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サバイバル 8

二時間ほど走ると空は茜色に染まり始める。また、野宿だ。食事の後、昨日と同じ要領で穴を掘る。陽が沈みかけるころには、寝床の準備ができ体を休める。薄暗くなってきたばかりで、眠気が来ない。じっとしていると余計なことばかり考えてしまう。今日で四日目になる。廃村を出てからも二日経った。道らしい跡は続いている。しかし、今の恵は、マラソン選手なんて歯牙にもかけないスピードで走り続けている。これだけの距離を移動しても、人里に着かない。何か根本的なところで間違っていないだろうかと疑問が頭に浮かんでくる。廃村から出ていた道は、これだけだったのか?途中で分かれ道を見逃していなかったか?答えのない疑問が次々に浮かぶ。

(だめだめ。こんなこと考えていても良いことない。とにかく決めたんだ。やるしかない)

とにかく眠ろうと。目を瞑る。暫く悶々としていたがやがて眠りについた。

目が覚める。東の地平線はもう明るくなってきている。西には小さな月が白みかけた空に朧な姿を浮かばせている。幸運にも昨夜は魔獣と出会わなかった。穴の中の睡眠は決して快適な眠りではない。体を起こして大きく伸びをする。固まった体に活を入れる。朝食をとる。これで大サソリの肉はおしまいだ。

(とにかく進むよ)

一時間ほど走ると道はカーブして南に向かう。今は信じて道なりに進むしかない。この辺りは土地が肥えているのか、青々とした草原になり背丈も伸びてきている。道が分かりにくい。慎重に道をたどりながら走る。昼は、携帯保存食のナッツと干し肉を少しかじる。とにかく進む。陽がだいぶ傾いてきたとき、魔獣の反応を五つ見つける。相手は気づいていない様子だ、息をひそめたが風向きが悪い。多分見つかる。囲まれては厄介だ。覚悟を決めて臨戦態勢で待つ。先頭の一頭が気付いた瞬間に恵から飛び出す。仔牛ほどの大きさの黒い犬が見えた。

“ブラックドッグ、魔獣、雄、成体、レベル16”

先頭の一頭が恵に向かって走り出すと、他の四頭もそれに続く。タイミングを計り瞬歩で先頭の横に付ける。一瞬ブラックドッグが恵を見失う。その時には恵の短剣が前脚を付け根から切り飛ばしていた。ブラックドッグはつんのめるように頭から地面に突っ込む。他の四頭が恵に殺到するのを見て、後方へ飛んで倒れた一頭を盾にする。それを追って四頭が倒れた一頭に群がる。倒れた仲間にお構いなく、むしろ邪魔者を排除するように爪を立てたり、いや、集まりすぎて仲間に噛みついているものもいる。連携も仲間もない、どの個体も真っ赤な目をしてただ突進してくる。恵は冷静に動きを見極め、先頭の一頭に打撃を与えながら位置取りを変えて、群れの狂乱をいなす。

ほどなく、五頭全てを倒した。

(なんだこいつら。群れていて意味あんの)

残念なことに、肉は食べられないようだ。魔石だけ取り出して先に進むことにする。

食糧は、三等分した携帯保存食の最後の一つのみ。今日の昼は水だけを飲み走り続ける。その後は、魔物に出会うことなく夜を迎えた。今夜も草原で野宿だ。最後の食料を食べて床に就いた。その夜は、危険察知で目覚めたが息を殺していると、魔獣は恵に気づかず遠のいていった。

朝、空腹で目が覚める。食料はない。水で腹を満たし早々に出発する。叢の背丈はさらに上がり、もう恵の肩まで届く。午前中走ると、道は分からなくなった。しかし、ここで引き返しても意味はない。道はその先に霞むように見える森に向かっていた。とにかく森まで進むことにした。日も傾き始めたころ、森はすぐそこまでの距離になった。

今度は、魔力検知に何かが掛かる。魔力操作術をカンストしていると、五感に魔力が感じられるようになる。魔力検知で離れた場所の魔力を感じるときは、囁きに耳を傾けている印象だ。どうも、大サソリは岩陰や砂を被ってじっとしているときは、魔力を漏れないように抑えることができるようで、恵には検知ができず先日のように不意打ちを食らった。今度はなんだ。

剣を構え、魔力を追いながら、流して走る。すると、それは右から飛び込んできて、体当たりをしてきた。体長が一メートル近くある大きなウサギで頭に角がある。構えていた恵は難なくそれを躱して仕留める。

「これ、ゲームで見たことある」

“ホーン・ラビット、魔獣、成体、雄、レベル3”。

「そうそう、ホーン・ラビット。肉ドロップするやつ」

“食用になる”。しかし、肉としてドロップすることはなかった。

「イジメか」

この手の話には鑑定は無反応だ。しかし、恵はウサギなんて捌いたことはない。

(サソリは、エビみたいに尾っぽの殻を剥がして背ワタのようなものを取っただけだったけど・・・せっかくの食料、余すところなく食べたい)

どうしたものかと思っていると。皮剥ぎに始まり、内臓とり、血抜きと解体の手順が頭に浮かんだ。頭に〇キペディアがあるようだ。

(やっぱり鑑定さんは頼りになる)

さっそく解体を始める。哺乳類っぽいのでサソリより来るものはあるが、前の世界だって狩人にとっては当たり前のこと。狩った命は感謝していただく。

(攻撃してくる魔獣だけど)

一メートル近いので迫力がある。もはや内臓が取り除かれ、肉になったホーン・ラビットをウォーターの水で洗いながら血抜きをする。恵のカンストしている魔力操作術のランクであればクリーンでもできそうだが、冷やすことにも意味があるらしい。鑑定の情報は結構細かい。

切り分けた肉、毛皮、角、五ミリメートルくらいの魔石はポーチにしまい。それ以外は、穴を掘って埋める。なんだかんだで小一時間かかり、辺りは茜色に染まってきた。まだ血の臭いがあるので、この場は離れ、森の入り口まで行く。今日はこの辺で野宿だ。暗くなる前に三メートル位の高さに木俣があるしっかりとした木を探し、蔦を見つけて体を固定できるように準備をする。せっかく木があるのだ。穴を掘るのはやめた。レベル3のホーン・ラビットがいるのだから、森の奥へでも入らない限り、強い魔獣はいないのではないかとも思うが、夜は分からない。森は、草原より魔獣の密度が高いようだ。

寝床の準備を終えたので、下に降りて食事にとりかかる。木に背を持たせて座り、ホーン・ラビットの片足を取り出す。足首を左手に持ち、右手を腿にかざす。

「グリル!」

暫くすると、ジュワジュワと油が焦げ香ばしい匂いがあたりに広がる。両面をよく焼いてから噛り付く。サソリに比べれば肉は美味しいのだが・・・

「せめて塩がほしい」

携帯保存食がごちそうに思える。それでも今日一日何も食べていなかったのでせっせと食べ、後はウォーターで作った水を飲む。大きなウサギなので恵は片足だけで満腹になった。他の肉も焼いて、ポーチに収納する。辺りはすっかり暗くなり、星が瞬く。月も出ているようだが、森の木々に遮られ見えなかった。ライトで明かりをとりながら、残った生ごみを埋め、全身にクリーンをかける。そして、用意していた木に登り、蔦で体を固定する。ライトを消すと、俄かに森の息吹を感じる。豊かな森だ。魔力の囁きからは、様々な生き物の営みが聞こえてくる。奥には、大型の魔獣もいるようだ。そして、静かに眠りについた。



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