最強へ
強くないから奪われた。力がないから抵抗できなかった。
だから、最強を目指した。
食料を奪われることが無いように、家族が殺されるようなことがもう起こらないように。誰よりも強くなり、誰にも指図されない存在を目指した。
決して簡単な道のりではなかった。
最強を目指し始めたころの俺は、運営費が心もとない孤児院にいた事もあり、1人で生きていけるような体じゃない。
栄養失調で体はガリガリであり、剣を持つことさえ難しかった。もし、転びでもしていたら、それだけで骨は割れていただろう。
だが、諦めなかった。諦めれなかった。
ネズミのような一歩で……少しずつ最強を目指す日々。孤児院が買収されてから、俺は逃げる事さえ許されなくなったのだ。
「『後に道はなく、進むべきは一点のみ。生涯に理想は無く、幻想もない。ならば、求めよ!! 現実となる最強への道を!!』
【自己投影魔法 覇道】」
最強となるべく求めた魔法には才能がなく……それでもたった一つ、原始的で時代錯誤な魔法と呼べない魔法を使うことが出来た。
その魔法は俺と相性がよく……ひとたび剣を振れば空が割れた。
「保ってくれよ俺の体!!」
最強を目指した5歳から50年間。俺は、様々な場所を旅した。時には、魔獣に侵略されていた国を救い英雄になったり、伝承をかき集めドラゴンを探したり、はたまた強くなるために劇物と呼ばれる魔石を食べてみたりもした。
その集大成がこの戦いだ。
目の前には、この世界で誰にも勝てないと言われている【創造の神 アダス】が俺のことを攻撃してきていた。
「斬鉄流 岩砕き」
アダスは創造の神の名の通り、視界におさまりきらない程の岩を頭上に作り出し、落として来る。……この大きさは岩ではなく山に匹敵するだろう。
しかし、この程度の事に臆する事はなかった。魔法を使っている俺に切れない物はない。
剣が岩に当たると、そこから衝撃が伝わり……真っ二つになった。
アダスはこの攻撃に耐えると思っていなかったのか、新たに創造しようとしていた物の生成スピードがほんの少し遅くなる。
常人なら分かりもしない位の時間だ。だが、その隙を逃すほど弱くない。
今だ落下している岩の破片を踏み場に、アダスへ一気に近付く。その勢いを殺さず、力任せに剣を振りかぶった。
「斬鉄流 鬼砕き」
しかしアダスは優々に避ける。まるで、「その程度」とあざ笑うかのように。だが、この攻撃はアダスに対してではない。
狙いは地面だ。
「オラァ!!!」
「fな字byfはオs???」
アダスの周囲の地面は信者によって展開されていた神域によって、人間に毒になるような物質を放出するようになっていた。
それを地面を破壊する事で無効化させたのだ。
こうでもしなければ、アダスに対して攻撃する事さえ難しかっただろう。だが、破壊してしまえばこっちのものだ。
「斬鉄流 川縫い」
慌てているアダスの肘に剣を突き刺し、関節を砕く。腕が使えなければ創造できない。だが、関節を砕く程度の傷は1秒もあれば治ってしまう。
ゆえに、流れるように剣を足まで持っていき、膝を強打した。
本来であれば、膝も肘も切り捨ててやりたかったが、山ほどの岩を切ったのは剣に負担がかかりすぎたみたいだ。
この剣は、ドラゴンの体の中で生成されていた鉱石で作ったんだが……仕方がないな。
鈍同然になってしまった剣を、地面に倒れこんだアダスのてに突き刺し、腰にかけていた予備の剣を取り出す。
予備とは言え、数打ちではない。
一撃。
たった一度だけでも俺の全力に耐えれるように作ってもらった剣だ。
先ほど使っていた、ドラゴンの剣も俺の全力に応えることは出来なかった。
しかし、この剣には数多の魔法が付与されており、その魔法は一度だけ全力に耐えてくれることを保証したものだ。
そうしている間に、アダスは再生してきている。
攻撃してくるまで刻一刻と秒針は動いている。
だが、この技を打つのに「秒」は必要ない。
「振り下ろし」
毎日行っている、剣を上から下へ振る動作。どんな技よりも、洗練されていた。ゆえに、俺が出来る最大の技は振り下ろす……それだけ。
振り下ろされた剣は神を斬った。その瞬間、神の体は脱力し、光の粉へとなった。光の粉は、風で舞い上がる。
まるで、俺の事を祝うかのように。
「最強か」
この世界に俺よりも強い奴はいなくなった。
これで食料を奪ってくる奴は全員倒せて、家族を守る事も出来る。
まだ体も出来ていない頃から夢見ていたことだ。
夢が叶ったのだ。
「……帰るか」
それなのに、なぜか心にぽっかり穴が開いたような気がした。虚しいとはちがう。悲しくもない。
どんな感情なのか分からない。ただ、一ついえる事は……世界が「簡単」に見える。
いつの間にか刀身が折れていた予備の剣を鞘に戻し、鈍らとなったドラゴンの剣を片手に持つ。
その時だった。
アダスだったものの上から風が吹き乱れ、光が拡散し、世界が爆発したかと思うほどの爆音が鳴り響いた。
何なのかは分からない。だが、なんとなく、感覚的に、俺はそれから恐怖を感じた。
このままではだめと、体が勝手に動く。
鈍になっている剣を握り、切った魔法を無理やり使用した。
「『後に道はなく、進むべき道はみうしなった。求めたのは最強。』
【自己投影魔法 覇道】 」
剣は光へ振り降ろされる。全力ではなくとも、これに耐える事が出来る生物はそうそういない。
なのに、剣は止まっていた。
「よわいんだけど」
「なん……だと」
光が弱くなり見えたのは、剣を片手でつかんでいる……妖精だった。
「神倒したみたいだから来てみたけど……この程度なんだ。最強を名乗るなんておこがましいね」
「誰だお前」
「私? 私の事なんてどうでもいいよ。それよりもあんた最強になりたいんでしょ?」
妖精自身の事は何も分からない。だが、倒さなければいけないと体が言っている。本能が警鐘を鳴らしているんだ。
しかし、倒せるビジョンが思い浮かばない。
「うんうん。その目は最強になりたがってるね! だから、あんたには神を殺せた記念に強くなれる世界に送ってあげる! 特別だよ!」
そう言うと、妖精は開いている手を中で構えた。すると、目の前に先が見えない扉が出現した。
何が起きているのか理解が出来なかったため、一先ず逃げようと後方へ大きくステップした。だが、その扉は俺よりも早く動き、背後を取られた。
直ぐに止まり逃げる方向を変えようとするが……そんな暇なく、扉が突っ込んできて、中に入ってしまう。
「じゃあ元気でね!」
すぐに出ようとしたが、扉が閉まる方が早く抵抗すら出来なかった。だが、しまったのであれば開ければいい。
しかしドアノブを掴もうとした瞬間、真っ暗だったこの場所はドアが消えるとともに、あたり一面緑が生い茂った。
いや、この感じは……どこかに飛ばされたのだろう。
まえに、転移の魔法を使ってもらった時と同じ感じがする。
「どこなんだ」
そう声を出した瞬間100mほど離れた場所から、体を震わせるような大きな足音が聞こえた。
巨大な生物が歩いた音なんだろうが……その音を聞いた瞬間、全身に恐怖がほとばしる。
あの妖精と同じように、俺よりも強い。
すぐに逃げなければ。
だが、逃げようと顔を向けた先には……何かわからない黒い靄のようなものが徘徊していた。俺の体は、そちらにも言ってはいけないと警報を鳴らしている。
なら別の方向に……そう思い、体を向けるとまたもや警報が鳴り響く。
それでようやく理解した。
この森で俺は最弱だと。
一番重要と言われているプロローグの作り方を練習するために書かせていただきました。もし、この後の展開に興味が湧いてくれたのでしたら嬉しいです。