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お嬢様の暮らし 8

「ねぇ師匠。ちょっと聞いてください」

目標としていたメルのカップが完成し、今のところ恵の錬金術のテーマは無いのだが、習慣的に恵はガスパールの工房に通っている。ガスパールは、これまでの一連の作業でのまとめや、納得しきれていない工程の再検証に余念がないが、恵はだらけ気味だ。先ほどから作業テーブルに突っ伏すようにしながらガスパールの作業を見ていた。令嬢の恵がこんな格好をできるのは、自室かここぐらいである。

「何でしょう。お嬢様」

ガスパールも慣れたもので、作業を続けながら恵の受け答えをしている。

「鑑定なんですけど、疑問に思っていることがあるんですよ」

「私は鑑定持ちではないし、詳しくは無いですよ」

「でも師匠は魔法の理論とか詳しくて、仕組みを解き明かしたりするじゃないですか」

「解き明かしている訳ではないですよ。きっとそうだろうと私が思っているだけで。でもそういうことを考えるのは楽しいですね」

「じゃあ、ちょっと聞いてください。私の考えではあるのですが、鑑定には二つの側面があって、一つは見ている現象や物の分析で、もう一つは知識です。この二つは密接な関係性はあるのですが。その中の知識についてです。鑑定って、使う側の能力も問われることがあるので、百パーセントこうだとは言い切れないんですけど」

「使う側の能力?ランクのことですか」

「あっ、いえ。えぇと。鑑定をするときは、何を知りたいか考えてやるんですよ。これをやらないと、ものによっては余計な情報が溢れ出してかえって知りたいポイントが分からなくなるんです。それで、知りたいポイントを絞って鑑定するんです。でもそうすると、聞かなかったことは教えてくれない訳です。そこに重要な情報があったとしても。魔力薬の生成を調べるときも、魔力を鑑定していて、僅かに含まれる魔法化されたのもを見逃したじゃないですか」

「とても面白い話ですね」

ガスパールは、作業の手を止めて、恵に向かい合う。

「だから、単に私の見方が悪かっただけかもしれなんですけど。私自身の印象では鑑定の内容って変化している感じなんです」

「それは、お嬢様の鑑定ランクが上がったとかではなくてですか」

「ランクが上がるとより深い鑑定が出来ますが、私の鑑定ランクはずっと変わっていません。実は先日、ルアン・ポーションのろ過で使用したトレントの炭をもう一度鑑定したとき、スライムの受容体と反発する成分が含まれる情報があったんです。試しに炭にする前の樹皮も鑑定したら同じ情報がありました。元々、トレントの樹液を保存液で使うことから結構トレントは鑑定してたと思うんですけど、以前にはそういう情報はなかったなと思って。前からちょっと変わったかな、見たいなことはあったんですが。この時は結構ガッツリ変わったなって思いました」

「ほかにどんな事があったんです?」

「えぇと、それまでは“そう言われいている”みたいなものが“そうだ”と決めつけるようになったり、ですかね」

「なるほど・・・」

「それに、鑑定はギフトと言われてますよね」

「えぇ、知恵の神サピエンティアからのギフトとされていますね」

「そう、それも分からないんですよ。何で神様の知恵なのに“通説”みたいな出方したり、変わったりするのか?そういえば鑑定でもいい加減なものもあるんですよ。単に“雑草”としか出なかったり。薬草とかなら名前だけじゃなく効能まで出るのに。なんか神様っぽくないんですよ」

「そして、トレントの樹皮は、その特性の説明が付け加わった・・・」

「鑑定ってなんか変ですよね」

「・・・鑑定のスキルの枠組みは神様が作ったようですが、中身は神様じゃないかもしれませんね」

「どういうことです?」

「今までのお嬢様のお話を総合すると、鑑定は人々の英知の結集ではないかと・・・」

「???」

「つまり、例えば、皆がそうじゃないかと思っているだけだと“通説”になりますが、きちんと検証したこと、若しくは人々が真実だと強く思うと“定説”になり、誰かが新しい発見をして認められると新しい説明が付け加わる・・・と言ったところでしょうか」

「あっ。何か分かります」

(人の頭の中の情報が、勝手にアップロードされるけど、特定の人しかダウンロード出来ないインターネットみたいなもの?そういえば検索もできるよね。初め、頭の中にウィキ〇ディアがあるみたいとか思ったけど、鑑定さんは人々の脳のネットワークから情報を引き上げてくるチャット〇PTなの?・・・でも他人の考えは読み取れないみたいだし・・・アップロードだか、ダウンロードのコンプライアンス・コードは神様謹製ってこと?)

「ステータスの名義変更も同じようなシステムかもしれませんね。人々の認知度上げたり、公的に戸籍登録されると確定しますから。ただ、先程のトレントの樹皮の話は違いますね。お嬢様が知ったため、お嬢様の鑑定だけ付記されたか、それなりに検証して裏付けをとったので事実として認定されたからか、いやお嬢様が鑑定内容の変化にお気づきになった時期によりますね・・・」

「つい先日ですね」

「では、契約した業者たちには、伝えていますのでそれで認知されたのかもしれません。こんなところでしょうか?」

「それって、検証する方法はありますか」

「戸籍への登録が認知されたことと同じであれば・・・公的なものに・・・少しお時間を頂けますか。時間が出来たので進めていることがあります。その時に分かるかもしれません」

「何ですか。それ」

「トレントの樹皮が何故スライムの受容体を退けるのか調べています。お嬢様の鑑定が無いので試行錯誤でやっていますが、その前にかなりヒントを頂いていますので、通常の研究に比べたら大したことはありません。もっとも、その試行錯誤が面白いのですが。それで、これかなと思うものがあって、検証に入ろうとしています。お嬢様にはその内容はお伝えしないので、王都に着いた頃に鑑定なさってください」

(やっぱり、師匠の探求心を止めることは出来なかった。でも、試行錯誤の苦労が面白いって・・・やっぱ病気?)

「分かったことは、錬金術ギルドの機関誌に投稿するつもりなので・・・そうですね、社交シーズンにお館様が王都に着いたときにもう一度鑑定なさってください。始めの鑑定で情報が加われば、検証され事実認定されても鑑定の情報に取り込まれると言えます。それがだめなら、やはり人々の認知が条件と言うことで分かるのではありませんか。しかし、お嬢様のことですから、真理を解き明かすばかりではないですよね。何か、お考えのことがあるのですか」

「さすが師匠。よく私のことを分かっています。うまくいったら面白いことが出来るかもしれません」

恵は、にんまりと笑った。

(インターネットってことは、通信手段にも使えるってことだよね。まあ鑑定持ちがいないと送受信ができないけど・・・皆が認知すれば離れたところの情報得られるってことだよね)

「例えばですね。この領館の表玄関には毎日たくさんの人が来ます。そこに、大きな文字を書いた垂れ幕を下げると多くの人が見ますよね。それを私が、離れた場所から鑑定で検索したら、その文字が読めませんか」

「面白いです。実験して検証したいですが、規模が大きく、実験に関係する方にお嬢様の鑑定能力を開示しないといけなくなりそうで、お館様から許可が頂けないかもしれません」

「我儘な令嬢が、変な事させているでいいんじゃない」

「それはそれで問題かと思いますが、ただ何気なく垂れ幕を見るのではなく、注目させて書かれた文字を意識させるでは、認知の強さが違うように思います。ステータスの名前の確定の例からすると、戸籍登録した時点では、登録された内容は人々に知られていませんが、皆が認めている戸籍に正式に登録されたとの事実で認知と判定されているように思います。垂れ幕にも意味を持たせないと認知の判定になるか疑問がありますね」

「・・・でも、例えば登録されたその日に役場で火事があって台帳が焼けてしまったらどうなるのかしら・・・」

「それを言ったら、その昔、周囲の人々に名前を伝えて認知してもらっていましたが、その直後に災害があって地域の人々が亡くなるようなことも無かったとは言えません。その辺りの“認識された”とする判断の基準は、それこそ神のみぞ知るでしょうか。でも、お嬢様のそのような発想は素晴らしいと思います」


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