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お嬢様の修行 5

理屈に無理がありますが、勘弁ください。

社交シーズンになると、町は閑散とした。この時期は、王都に殆どの貴族が集まるので、裏側の情報収集も盛んになる。

(結構な人数が王都に行ったみたい。この町は、そういう町だよね)

時間が出来たので(うるさく言われないので?)、錬金術に力を入れることにした。

ガスパールは恵が熱心なことが嬉しいらしく、指導にも熱が入った。さらに、実技実習に入ると、鑑定を使い最適解を求めて試行錯誤する恵を見ると、かなり突っ込んだ理論を展開し始めた。錬金術スキルが発現し、ポイントを振ってランクを上げたこともあって、理論的なことは苦手な恵でも、鑑定を組み合わせて実践すると、ガスパールが何を言いたいのかが分かるようになってきた。

ポーションが開発される前は、魔石を使っていた。魔石は魔獣の魔力で満たされているが、人のものと異質なためそのままでは使えない。そのため一度魔石の魔力を空にして、その後人の魔力を充填して使う。予め魔石に魔力を貯めておき、いざというときそれを引き出す方法だ。マジックバッグの充電池もこれと同じものだ。ただ、魔石は本来魔獣の魔力に最適になっていて、人の魔力では全体量のほんの一部しか使用できないらしい。魔力量を確保するには、大きな魔石が必要だが、強い魔獣の魔石は貴重で高価なため、一般の冒険者は手が出せない。

そこで、魔獣の魔力を人が使えるものに変換できないか研究が行われ、同時に入手しやすい小型の魔獣の魔力を集約する研究が進められた。

なお、魔道具は魔獣の魔力パターンに合わせて作れば、再充填は出来ないが、魔石の魔力を余すことなく使うことが出来る。スクロールの帯に付いていた魔石もそれだ。あのSSS級のスクロールについていた魔石は直径が五十センチメートルぐらいあった。それを一気に使い切ったのだから、とんでもない魔力量を使う魔法だったのだ。

ガスパールの話では、魔力は操作者の意志により様々な現象や干渉を引き起こすことが出来るエネルギーだが、同時に物質と同じような性質も兼ね備えたものらしい。そして物との相性があって、よく馴染むものと弾くものがある。親和性の高い物で有名な物質はミスリル鋼で、殆ど通さない物質がアダマンタイト鋼とのことだ。魔力斬で習った通りだ。これは、何も金属や鉱物だけでは無く他の物質や液体でも同じことが起こる。

ポーションは、その特徴を利用して抽出液と呼ばれる魔力と親和性の高い液体を使い魔力を溶かし込み、更に濃縮する。そのままでは、時間が経つと魔力は抜けてしまう。そこで保存液と呼ばれる魔力と排他性の高い溶液を混ぜ魔力が抜けないようにするのだが、両者を混ぜるために、親魔性と疎魔性の両方の受容体を持つ活性剤を加える。

(この辺の説明になると、師匠は止まらなくなるよね、私が付いて行っていないことも気付かないし。講義と言うよりもはや語りだね)

ポーションの制作過程は、まず屑魔石を砕いて砂粒状するところから始まる。抽出液を通して魔力を抽出する。抽出液には洞窟ネズミの髄液を使う。実際の抽出は、砕いた魔石を焼結体が底にある筒の中に入れ、その下に抽出液を入れたフラスコを置く、魔石を収めた筒とフラスコの間には枝別れした通路があり、魔石を収めた筒の上部につながっている、さらにその上部は二重構造で外側に水を流して中を冷やせるようになっている。フラスコを温めると抽出液は蒸気となり、枝別れした通路を通り冷却部に行き冷やされる。蒸気は液体に戻り魔石に滴下する。そこで魔力が溶け出し、フラスコに戻る。蒸気化した抽出液には魔力は含まれないので、この循環を続けると、フラスコ内に溶けだした魔力の濃度は上がってゆく。

この抽出のとき、魔石を置いた筒に弱くていいので特定の魔力を与えると、抽出される魔力もそれに合わせたパターンになる。この作業が、ポーションの魔力パターンを決める。この呼び水となる魔力は、魔法陣で発生させるが、そのエネルギー源は抽出されずに周囲に漏れ出した魔力を使っている。

この方法が確立してから、ポーションの制作効率は大きく改善されたのだが、実はこの漏れ出した変換前の魔力を利用する構造はガスパールが学生時代に研究していたテーマであった。

(まあ、師匠の説明に力が入るわけよ)

フラスコに残った魔力を飽和濃度まで凝縮した抽出液は、保存液と混合する。保存液は魔法耐性が高いトレントの樹液を溶かして使用する。更に、スライムから抽出した活性剤を加える。

これを撹拌しながら一定温度で加熱し、抽出液を完全に気化させる。後は冷ませばポーションは完成である。

ガスパールの示した方法で使用した設備は高価で、小さな錬金術師の工房では手が出なく、まだまだ昔ながらのやり方で作られている。それは、一つの鍋に抽出液と魔石を入れて、魔力を掛けながら煮詰め、さらに活性剤と保存液を入れて煮切きり、後は冷やしてから魔石の残りを濾して完成させる。呼び水とする魔力は微量でよいので、魔力変換の魔法陣を使い平均的な魔力にして流し込むが、大抵は抽出液で煮ているときに助手が横から注ぎ込む。すべてが手作業で品質の斑が起きやすく、また魔力を注ぐ担当の魔力回復を待つため量産がし難い。


改良の取組は、毒と”えぐみ”がどの成分に起因しているか特定するところから始まった。

これは、簡単に済んだ。素材と工程での変化を一つ一つ鑑定して行けばすぐに答えが出た。

毒は、抽出用の溶液に不純物として含まれていた、洞窟ネズミの髄液に元々微量に含まれているが、この不純物は熱を加えても気化せず、濃縮され残ってしまっていた。

これは、洞窟ネズミの髄液を精製する際に一度蒸留することで取り除くことが出来た。

”えぐみ”の原因は、保存液と活性剤が加熱されることで出来る生成物だった。当初、保存液や活性剤を置き換えることを検討したが、人が安全に摂取できて性能が維持できる素材は簡単に見つけることは出来ない。そこで、”えぐみ”の成分だけを取り除くことにした。

まず、灰を溶かして”えぐみ”の成分を吸着させてろ過する方法を試した。結果は、”えぐみ”の成分の除去には成功したが、活性剤と結びついた魔力も灰に吸着し魔力量が下がることが分かった。飲みやすいがB級品質では成功とは言い難い。温度条件や吸着させる時間などを振ってみたが捗々しい効果は無い。

恵は、活性剤の基はスライムだが、トレントはスライムへの耐性が強いことを知り、トレントの炭なら活性剤と結びついた魔力を吸着しないのではと単純な発想で発言した。始めは難しい顔をしていたガスパールだったが、行き詰った状態でもあり物は試しとやってみたところ上手く行ってしまった。

「さすがお嬢様、まいりました。このような閃きは研究者として大切な資質です。早速に、何故選択性が生まれたか調べましょう」

上機嫌で話し始めるガスパールに、恵は慌ててそれを止めた。

(いやー。気を付けないと師匠はすぐに研究モードに入るから。次の改善や発展に基礎研究が大事なのは解るけど、現在の目標から外れてしまうよ。私は、うまく行けば何でもいい主義なのだ。まぁ、この性格は美咲さんから”仕事が早いのは良いけど、重要なポイントは押さえておかないと痛い目見るよ”と言われていたけどね)

後日談になるが、ガスパールはこの理由をきちんと解明し錬金術ギルドの機関誌に論文を寄稿した。

「あのときは、本当にお嬢様の閃きに感心しました。私はそれが無く、よくエタンにからかわれていました。寄稿した論文にエタンが賛辞を送ってきたので、お嬢様と共同研究した話をしてやりましたら、たいそう悔しがっていて愉快でした」

ガスパールは楽しそうに話していたが、エタンとはアカデミーの卒業論文で因縁のあった子爵の三男だったエタン・ランペール準男爵のことだ。当時エタンも親が親友に行った行為を知り、親と絶縁し謝罪をしてきた。一時期はさすがに気まずかったものの、今でも気の置けない友人関係が続いていた。とてもガスパールらしいと恵は思った。

とにかく、ポーションは一応の完成を見たが、恵はそれに満足せず。果実フレーバーを加えて更に飲みやすくする工夫を行った。さらに、瓶にも手を入れる。ポーションの瓶は、保存効果を高めるため、トレントの樹液でコーティングするが、瓶に予め蔦模様の掘り込みを入れた。掘り込み部の色はコーティング剤が溜まり濃くなる。スリムな琥珀の瓶にこげ茶の蔦が絡まる上品な仕上がりとなった。

「お嬢様。何か意味があるのですか」

「可愛いでしょう」

「はぁ・・・」

「大切なことです」

「はぁ・・・」

ガスパールには、理解を得られなかった。

こうして、社交シーズンが終わる前に、目的のポーションは出来上がった。当然、女性用に調整されたものだ。


社交シーズンが終わり帰宅したジュリアに、教師陣と恵は、留守の間の報告をする。恵は満足そうに錬金術の成果を報告し、ジュリアも頷いていたのだが、座学関係の授業の進捗が捗々しくないとの報告が、教師から出始めると雲行きが怪しくなった。錬金術の成果は素晴らしいが、それにかまけ授業が疎かになったと教師が締めくくると。ジュリアはたいそう良い笑顔で恵に言った。

「そういえば、マルグリット。あなた、エマ様に出来上がった刺繍を差し上げる約束をされたそうね。エマ様は、たいそう嬉しそうに私にお話しされましたよ。社交シーズンが終わり領館に遊びに来たときには貰えるに違いないと仰ってました。マルグリットよろしいわね」

俄かに血の気が引くのが分かった。

(そうだった。課題の刺繍はほっといたままだった・・・)

恵は、ステータスの高さにものを言わせ、徹夜を続け、週末までに課題の刺繍を完成させ何とか間に合わせた。だがその後は、テルニーヌを立つまでの最後の半節季の間、錬金術は禁止となり。夕食後の時間も全て座学の補講に当てられ、一日中、訓練と勉強漬けの毎日となった。

「自業自得」

アリスは、いつもの冷静な口調で一言だけ感想を述べた。


「まあ、何とか形にはなったはね」

テルニーヌを立つ前夜、恵の教育成果についてジュリアはため息をつくように締め括った。

「教師の皆さま、母様、大変お世話になりました・・・」

恵は、精魂尽き果てた様子で、皆に礼を伝えた。

「アリス姉、これからもよろしくお願いします」

「メグ、これからもよろしく。明日から、“メグ様”で通しますから」

「二人だけのときは、今まで通りでいいよね」

「いえ。このようなことは日頃から徹底しておかなければなりませんので」

(実に、アリス姉らしい回答)

「明日は、旦那様と私も同行します。伯爵家への養子縁組の手続きを行い、サイモン様と今後のあなたの身の振り方についても相談します。今日は早く休んで、明日に備えなさい。・・・それと、正式にはサイモン様のご判断になりますが、あなたの作ったポーションは、伯爵家のマルグリットとして登録しようと思います」

「登録ですか」

「あら、ご存じなかったの。正式に発明品として管轄ギルドに登録し権利化すると、十年間はそのレシピで制作された商品の利益の一部が発明者に還元されます。その発明者の名前を、養子縁組後の名前にすることにします。これは、あなたにとっても良いことなのですよ」

ジュリアはこの半節季、出来上がった試作品のポーションについていろいろと確認し、有用と判断したらしい。

「発明は、師匠・・・ガスパールとの共同開発と言うことでよろしいのですよね」

「ガスパールからは辞退すると言ってきています」

「それはいけません。ガスパールの知識と努力なしにはこの成果はありませんでした」

「・・・そうね・・・その方がいいかもしれないわね。この件は、私からサイモン様にお願いし、ガスパールは私から説得します。それでよろしいですね」

「はい母様。お願いいたします」

恵は、自室に戻るとベッドに飛び込むように身体を投げ出した。

(明日は、ここを発つのね、半年か・・・あっという間だったわ。でも充実してた。少しはスキルもついたしね)


名前 メグ

種族 人族

性別 女

年齢 11

レベル 140

賞罰 なし

ステータスポイント 3

スキルポイント 35

HP 114/102(+12)

MP 120/120

SP 102/102

STR 7(+2)

AGI 10

MND 10

INT 10

DEX 10

VIT 7

LUK 3

鑑定術 7 分析、検索、鑑定隠蔽

走術 5 ダッシュ、瞬歩

探査術 5 索敵、危険察知

剣術 8 スラッシュ、魔力斬、見切り、いなし

魔力操作術 10 魔力感知、魔力分析、魔力操作、詠唱破棄、魔法創造

魔術 8 生活魔法(+グリル)、ストーン、ショット、ミディアム・ショット、ビッグ・ショット、ヒール、エリア・ヒール、シールド、ホーリー・シールド、身体強化

語学 10 日本語、英語、フランス語、ドイツ語、アウローラ共通語

隠形術 5 消音、気配遮断

体術 1

投擲術 1

錬金術 5

算術 4

経験値増(大)

スキルポイント取得増(大)

魔力消費軽減(大)

魔力回復増(大)

状態異常耐性(中)

魔術具 剛力の短剣(STR+2)、大喰らいのポーチ


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