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サバイバル 4

寒さを感じて、気づくと夜が明けようとしていた。体がすっかり冷え切っている。幸運なことに、あの後は魔獣の襲撃はなかったようだ。

「寝ちゃったか。でもちょっとスッキリした」

昨夜は無理をして逃げるように走った。改めて体をチェックするが大丈夫なようだ。体を軽く動かしていると体温も上がってきた。

“ステータス”

「大丈夫そうね。昨日HPは2減っていたけど、全快している」

寝たから回復したのか?疑問に思ったら、鑑定が答えてくれた。休息により少しずつHPは回復するようだ。

「スキル増えてる」

剣術1が発現していた。昨夜の攻防の結果らしい。まだ、この世界がどのようなものか分からないが、ゲームと似ているなら、剣は身を守る基本的な手段となる。すぐさま、剣術をランク5まで上げる。テクニックにスラッシュが付いた。昨夜の攻防に何かスラッシュを発現させるきっかけがあったようだ。

「よし」

立ち上がって、岩によじ登り周囲を見回す。魔獣たちの影はない。索敵を使ってみたが大丈夫そうだ。一晩で満ち欠けを変化させた大きい月はすでになく、小さい月は淡い光になっていて西に沈もうとしている。東には朝焼けが広がり、地平に近い雲が輝き始めていた。もうすぐ朝日が昇る。夜中に走ったので気づかなかったが、この辺りは灌木もまばらにあり、背の低いブッシュもかなり生えている。朝の冷えた風が頬を撫でてゆく。

「ん!」

何か見える。かなり距離があるので良く分からないが、左前方に小屋のようなものが三つほど立ち並んでいる。村!

目標は決まった。先ずは朝食。昨晩の保存食の残り半分をゆっくりと食べる。果実の酸味が体に染み渡る。

「出発」

気分が上向いたせいか、なんかできそうに思い身軽に大岩から飛び降りる。難なく着地。中年になり会社も忙しく運動とは無縁な生活だった。しかし、元々サッカー部でストライカーをやっていた。体を動かすことが好きで、運動神経もよかった。体が若返り走り回っていたら、その時の気持ちが蘇ってきていた。

次第に明るくなる草原を、軽快に走る。たいして時間もかからず目標に近づいたが、さっきまでの高揚感が一気に下がる。確かに、集落だった。しかし、人の気配がない。やがて集落に着き、周囲を警戒しながら入ってゆく。五軒の小さな家が寄り集まっていた。土壁で囲われた小屋のような家は、どれも壁の一部が崩れていたり、屋根や扉が抜けていたりしていた。テレビでよく見る昔のサファリの現地村よりは幾何学的な構成だが、使われている素材は自然なもので科学文明があるような感じではない。

集落の周囲には荒れ果てた畑がある。打ち捨てられたのはかなり前のようだ。畑にはブッシュが侵入していたが、よく見ると蔓のような植物が見え、鑑定するとヤク芋とでた。土を探ると子供の握り拳くらいのジャガイモのような芋が三つ見つかった。食用と出たのでポーチにしまう。生では食べられないと思うが、保存食はあと二つしかない。正直これでもありがたい。

五軒が集まる中心の小さな広場に井戸があったが、完全に枯れていた。

一応、家の中も順番に覗いてみる。平らに均した土間の床に、底の抜けたベッド、壊れたテーブル、割れた壺それらが散乱した上に薄っすらと砂が積もっている。何もない。最後に、集落の入り口とみられる位置から一番奥にある周りより少し大きな家に入る。おそらく集落の長が住んでいたのだろう。だが、ここも他の家と同じだった。

期待をしていた反動か、まだ午前中も早い時間なのにどっと疲れて、土間に座り込んでしまった。

「がっくり。どうしよう」

そのまま汚れるのも構わず、体を床に投げ出す。少しの間そうしていたが、気力を振り絞り起き上がろうとしたとき、壊れたベッドの下に何かあるのが見えた。早速取り出してみると、本だった。本は、それほど厚いものではない。開いてみると、質はあまりよくないが、印刷されたものだった。この世界には印刷技術があるらしい。

「困ったときの鑑定さん。鑑定!」

“書籍、ゴブリンでもわかる生活魔法、生活魔法の種類と取得方法が書かれた子供向けの本、アウローラ共通語で記載“。

「おお~。魔法だよ。これ、こっち版のサルでもわかるってやつかしら。アウローラって?」

疑問を意識して考えると、すかさず鑑定さんが返してくれる。“アウローラ大陸、世界に四つある大陸のうち二番目に大きい。王国、帝国など四つの国により統治されている。住民の大半は人族である”。

「生活魔法か。きっと役立つ。何とか読めないかな」

本をじっと見つめる。表紙の文字はタイトルとすると・・・英文法の構成なら。これが“ゴブリン”で、これが“生活魔法”、そして、これが“分かる”とか“理解する”とかの動詞か?本の中身を見る。表紙にあった単語と同じものを二つ見つけた。先ほど推測した“生活魔法”の単語である。

「そうかも。“ゴブリン”はキャッチコピーだから、文中にはないはず」

これでどうだと思いステータスを見るがスキルの発現はない。

(そりゃ、発音も分からないもの無理かな。・・・いや検索が出来るなら・・・って!発音記号が出ても読めないじゃん。・・・でも諦めたくない。・・・あっ馬鹿だ、やっぱあたしおばさんだわ。イメージが古い、辞書じゃダメ。スマホのイメージ・・・おお、発音分かってきた・・・って頭の処理追いつかない。何これ、何これ、頭痛い・・・なにINT?)

思わずINTを10に引き上げた。インテリジェンスをカンストすると、あふれてきた情報の波が凪いでゆく。知識が整理されてゆく。

改めて、本を集中して見ていると、文の構造が見えてきた気がする。やはり英文法のような並びだ。子供向けとして限られた単語と基本的な構文だけ使っているからかもしれない。

そして、ついにランク4の言語学のスキルが発現した。

(始めからランク4!)

付帯するテクニックを見ると日本語、英語、ドイツ語、フランス語、アウローラ共通語と出た。外国語教育が売りの大学を出て、西洋インテリアを買い付けに行っていた恵は、語学に強かった。

「生前の経験のせい?でも発現条件はこっちでの経験?謎だわ」

スキルをランク10でカンストさせると、あら不思議、本の内容が頭に入ってくる

夢中になって本を読む。生活魔法は、種火をつける“イグニス”、少量の水を得るウォーター、対象を清潔にするクリーン、明かり得るライトの四つ。魔法の使い方を見ると、ファンタジー映画や小説の定番通り、魔法発現状況のイメージとの関連性が強いらしい。なぜ何もないところから火が点たり、水が出たりするかは、この際どうでもいい。

(使えることが大事)

そして、こちらも定番通り。魔法は、大気に中にある魔素が取り込まれ、体のへその下にある器官で魔力に変換される。一度に変換できる量は少なく、ちょろちょろとしか出てこない。その魔力を器に溜めておく。魔力を使って魔法を発現するときは、結構な勢いで放出するので、供給が間に合わない。器の大きさがその人が使える魔力量となる。変換量や器は訓練やレベルアップで大きくできる。魔法を使うときは器の中の魔力を感じ、手のひらなどを通して現象に変換しながら放出する。この過程で詠唱がある。生活魔法の詠唱はシンプルで全て“今日の安寧を与えし創造神クロエツィオへ感謝を捧げる”だ。この変換にも、上手い、下手があって魔法効果や魔力消費量が結構違うらしい。子供向けのためか魔法上達の訓練の秘訣は、神々への感謝、親への孝行とある。

夢中で本を読んでいたが、気づくと陽はかなり傾いていた。昼も食べずに本を読んでいたことになる。どうしようか考えたが、夜はまた魔獣が出るかもしれない。先は急ぎたいが今晩はここで過ごすことにする。穴だらけであっても家の中に居るだけで安心感がある。

(そうと決まれば日が沈む前に、破材を集めてきて、崩れた壁をバリケードで塞ごう)

魔獣が来ても“危険察知”があるのでちょっと時間を稼げれば戦う準備はできる。あとは、こもる部屋の土間の小石を除いて少しでも居心地がよくなるように努める。


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