お嬢様の暮らし 5
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朝の訓練と午前中の錬金術以外は、ブロンシュ、エマと過ごす。ただ、エマは次々に来るお茶会の誘いで忙しく外に出ることが多い。相手はルアンにいる寄子、有力な商人の婦人や令嬢たちだ。社交シーズンでは無いのだが、誰もエマの婚約の話しを聞きたがっていた。食傷気味のエマは、最近では恵の同行を願ったが、さすがにお披露目前なので、ブロンシュが諌めているが不満顔だ。
恵が、今ブロンシュが準備を進めているお茶会の話題を出すと、エマは笑顔に戻って話に乗ってくる。来節季の始めに、近しい寄子の夫人と子女を集めたお茶会で、非公式に恵を参加させるものだ。そのとき身に付ける恵の装飾品がさびしいと、この後出入りの宝石商が来ることになっている。
どのようなものが恵に似合うかと話に花が咲いているうちに、宝石商の来訪を告げられ、皆で応接に移動する。
ブロンシュとエマが意見を交わして選んでゆく。今回は、子供向けのネックレスとブローチである。恵みの髪の色に合わせた白いドレスで行くことになっているので、装飾品は瞳の色のブルーグレーを基調にしたものにする。少し地味だとか可愛らしさが足りないとか、ブロンシュとエマは宝石商に力説している。
宝石商の持ってきた、アクセサリーはヴィクトリア調でこの国では伝統的なデザインらしい。アンティークとして価値が出そうなデザインだが、エマの目には古臭く見えるようだ。
上級貴族は伝統的なデザインを重んじるので、外すわけにも行かず、宝石商も苦労している。ちょっと小太りの宝石商は、平身低頭で汗を拭きながら対応していた。
(まだまだ寒い季節なのに、結構汗かいているね。宝石商のオッチャンも大変だね)
伝統的デザインで花とかをあしらったものをブルーグレーの宝石に織り交ぜ、白のドレスと合わせて清楚なイメージで何とか話は纏まる。
(いいのか、こんなに高そうなもの用意して)
当事者のはずの恵は、傍観者のように眺めていたが。宝石商の雑談のなかで、ブロンシュの誕生日の話がだされ、新しい宝石を勧める営業トークが展開されていた。
宝石商が下がり、恵はエマと二人になったのでブロンシュの誕生日の話をした。
「そうなの。そろそろ準備しなくてはと思っていたの」
そこで恵は、一緒に相談して用意したいと提案したところ、エマも乗り気になり夕食後エマの部屋で相談することになった。
夕食までの間、恵は工房に寄ってガスパールにブロンシュのプレゼントについて思いついたことを確認した。
「ポーション作りで、魔力パターンの変換に魔石から漏れ出した魔力を利用していましたよね。あれって、人か無意識に発散させている魔力でも出来ますか」
「原理的には出来ますが、微々たるものですよ。呼び水は本当に僅かなもので良かったし、魔石なので小さくても漏れ出たものでもそこそこ使える量が出ますから」
「別にすごいことを考えている訳ではないの。数秒に一度、キラッと小さな光りを出すとか・・・」
「それくらいなら、小さなクズ魔石をつけて、蓄えて放出すれば何とか成りそうですが、条件としては身体から少しでも離れると機能しないでしょうね」
「それは、大丈夫」
「何をするんですか?」
「師匠には特別に教えてあげる。ネックレスとかペンダントの宝石を光らすのです」
恵はちょっと自慢げにガスパールに話す。
「はぁ・・・」
(師匠、何言ってるのこの子は見たいな顔しないで)
クズ魔石の大きさや魔法陣の概要について確認した。
恵は、羊皮紙に今話した魔法陣を特殊なインクで書き、その上にポーションづくりで魔力を抜いたクズ魔石を数個魔法陣に置いて手を近づける。魔法陣に指先が触れるほど近づくと、魔石の一つが一舜キラッと光った。数秒待つと別の魔石がまた光る。どうやらうまくゆきそうだ。これを装飾品の小さな台座に書き込まなければならないのが難儀だが、ガスパールによると宝石商は魔石を使った装飾品の魔道具を扱っていて、指輪やブローチの台座に魔法陣を彫り込む職人を抱えているのでそこに頼めばいいと教えてくれた。
「それと、師匠。私の護衛やっている従士でルシィと言う従魔術師がいるのだけど、師匠の魔術理論を聞きたいって言っているの。会って頂けますか。彼女、今魔法のことで悩んでいて何か解決のきっかけがあればと思っているのです」
「・・・その方・・・お嬢様の期待に応えるのは大変ですよね。私も経験していますので何かお役にたてるでしょう。闇の日の午後なら構いませんよ」
(師匠!なぜ、私の話になるの?なぜ、そんな経験してるの?私も話を横で聞いていようと思っていたけど、なんかいちゃまずそう)
恵は肩を落として工房を後にした。
夕食後のエマとの相談で、装飾品を光らせる話を持ちかけ、先程の試作品を見せると、エマは乗り気になった。プレゼントはブローチとなり、恵が台座の仕掛けを、エマはメインの宝石を用意し、デザインは恵が提案しエマに決めてもらうこととなった。予算について心配だと恵が話したが、エマのお付メイドのアポリンヌから、子供用の予算があり、その中で賄えば問題ないと言われた。
(上級貴族って宝石を普通に買えるほどの予算を子供に出すのね。常識が違いすぎるわ)
話しの中で、エマの誕生日を聞いたところ、光の節季、二の週の光の日で過ぎたばかりだった。恵はエマに何もしていなかったことを詫びた。
「何言ってるの、王都から帰ったときに刺繍を貰っているし、何よりメグちゃんが家に来てくれたことが、最大のプレゼントよ」
(さすが聖女様、泣けること言ってくれる。そうだ、エマ姉の分もサプライズで作っちゃおう)
次は逆に恵の誕生日を聞かれたので転移した日を答えると。
「もう直ぐじゃない。お母さまより早いわ。メグちゃん何か欲しいものはないの」
「美味しいケーキがたくさん食べたいです」
「まぁ。食いしん坊さんね」
(この体になったのだ。甘いものは解禁だ)
ブロンシュには内緒にするため、次の闇の日のボランティアの帰りに二人で宝石商に寄ろうと相談をしていたら。控えていたアリスとアポリンヌから待ったがかかった。この話をサイモンに先にしろという。
「そうでした。ギルドへの登録をしませんと」
恵の答えに二人が頷くが、エマは分かっていない様子だ。
アポリンヌは、光る装飾品は、ポーション作成後に廃棄される空になったクズ魔石で出来るので、通常の魔道具と違い、貴族の子女、裕福な平民でも手が届くので売り物になるとエマに説明した。
「つまり利権が発生するのです。そのためギルド登録をしなければなりません。もし、煩わしいなら独占権を宝石商に与え自由にやらせロイヤリティーだけ受け取れるように命じればよいのです」
(お姉さまは、とてもすごいことを聞いたような顔をしている。お姉さまの天然は筋金入りだ)
明日の夕方、サイモンの執務が終わったころ二人で突入することにしてその日の相談は終わった。
恵は、部屋に戻り、アリスにも自室に戻らせた後、一人でもう少しましな試作品を作ろうと、作業を始めた。魔法陣を再構築して小型化し羊皮紙に書き、それを切り取ってクズ魔石を周囲に張り付けていった。完成したときには夜更けを過ぎており。翌朝、寝不足で、アリスに叱られた。
サイモンから許可をもらった翌日、錬金ギルドで光る装飾品を登録にでかける。付き人には副執事のマテオがいる。これはサイモンの手配によるものだ。
今日の登録は、先日と違い市民に交じっての登録だ。発明者は、エマと恵の共同と言うことにした。カスパールにも声をかけたが、辞退された。そのときのガスパールの言葉に“一瞬光ると言うのは、何の意味があるんですか?”とあり、彼からは魔道具認定すらされてなく、登録とはずいぶん酔狂なことをすると言われてしまった。
登録も順調に澄んだ。マテオの手際の良さもあるが、領主一家であることは分かっている様子で、審査に入った錬金術師二名からも特に指摘もなく終了した。
今朝のエマは、大変気合が入っている。今日は闇の日、世間は休みだ。だが恵とエマは、これから教会に行き領民に対してヒールを使って治療奉仕を行う。教会の普段の治療があるので無料と言う訳に行かないが、格安で行われる。二人の収益は当然教会に寄付される。
エマの気合いの原因は、恵に良いところを見せようとする意気込みと、ルアン・ポーションである。これまでは従来のポーションを二本用意していたが、今日は三本になっている。
ボランティアの治療は順調だった。途中、治療に連れられた子供が、治療する恵を見て、小さい治療師さんと言い出して、恵の治療を受けたがった。
「じゃぁ、お姉さんが治してあげましょう」
腕に包帯を巻いた子供は、辺りをきょろきょと眺めて。
「ここには、お姉さんいないよ」
「・・・私が・・・」
「嫌だな、小っちゃい治療師さんの歳は同じか下でしょう。でもすごいなー、同くらいの年で、こんなこと出来て」
(いやいや、あなたどう見ても八つか九つでしょう。転生後のあたしより年下だって。・・・背は私の方が低いけど)
恵は、笑顔を引きつらせながらヒールを掛けていた。
その様子を横で見ていたエマが、治療されている子に声をかけた。
「あら、私も聖女様ではなくて普通の治療師よ。でも、私が聖女様ならメグちゃんは、かわいらしい聖女様じゃないの」
「エマお姉ちゃんは、治療だけじゃなくてお菓子もくれるしやっぱり聖女様。メグちゃんは、私たちと一緒にお菓子貰って食べてるから治療師さんだよ」
(何その基準)
ボランティアの帰り、予定していた通り宝石商に寄る。交渉事があるかもしれないと今日もマテオがお付として同行してくれている。宝石商は先日恵の装飾品を頼んだ小太りのアドリヤンだ。彼は、恵の説明と光る魔石のサンプルを見せると、前のめりになり是非独占でやらせてほしいと言ってきた。案の定交渉事が発生したのでマテオに丸投げしたが、なんと彼は相場より多い八パーセントの利益還元と、今回のブロンシュ用のブローチも宝石商持ちと決めてしまった。
恵は、エマが選んだメインのエメラルドの周りを、透き通った小さなクズ魔石で囲み、その周りをプラチナ細工のアールヌーボー調の蔦が取り囲むデザインと魔法陣の図柄を提示した。アドリヤンはデザインを見て問題なく作成できると請け合ってくれた。
さらにエマが席を立っているときを見計らって、隠していたもう一つのデザインを渡し、エマに送るために内緒でもう一つ制作を依頼した。こちらは、葉と蔓のデザインで葉にはいくつかの小さなエメラルドと魔石で埋められている。料金を払おうとしたら、アドリヤンは“お姉さま思いの優しいお嬢様のために私めがご用意させていただきます”と受け取らなかった。
ただ、アドリヤンは恵の用意したアールヌーボー調のデザインにいたく感心して、同じようなモチーフを作ってよいかと尋ねてきた。恵は、ブロンシュとエマのデザインと同じもの作らないならば問題ないと了承したが、横からマテオ待ったをかけた。
「それらを、マルグリット様ブランドとするとして奥様にご相談ください」
「それは良いご提案を頂きました」
アドリヤンは乗り気になった。上級貴族と提携しているようにするのは商人にとってもメリットは大きいのだ。
(おい、おまえたち、前世のデザインをまねたものだから私ブランドにしたら怒られるよ)




