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お披露目会 3

誤字情報ありがとうございます

一週間が過ぎた。マテオの差配で家庭教師が訪れ受験勉強が始まり、また商会と打ち合わせをし、お披露目のドレスの準備にかかる。お披露目は、昼に行われる正式なガーデンパーティーで、ゴスロリは封印され、胸元が閉じられ、裾を引く長さのローブ・モンタンになる。色は瞳に合わせたブルーグレーでやや落ち着いているものの、同系色の刺繍で大きな花があしらわれた、上品な華やかさを醸し出すデザインである。何れにしても恵の意見は関係ないので、成すがままである。装飾品についてはマルグリット・ブランドがあるので、出発前にアドリヤンにデザインを渡している。エマたちが王都に来るとき持ってきてもらう段取りだ。

ルアンと同じように、メイドをはじめとする使用人の女性たちにメルのカップを渡し、薬が自分の症状と合わないときは申し出るように伝えた。いまは、いきなりご令嬢から話がきて戸惑っている状況だ。

裏庭にあった倉庫の一つを空けてもらい、工房として使うことになった。傷んでいた床などの修繕が終わり、昨日には機材が搬入された。今日素材が届くことになっている。恵がいそいそと機材を準備するのをマテオは苦々しく思っていた。彼の中では、令嬢が行うべきでないとの思いが強い。恵としては、自ら錬金術師ギルドや錬金術工房を廻って機材や素材を見て回りたかったくらいだ。

あの模擬戦後、恵の護衛隊と館の従士との仲は良好だ。彼らの価値基準は単純に強いかどうかで、それ以外の身分、出身、人種、性別は関係ないらしい。模擬戦で認められてからは暑苦しいくらいで、毎日合同で訓練している。特にニコラは、まるで何年も前からの知り合いのように溶け込んでいた。アリスが思っていたように懲らしめる感じにはならなかったが結果オーライだ。

(いや、アリス姉の筋書きを壊したのは私だけど)

また、従士のボケに恵が突っ込みを入れたことは屋敷中の使用人に広がり、恵の前でボケて見せる使用人が続出した。期待の目で見られ、仕方なく突っ込みを入れると、使用人がとても喜んで仕事に戻る。

「メグ様、ちょっとご相談が・・・」

夕食前の時間、帰宅したライアンと居間で寛いでいるとルシィがきた。

「どうしたの」

「それが・・・次にメグ様が訓練を見学されるのは何時かと聞かれていまして」

「次の課題としては装備の充実を考えているけど・・・今そんなに頻繁に皆を見なくても・・・」

「いえそうではなく。ここの従士の方々からの問い合わせです」

「なんで?」

「ですから、先日の模擬戦の・・・」

「リベンジしたいって?」

「いえ、メグ様はどんなボケがお好きかと・・・」

「訓練ちゃうやん!」

「それが欲しいみたいです」

横で聞いていたライアンが堪え切れなくなって笑い出した。

「メグ。最高だよ。あっという間に使用人の心を掴んだね。これまでアディーの話は半部に聞くのが僕の中の常識だったが、アディーの言葉以上なんてほんと最高だ」

「お兄さま笑いすぎです」

「メグ様お得意の自業自得です」

(アリス姉も容赦ない。筋書き壊したの根に持ってるな)

「イザックに聞いているよ。メグに突っ込まれた使用人が周囲に自慢してるって」

イザックはこの館の執事だ。

「・・・疲れる」

「メグは、適当に無視していればいい。今度、僕からも皆に話しておくよ。思わず突っ込みたくなるようなボケでなければ無視されるって」

「お兄さま、それ煽ってるだけですから」

「ライアン様、笑い事ではありません。ここの男衆は調子に乗るものが多ございます。きちんとお話してあげてください」

控えていたメイド長のイネスがたまりかねて声を掛ける。続いて恵に向き直り。

「わてとこのジュスティンヌが巡りものを迎えまして、こいさんから頂いたカップ使わさせてもらいました。えらい飲みやすく効果もあるゆうて。あれは王都でも噂になっておりますが、品薄で手に入っておりませんでした。女子衆のこと気い使こうて頂きありがとうございます」

「お姉さまが辛そうなのを見て、ルシィと一緒に作りました。ですが、これは身分に関係なく全ての女性の悩みです。少しでも皆さんのお役にたったのなら嬉しいです」

「ほんにこいさんはお優しい」

(なんか、こうして土地の言葉で話しかけられるのは、気持ちが温かくなるよね)


地の節季の第六の闇の日は収穫祭だ。街の広場を屋台が囲み、広場中央では市民たちが踊りに興じる。そこは若い男女の出会いの場でもあり、この日は多くのカップルが生まれる。しかし、恵たち貴族にはあまり関係が無い。お忍びで出向くものもいるようだが、上級貴族は屋敷で収穫祭を祝う。今日はほとんどの使用人も休みで街に出ており、屋敷は閑散としていた。夕方には使用人も戻って、今度は屋敷の庭で使用人たちが収穫祭を祝う。この時はどの屋敷でも、主人から小遣いや振る舞い酒が使用人に渡される。

恵は、午前中に教会で司祭の講話を聴き、あとは豪華な晩餐で収穫を祝うだけで、それ以外は普段とあまり変わらずに過ごした。

夜、窓辺で寛いでいると風に乗って、竪琴の音色と使用人たちの笑い声が聞こえてくる。

「メグ様、どうされました」

「何でもないよ。王都の収穫祭はほんとにお祭りだなぁと思って」

「?」

「ガルドノールでは、収穫への感謝って感じがしたんだ」

「あぁ、こちらは暖かく季節感もあまり感じませんね」

「そうなんだよ。収穫祭とかは元々北の地が発祥なんじゃないの?魔法の言葉もだよ。現代魔法として新しく作ったショットもティールと呼ばないでしょう。わざわざトリグランドの言葉を使うよね。魔法も北から来たのかな」

「魔法のことは伝統としか聞いたことがありませんが、英雄王の伝説では、今の帝国からカエルム山脈を越えてきたとなっていますね。建国前にいた場所の行事を同じようやっているとされています」

「ドラゴンが道を示し、ドワーフが助けて山を越えたお話でしょ」

「帝国でも似たような伝説がありますが、そちらは山を越えるのでなく、ドラゴンが建国を助ける話になっていますね。そこでもドワーフが出てくるそうですよ」

「五百年前のドラゴンは、気のいい奴が多かったのかな」

「ドラゴンは力の象徴、王の権威付けとするのが定説ですが、人を助ける強力な魔獣と言えばエルフの森を隣接する魔の森の魔獣から守っているフェンリルがいますね」

「守っている訳じゃなくて、魔の森との境にフェンリルの縄張りがあって、魔獣が超えられないだけって聞いたよ」

「これは、ブロンシュ様がエルフの使者から直接聞いた話です」

「あぁ、お母さまはブクリエウエスト辺境伯のお嬢様だった」

「今でも僅かですが、エルフとの交流があるそうです」

(ドラゴン見たけど、フェンリルは見たことないな。どっちも会いたい相手ではないけど)

魔の森の中には、魔獣が出現する地点がある。魔獣は番で子を生すこともあるが、それ以外に魔素と瘴気の濃い地点では、普通の獣の胎児が魔獣に変化することがある。そのため小さな魔の森の魔獣を殲滅してもいつの間にか魔獣が生息することになる。殲滅後魔素の濃い地点の、木々を伐採したり土地を掘り返したりしても、いつの間にか別の場所で魔獣が発生するイタチゴッコになるらしい。ニゲル、ウンブラ、ノックスの三大魔の森には、レベル80を超える魔獣の出現地点がある。ニゲルには二つ、ウンブラとノックスには一つ有ると推測されている。推測と言うのは現地まで行って確認したものがいないためだ。ウンブラでは南にあると言われているのは、フェンリルの縄張り以北で強い魔獣がいないためだ。エルフの森にも魔獣の出現点は数か所あるが、何れも弱い魔獣しか出現しない場所で、出現した時点で討伐し管理しているため彼らは安心して森で暮らしている。

一方、山岳地帯でも魔の森と同様に魔獣の出現地点があるが、決まって山頂付近だ。そして標高が高いほど強い魔獣が出現する傾向がある。

「こんどお母さまに聞いてみよう」

「メグ様。そろそろお休みの時間です」

「うん。おやすみ」


「ライアン。一息つこう」

「はい、殿下。紅茶を入れ替えてくれ」

控えていたメイドがカップを下げ、優雅な手つきで新しいカップに紅茶を注ぐ。

「で、どうだい。新しい妹殿は」

「それが、傑作な奴で・・・」

ライアンは、笑いを堪えながら屋敷での恵のエピソードを語った。ここは王城の東地区、皇太子アレクシスの暮らす離宮の執務室である。ここでは、決裁権が低い事案の処理、政策の補助を行い、将来の王とその側近たちの訓練を兼ねた仕事場になっている。

「しかし、エマからさんざん聞かされていた印象とずいぶん違うな」

「まぁ、黙って微笑んでいれば、その通りなのですが・・・。ニヤニヤして錬金術の道具をいじっていたり。大人びたことを言った先から、抜けた行動をしてみたりと忙しい奴です」

「あれからも、督促が来ている。王宮に連れてくるように命じろとうるさい。何でもエマから”妹を頼むと”便りを貰ったようでな。”エマの妹なら私の妹でもある”と言って聞かない。流石にお披露目前はダメだと諌めているよ」

「王女殿下は相変わらずですか」

「まぁ、私の将来の妃を、姉と慕ってくれるのは喜ばしい事ではあるが。して、どうなのだ、その捉えどころのない妹殿は、ジラールの報告通りの力がありそうか」

「屋敷でも機密の扱いで力を見せることは無いのですが、先ほどお話した模擬戦で護衛をしているルシィと言う従魔術師の戦いぶりは目を見張りました。相手をしたものは、剣で接近戦もこなす当家の魔術師の手練れでした。詠唱破棄は見せませんでしたが、相手に精度の高い魔法を次々と使い、寄せ付けませんでした。一度はシールドでバッシュをするのも見ました。その時の表情から、手練れ相手に、思わず出してしまったようです。相手をした者には、そのあと私から口止めをしておきましたが」

「ちょっと待て。シールドの実態は、盾ではなく攻撃される物の運動エネルギーを奪うものではなかったのか。バッシュは無いだろう。止めて弾き返すなど行ったら、すぐに魔力切れだ」

「それが、その時使って見せたのは、運動エネルギーを吸収するのではなく、力のベクトルに干渉し逸らしたようです。すると使用する魔力量は大幅に少なくなり、逸らされて体勢が崩れたところで、残りの魔力で弾いたようです」

「戦いの中で、そのような複雑な魔法を使うことは可能なのか?」

「どうやら、ヒールにようにライブラリー化して魔法オブジェクトを組み替えているようです」

「そのようなことが出来るなど、相当の逸材ではないか。それにライブラリーなど研究者が時間をかけて取り組んで作り上げるものだぞ」

「次期領主として有望な若い従士はチェックしていたはずなのですが、マルグリットの護衛になるまでは、名前を聞いたことの無かった者です」

「剣であれば、エリアスやアリスも指導出来るだろうが、魔法だからな。やはり・・・」

「詠唱破棄に魔法の改変、それにルアン・ポーションが加わった魔術師はまさに驚異です」

「目を付けている従魔術師はどうだ」

「既に、二名とも声を掛けております。感触は上々で引き込むことは出来そうです」

「先ずは、ポーションからか」

「父は、領外での生産はまだ許していませんが、エマの護衛の名目があります。殿下かお声を頂ければ王都での生産を開始出来るでしょう」

「分かった。書類は用意しておく。宮廷魔術師候補の引き抜きだ、ユリスからの横槍は入らぬか?」

「ヴォロンテヂュール侯爵はカルの火消しに追われています。こちらに手を出す余裕はないでしょう」

「寄子に頼まれたこととはいえ、自ら押し込んだ者があのような愚かなことを企むとはな。あれも妹殿が関わっていたのだったか」

「はい。陰ではジュリア殿が動いていたようですが」

「ジュリア殿がいるかきり、ガルドノールは安泰でブロンシュの叔母様も心安らかに過ごされると言う訳か。母上もさぞ満足だろう」

「これは手厳しい。父も私も立つ瀬がありませんね」

「お前はよくやっているさ。ジュリアは王家の守りだったのだ、実力は折り紙付きだ。母上も思い切ったことをされたものだよ。しかし、情報は力だ。私も諜報の手勢を何とかせねばな。この手の話はお前に頼ってばかりだ」

「ヴァリーニュ子爵は陛下と王妃様のへの忠誠心が厚いですからね」

「うむ。私が、王家の守りを引き継いだ後も、何かあればレニーは父上や母上に報告するだろう。具体的な行動を起こすまでには何とかせねば」

「嫡男のティモテ殿は殿下に付くと聞きましたが」

「レニーは四十代だ。まだまだ退かないだろう。ティモテが頭首になるのはまだ先だ。アデルにアリスそれとマルグリットが私に付けば進め易くなる」

「私が言うのは何ですが、皆一癖も二癖もある者ばかりですよ」

「それは、それで愉快ではあるさ」

「そういえば、ヴォロンテヂュール侯爵は秘蔵の甥っ子をカルに向かわせたとか」

「ほう、俊英で名高いマリウスをか。まぁ、この社交シーズン中にカルの件の裁定を下すと父上も仰っている。一刻も早く騒ぎを納めねばユリス自身の責任も重くなるだろう。必死にならざるを得ないと言ったところか」

「エリアス卿は今や、カルの英雄となっています。民衆だけでなく多くの従士もエリアス卿を領主にと嘆願が出されるようです」

「ジュリア殿は、さぞ煽っているのであろう」

「それがそうでもないようです。実は、この一件には陰で暗躍しているものがおります」

「ほう」

「以前、ご報告したルアンにスタンピードを仕掛けたと思われる商人が、この件にも一枚噛んでいたようです。ジュリア殿は今そちらに掛かり切りとのことです」

「ユリスの預り知らぬところで、バカを焚き付けた者がいると。しかし関係者が捕らえられたのだ、そ奴らを捉えるのも時間の問題だな」

「それが、うまくいっていません。盗賊たちはその商人には面識がなく、肝心のティラニーの尋問が進んでいません」

「どうしたと言うのだ」

「捕らえられたショックと厳しい尋問のため心が病んだと聞きました。ですが、アデルの見立てでは薬の後遺症ではないかと。気づかれぬように少しずつ薬を与え、性格を歪ませる方法があるのだそうです。しかも、薬が切れると禁断症状が出て、まともな受け答えが出来なくなる。ティラニーは、若い頃から傲慢な性格ではあったのですが、あくまでも常識の範囲内だったといいます。ただ焚きつけられて馬鹿なことをしでしかしたのではないようです」

「しかし、そのようなことは」

「そうです。毒薬に熟練した者でなければ出来ない芸当です。この一件、見かけより闇は深いものかと」


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