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王都へ 1

誤字情報ありがとうございます

夜明け前から支度をはじめ、空が朝焼けに染まるころには、玄関ホールにメンバーが集合していた。

同行者は、アリス、護衛隊の五人、それと御者のロジェである。彼は、恵がルアンの街を移動するとき御者を務めてくれたことが何度かあった。若いが腕は確かだ。

馬車には、恵とアリスそれにルシィが載り、他の四名はあの大きなダチョウに乗って並走する。

「メグちゃん、私もすぐお母様と王都に行くから、少しの間一人で頑張ってね」

(エマ姉もう眼がウルウルしているよ)

「アリスもいますし。大丈夫です」

「最近は街道で盗賊が出ると噂があるのよ、十分注意してね」

「お母様、フラグ・・・」

「なあに、メグちゃん」

「あっ、いえ。そのようなお話をすると本当のことになってしまうと」

「それを言うなら、”フォルトゥーナに聞こえる”ね。悪戯好きな運命の女神フォルトゥーナが聞いていると言ったことが実際に起こしてしまうのよ」

「メグ様、貴族の間では神話を基にした言い回しが良く使われます。王都でしっかりお勉強いたしましょう」

(藪蛇でした。運命はままならないものだけど、それで悪戯好きにされては、女神様もいい迷惑だよね)

「フォルトゥーナが我が娘に悪戯するとは思えぬが、道中何があるかわからぬ。護衛隊の諸君、マルグリットをしっかり守るように。エリアス卿頼みましたぞ」

「はっ閣下。この身に替えましてもマルグリットお嬢様をお守りいたします」

馬車には、スフォルレアン家の紋章が大きく書かれている。貴族に手を出すとその面子にかけて報復されるので、普通紋章のある馬車を襲う盗賊はいない。

ルアンを出た一行は順調に南下して行く、王都はルアンの街を縦断するロアーヌ河の流域にあり街道は河沿いに走っていて、馬車で十日の旅になる。途中隣接するオクシーヌ男爵領と更に続くペイロワール子爵領を通りテールデグラース王領に入る。

ブロンシュの話していた盗賊は、ガルドノール伯爵領とオクシーヌ男爵領の領境で起こっている。領境は責任の分担が曖昧であり、オクシーヌ男爵は強硬派の筆頭ヴォロンテヂュール侯爵の寄子で、サイモンとは敵対する派閥に属していることもあり、盗賊問題の対応が捗々しくなかった。

挿絵(By みてみん)

街道には馬車を止められる野営地がところどころにあり、野営や休憩ができる。恵たちは点在する町や村、そしてこの野営地を利用しながら旅を続ける。ルアンを出て三日たった。恵たちはガルドノール領の南端に来ていた。ここにある野営地に馬車を止めて昼食を取ることにした。ここからすぐ先は、オクシーヌ男爵領になる。男爵領の領都カルは、領の北の端にあり夕方には町に入れる。この野営地は、領内の端にあることから五名と少人数ながら従士が詰めている。時ならぬ伯爵令嬢の来訪に、従士たちは緊張の面持ちだが、幼い恵が一人一人にたどたどしく労いの言葉を掛けて行くと、その微笑ましい姿に従士たちの好感度が上がる。

「盗賊の噂も耳にした。伯爵家の紋章を掲げた馬車を襲う痴れ者はまずおるまいが、巻き込まれると言うこともある。幼気なお嬢様に万に一つが有ってはいけない。お手数をかけるが、街道筋の情報をお聞かせ願えないか」

騎士であるエリアスが下手に尋ねると、恵へ好感情を持った従士たちは進んで情報を流してくれた。

「詐欺ですね」

アリスの呟きが恵に届くが、恵はニッコリとアリスに笑顔を向けた。

従士たちの情報によれば、旅人が盗賊に襲われる件数は増えていた。しかも、組織的な行動をとり、管轄が別れる領境を使い巧みに逃げ捕まえることが出来ないでいた。

「まぁ、こちらには手を出してこないでしょうが、少々厄介なそうな相手ですな」


昼食を済ませて出発するとすぐに領境にかかる。領境と言っても明確な線引きがあるわけではない。だいたいこの辺り程度だ。

「ルシィさん!分かる?前方よ」

突然の恵の呼びかけに、ルシィは意識を集中させる。

「魔獣では無いですね。人が二十名ほど・・・争っている?盗賊ですか」

恵は頷くと、窓から並走するエリアスに声を掛ける。

「前方、五百メートルほど先で、二十一名が争っています。たぶん盗賊でしょう。急ぎますよ」

「ロジェ、馬車を急がせろ。ルシィは御者台に移動、援護を。ニコラ、リュカ先行して襲われている者たちを救え」

エリアスの指示で臨戦態勢に移る。その中でロジェだけが、”なんで盗賊がいるところに突っ込むんです”と騒いでいるが、それでも、エリアスの指示に従って馬車の速度を上げた。

直ぐに襲撃現場が見えてきた。旅商人と思われる馬車が襲われている。馬車の周りには冒険者と思われる護衛が四名いるが三名は負傷して戦闘が出来ない様子だ、商人風の男も剣を持って出てきているが、既に傷を受けて片腕が上がらない様子だ。その周りを十名ほどの盗賊が囲っているが、今はニコラとリュカが割って入って盗賊たちに対峙している。ニコラとリュカの周りには数名の盗賊が倒れている。加勢の人数が少ないとみて襲いかかったが、返り討ちに有ったと言ったところか。

「メグ様、ちょっと行ってきます。カルの宿で合流できると思います」

それだけ言うと、アリスは走る馬車から飛び降りていた。恵もそれに構ってはいられない、すぐに襲撃現場だ。

「ルシィさん、向こうの木の上」

「承知しています。弓兵が二名。射程に入り次第撃ちます」

「人間相手だからね。加減して」

「メグ様はお優しい」

そして、ショットが打たれる。弾は違わず弓を構える盗賊の右肩を貫く。続いてもう一発。こちらも命中。盗賊はもんどりうって木から落ちる。

その間、エリアスとカミーユが馬車の前へ出て盗賊たちを蹴散らし始めた。これに乗じ、ニコラとリュカ、護衛の冒険者も反撃に転じる。

恵とルシィは馬車を飛び下り、倒れている怪我人の元へ駆け寄る。恵が治療を始め、ルシィが盗賊を警戒し杖を構えているが、もはや盗賊たちはこちらを襲うどころではない。次々と切り伏せられていた。

「殺さないでください。尋問したいので」

直ぐに戦闘は終わった。

(さすが、うちの護衛たち。黙ってたら皆やっちゃう勢い。しかし、私もだいぶ麻痺してきたね。人間相手だと言うのに、動揺が少ない)

結果として、襲撃者は十五名、うち三名が逃走、死亡六名、捕らえたもの六名である。襲われたのは、夫婦の旅商人、護衛の冒険者四名のうち二名が死亡。あの状況では、双方にもっと死者が多いのが普通だが、かなり大きな傷でも敵味方関係なく恵が治してしまった。ついでに足を折られてうずくまっていた旅商人のスレイプニルにもヒールを掛けた。

その様子に、商人と冒険者は目を丸くして驚いていた。

(商人さんの馬車残しておけないでしょう。同じ哺乳類だけあって何とかなった。あれ?身内なのに、ロジェも目を丸くしてるよ)

その場で尋問したが、盗賊は抵抗し一切答えない。他者の目もあり、あまり強引なこともできず時間もないので諦める。手早く死体を埋葬し、盗賊はカルの従士団に引き渡すことにして出発した。

「ニコラ、先触れを。カルの従士団に事情を伝え受入の準備をお願いしてくれ」

「了解」

ルペンと名乗った旅商人は、恵がガルドノール伯爵家の令嬢だと知るとしきりに恐縮し、恵が宥めることになった。

「民に何かあれば、守るのが貴族の務めです。お気遣いなさらぬように」


カルには、日が傾きかけたころ到着した。カルは街道筋で活気はあるが、人口は一万五千人ほどの小さな町だ。ここも同様に、高さ四メートルの壁に囲われ、周囲には畑が広がっている。

門には、既にカルの従士が集まっており、ニコラと出迎えてくれた。

「ガルドノール伯爵が次女、マルグリットにございます。ここに控えますは我が従者達、そちらは不幸にも盗賊に襲われた旅商人の方々、そして、この者たちが盗賊にございます」

「これは、ご丁寧なごあいさつ痛み入ります。カル従士団の小隊長を務めますコムです。盗賊六名確かに引き取りました。一つお願いがございます。護衛の方々から襲撃の一部始終をお聞かせ頂けませんか」

「承知しました。ただ、私もこれよりオクシーヌ男爵にご挨拶に伺わねばなりません。供回りを連れぬわけにも参りません。護衛隊の隊長であるエリアス卿とこの二名を残します。それで、ご容赦願いますでしょうか」

恵は、ニコラとリュカにエリアスと共に残るよう命じた。

「結構です。では、領主の館への案内に、この者を付けます」

コムに指名され、若い従士が緊張した面持ちでこちらに来てぺこりとお辞儀をする。

「ご配慮感謝いたします。エリアス卿、後は頼みました」

「承りました。ルシィ、カミーユ、お嬢様をしっかりお守りするように」

カルの従士の先導で、恵の載る馬車はゆっくりと町中を進んでゆく。メインストリートを暫く南に進むと広場のある十字路にぶつかり、そこを東に曲がるとオクシーヌ男爵の領主館があった。ガルドノールと違い役場と領主館は別になっていた。

門番に訪いをいれる。従僕の伝令を向かわせたが、中に招く様子は無い。

「・・・」

ロジェが何かを言いたそうにしている。通常の対応では考えられない。継承権のない次女とはいえ、上級貴族の子女が訪ねているのだ。しかも、予定された旅程で先駆けがこの時期に訪れることも知らせている。門前で待たせることはありえない。

暫くすると、ティラニーと名乗る執事が従士数名を連れて現れる。執事が来たということはただの使いでは無い、仕方なく恵は、門前でそのまま対応することとした。

「ガルドノール伯爵が次女、マルグリットにございます。マロ・ルーファン・ド・オクシーヌ男爵へのお目通りと、カル滞在のご許可を頂きに参りました。こちらは、父サイモンより預かった品々でございます。お納めいただけますようお願いいたします」

執事は手土産を受け取ると横柄に言葉を返した。

「男爵は、不在である。滞在の許可は与える故、お引き取り願おう」

「おのれ・・」

「控えなさいロジェ。オクシーヌ男爵には良しなにお伝えください。では、失礼いたします」

馬車に戻ると、ロジェはティラニーの無礼な態度を詰ったが、恵は彼を宥め予定していた宿へと向かわせた。

宿には、既にエリアス達が待っていた。事情聴取は早く終わったようだ。エリアスに対応させて正解であった。騎士の身分を持つ者に滅多な対応は出来ないからだ。だが、聞くと被害にあった商人と冒険者はいまだに詰所に留め置かれているとのことだ。

(かわいそうに。疲れているだろうに)

アリスはまだ戻っていない。

「エリアス卿、ニコラ、リュカ、お疲れ様でした。私も疲れました。明日は、遅く立つことにします。今日は、ゆるりとしましょう。今宵は、皆自由に過ごしてよいです。ただ、夕食後に、明日の確認をしたいので私の部屋に来てください」

一瞬、護衛達がハッとした顔をするが、小さく頷いた。日は傾き始めたばかりで夕食にも早い時間だが、早々に解散させる。ロジェは”良いのですか”と言ってくるが、恵は黙って宿の部屋向かう。実は、今の恵の発言には、護衛達だけが分かる符丁が含まれていたのだ。

ロジェ、ルシィ、カミーユは恵と一緒に宿の部屋に向かうが、男たちは着替えると早々に町中に出かけて行った。


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