなドーム状の施設へ入る。つまりここが演習場ってわけか。
驚くことでもないかもしれないが演習場の中には何もなかった。何もない空間が広がっているってのは少し怖いものがあるな。
いや、何もないってのは語弊がある。正確には演習場の真ん中あたりに箱が置いてある。
俺たちはそれぞれ自分の名前の書かれている箱の前に立たされる。
すると銀髪の女性が俺たちの前に立った。
「それでは皆さん、まずはフェニックス学園への入学おめでとうございます!入学式は出れなくて申し訳ありません、こちらでの準備が少々時間がかかってしまったもので……」
女性は隣にいる学院長をちらっと見る
「なにか?」
「……はあ、なんでもありませんよ」
この人も苦労してるんだな、大方ここの準備も学院長絡みでいろいろあったのだろう。もう頑張れとしか言い様がない。
女性は次の溜息を飲み込み、こちらに向きなおした。
「自己紹介は……私以外はもう終わってますよね。私の名前はアリス・レイライン、アリス先生…そうね、ここでは教官と呼ぶのかしら、よろしくお願いしますね」
アリス教官が自己紹介を終えるたので、俺たちもそれぞれ自己紹介をしなおす。セツカとライト、俺は先程と同じように。シャルは緊張が多少ほぐれたのか、噛まずに名前を言い切った…可愛い。
ただロゼは先程と打って変わって丁寧な口調で自己紹介をした、まあ名前だけだけどな。元々こういう正確なんだろう、さっきは機嫌が悪かっただけなのかもしれない。……誰のせいだろうな。
アリス教官はライトの兄弟のこともシャルのレーヴァテインの名にもとくに驚くことはなかった。担任なのだから当然といえば当然である。
さて、自己紹介も終わったところで本題に入る。
「それでは皆さん、目の前の箱を開けてください」
アリス教官の指示に従い、正直ずっと気になっていた箱を開ける。箱の形大きさは5人それぞれ違っている。俺の箱の中には腕輪が一つだけ入っていた。その箱の中身は……
「これは…拙者の刀と腕輪か?」
「僕のも自分の剣と腕輪だね」
「え、腕輪だけ?」
「わ、私のも自分の魔道書と腕輪です」
「同じく、私も自分のと腕輪よ」
どうやらみんな自分の武器が入っていたらしい。セツカは東洋式の刀、ライトは両刃の片手剣、シャルは赤い本、ロゼのはいわゆるグラディウスというものだろう。
全員が箱の中身を確認したところでアリス教官はパチンと手を叩く。
「箱の中には前日に預けてもらった、それぞれの武装と腕輪が入っていると思うのですが大丈夫ですか?」
アリス教官がそう言うとみんな他の人の中身を見る。
するとライトが俺の箱の中身を覗いたのか、中身について問いかけてくる。
「ゲン君のは武装が入ってないのかい?」
「いいんだよ、そもそも預ける武器…というか武装なんて持ってないからな」
そう答えるとライトは僅かに疑問そうな表情をしたがすぐさま納得したようだ。
「なるほど、徒手格闘か」
「まあそんなところだな」
そう、本当に武装を持ってなかっただけなんだけどな。
ライトとそんな会話をしているとアリス教官が
「それではこれからやることについての説明をします」
と言った。つまりここからが本題というわけか。
俺たちはそれぞれ腕輪と武装を装備する、もちろん俺は腕輪のみである。
「これからみなさんには1対1の試合をしてもらいます。ルールは簡単です、相手を試合続行不能にするまでとします」
「アリス教官、試合続行不能というのはどの程度のものなのでしょうか?」
「それは私が説明しよう」
ずっとアリス教官の横で傍観していた学院長がいつから持っていたのか、身の丈を超えるほどの槍を構える。
あの形って確かトライデン……
「こういうことだ!!」
グサッ
「え、、、」
学院長の声とともに突き出された槍の柄が俺の胸から伸びている。それが学院長に槍で貫かれたのだと気づくのには数秒もかからなかった。
セツカとライトがすぐさま武装を構え、ロゼもふたりに続き武装を構えた。
学院長はその反応を見ると
「ほう、なかなか反応がいいではないか。これは思っていたよりも期待ができそうだ」
と笑みを浮かべながら感想を述べる。その笑みはまるで猛獣がか弱い小動物を狩るの如く、いわゆる殺気である。
「あ、あの、みなさん大丈夫ですよ!」
一触即発の空気の中、シャルが声をあげた。
「ほう?」
学院長はまた面白いものを見つけたかのように再度笑みを浮かべる、しかしそこに殺気はもうなかった。
見計らったようにアリス教官がまたパチンと手を叩いた。
「学院長もからかうのはほどほどにしてください、ほらみなさんもそんなに警戒しなくても大丈夫ですよ」
「アリス教官しかしゲン・ロックベルは……」
セツカはそう言って当人、今しがた槍で刺された人間のほうを見ると
「いやその、痛くねえんだけど」
ピンピンしていた。