表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
169/171

帝都の変 6

キームヒス湖に浮かぶ帝都ゼーシュタットに通じる唯一の陸路に立ちはだかる城門では、門を護る第二騎士団と大公軍の押し問答が続いていた。この場に及んで言い逃れのような門番の対応に、ヘルマンの心は定まった。

「この期に及んで子供のような言い訳をするとは。城はまだ落ちて無いものと見た。だが陥落も近いようだな。よし、力押しに出るぞ。皆の者掛かれ」

大公軍は、一斉に城門に取りつく。寡兵の第二騎士団は、城門を乗り越える大公軍を抑えることが出来ず、さしたる時間を掛けずに城門を開かせる。

「よし、進め。残るは島側の城門のみ。このままの勢いで帝都に突入するぞ」

「おおー」

強行軍の途中で脱落したものもいたが、精強を誇る大公軍四百八十六騎は、ゼーシュタットへ通じる道を怒涛のように押し寄せる。島の城門からは、散発的なショットや矢しか放たれていない。ここも、時間を掛けずに落ちるだろう。


「ようやく、第一騎士団は排除できたか。良し行くぞ」

皇帝の籠る部屋の制圧の知らせが届き、ヨハネスは笑みを浮かべて立ち上がる。すると、別の伝令がヨハネスの下に飛び込んできた。

「殿下、城門が破られ、大公軍が帝都になだれ込んでまいりました。城にも間もなく到着するものと」

「レヴォルテはどうした。市街には反乱分子どもを潜ませていたであろう。それに下級貴族の私兵もいたはずだ」

「あのような烏合の衆では精強な大公軍には敵いません。しかもあ奴らの半数は、最前より市街で凌辱に走っているありさまです」

「使えぬ奴らめ。もうよい、城を固めろ。父上は我が手に落ちた。体裁を整えるので、時間を稼げ」

「御意」

「行くぞ。それで、姉上もいたのか」

「いえ、部屋には見当たりませんでした」

「落ち延びたか。探せ!三つある脱出路の出口は教えた通りだ。脱出路には入るな、トラップがある。出口で捕らえろ」

「はっ」

ヨハネスは、ヘンリーの居室に向かう。城の通路には、兵たちの屍と血だまりが至るところにあり、むせるように血の臭いがこもっている。ヨハネスは強張った顔をしながらも、躊躇うことなく歩を進めた。

「父上、ご機嫌麗しく」

「このような状況で、機嫌が良いわけが無かろう」

部屋には、ヘンリーと彼を支えるように、アントンとフランクがいた。護衛騎士たちは、殺されたのか、捕らえられたのか、既にこの場にはいない。

「父上が悪いのですよ。ドラゴンの祝福を失ったまま、始皇帝のように武威も示せず指をくわえておられた」

「確かに余の治世にも非は有ったろう。だがヨハネスよ、そなたの行動に大義は無い」

「そのようなものは、必要ありません。この国の秩序は私が作り直しましょう。ちょうどヘルマンが来ています。父上の口から私が皇帝に指名されたとお伝えください。私の民になる者が不用意に減るのは好ましくありません」

「もう皇帝気取りか、そなたがそのように振舞うは、片腹痛いわ。育て方を誤ったの。幼き頃のお前には、たしかに才があった。愛しておったのだ・・・お前がこうなってしまったのも余の責任であるな。愚かな父と思うだろう・・・許せ。ヨハネス、最後の教えだ、もっと己を知れ。さらばじゃ。”ベノム”」

「陛下!」

アントンとフランクが支えるが、ヘンリーは頭を垂れてこと切れた。

「つまらぬ真似を。もう良い。皇帝は死んだ。私が、いや余が新たなアードランド帝国皇帝だ。布告を出せ。ヘルマンにも伝えよ。武装解除して謁見の間まで来いと」


「ふむ。陛下を害したか。やることが雑すぎる。武装解除の必要はない。そうだな、一つ揺さぶってみるか」

ヘルマンは、大胆にも城門に近づき、布告を発した第二騎士団に向かい大きな声で語りかける。

「おい、お前たちもマチルダ様が立太子になる噂があったろう。それを嫌い、布告前にヨハネス殿下が戦争騒ぎを起こして有耶無耶にしたと。陛下がお亡くなりになったからと言って、そのままヨハネス殿下が皇帝になって良いものか?マチルダ様はどうした。よもや、マチルダ様にまで手を掛けたのではあるまいな。どうなのだ」

「いや、マチルダ様は、ご無事のはずだ」

「なら何故姿を見せぬ」

「このような戦の最前線に現れることがあろうはずがない」

「いや違う。マチルダ様は、同胞が傷つけ合うのを座して見ている方では無い。危険を顧みず我らを諌めにお出になるはず。ここに、マチルダ様が現れぬのが、ヨハネス殿下に大義のない証拠である」

「そのような詭弁を」

そう言いつつも、城を護る第二騎士団に動揺が伝わってくる。

「さすがマチルダ様。帝国の良心の二つ名は、伊達では無いな。所詮下の者には都合の良いことしか伝えていないのだ」

ヘルマンは、味方に振り向き、鼓舞するように叫ぶ。

「このまま城を落として、血塗られた剣を持って、謁見の間に赴くぞ。皆の者、あと一息だ」

それでも、城は簡単には落ちなかった。皇帝を追い詰めていた騎士たちも加わり始め、護りは固くなる一方だった。

「まずいの。さすがに五百では厳しいか。膠着状態だな」

「後続隊の到着は、後半日ほどかかるでしょう。兵も疲れております。本格的な攻めはその後かと」

「しかたない。交替で休みを取らせる。城内の兵達の休憩所の位置は分かっている。そちらにも火矢を射掛けろ。第二騎士団の奴らには休を与えぬようにしてやれ」

「お人が悪いですな。閣下」

「なに、これも布石だ。疲労させて奴らの士気を落としてやれ。ここに後続隊をずらりと並べたときのあ奴らの顔が見ものだ」


「おい。ここで良いのか」

「間違いない。しかし、外れであってほしい」

「何を言う。皇女殿下を捕らえれば褒美は思うままと言うぞ」

「正直、陛下の治世には思うところはあった。しかし、マチルダ皇女殿下のなさったことは、何れも民のためになっている。俺は、皇女殿下に剣を向けたくない」

「気持ちは分かるが、滅多な事をいうな。団長を始め第二騎士団の上層部は、皇太子殿下についている。我ら騎士団員とて粛清されるぞ」

「ん!何だ、今大きなものが空を飛んでいたようだが」

「なにを寝ぼけたことを言っている」

「いたぞ」

そのとき、前方の一団で声が上がった。


「あっ。ボートがありません」

「ここにも手が廻っていたのでしょうか」

マチルダ達、コーンブルームの面々は脱出路を通り、城の西側の湖畔にたどり着いた。しかし、そこにあるはずのボートが無い。これでは湖を渡って逃げることが出来ない。いや、例えボートがあっても逃走は容易ではないようだ。見ると湖面には灯火をともし哨戒する船が何隻か見える。

「とにかく外に出ましょう」

「いたぞ」

声が届いた。

「待ち伏せだ。皇女殿下をお守りしろ。殿下は先へ」

「しかし、ボートがありません。このままでは追いつめられるばかりです」

「最後まで、希望を捨てるな・・・それがクロエ王女殿下の言伝でしたね。我らは、この身に替えても最後まで皇女殿下をお守りします。さあ先へ」


「どう、見える」

「今日は月が出てねぇからな。東の空が少し白みかけちゃいるが、下はまだ暗くて・・・」

「もう少し、ゆっくり飛んで」

「おぉ」

「メグ様あそこ」

「何処、あっ。なに、追いつめられているじゃない」

「湖と城壁に挟まれて逃げ場が無いですね」

「どう、あそこに降りられそう」

「ちょっと狭いな。それに、あの人数は乗せきれねぇ。マチルダって小娘一人なら何とかなるが、引き上げている時にやられるぞ」

「逃げ場が必要ですが、ボートも無さそうですし・・・」

(如何しよう・・・何かいい方法は・・・考えろ、考えろ・・・)

「そうだ!ルシィさん達は突っ込んで時間を稼いで、私が逃げ場を作る。ビカス君、ドラゴン二頭は、マチルダさんが戦っているあそこに向かわせて、そこでルシィさん達を降して。ドラゴン達は威嚇だけにさせて。暴れたら被害が大きいから。私たちは、ここから離れて湖の真ん中まで引き返すよ」

「何するんだ」

「取って置きを使う」

「???」

「良いから急ぐ」

「ったく、古龍使いが荒い奴だな」


「なっ、何だ」

「ドラゴン」

「まさか」

夜明けの星の瞬きを隠すように、マチルダを追いつめる兵士たちの頭上をドラゴンの影が覆う。兵たちが、一斉に慌てふためく。

「何か降りてきた・・・。うっ」

「どうした。あっ・・。敵!」

「おらおら、どうしたお前ら。数ばかりのでくの坊が」

ニコラが大剣を振り回し、帝国の騎士たちを斬り伏せてゆく。

「ニコラ。突出しない。マチルダ様を護りなさい」

「なんだ。こいつら何処から来・・・ぐわっ」

「あ、あなたはルシィ殿」

「エミーリア殿、お久しぶりです。お味方いたします」

「今、ドラゴンから飛び降りました?」

「はい」

「・・・」

「あなたは、聖都で護衛隊長をされていた」

「ルシィです。マチルダ皇女殿下。お怪我はございませんか」

「私は大丈夫ですが、護衛達が斬られて怪我を負っています・・・」

「殿下。私達は、まだまだいけます」

フィオナが強気に応えるが、辛そうだ。

「我々が、支えます。下がってください。ヒールします」

ルシィの言葉を聞いて、恵の護衛達が前へ出る。攻め入る第二騎士団が一斉に引く。恵の護衛達の力量だけではない。突然現れたドラゴンに騎士たちの動揺が広がっていた。

「おまえら、しっかりしろ。ここで、皇女殿下を逃したら俺たちが皇太子殿下に粛清されるぞ」

「しかし、ドラゴンが・・・」

隊長らしい騎士の言葉にも、騎士たちの反応が鈍い。ルシィ達も、守りに徹しており、打って出てこない。僅かだが小康状態が生まれる。

「見ろ、ドラゴンは威嚇するばかりで襲ってこないではないか。マチルダ様の護衛も疲れている。後は、あの冒険者たちだけだ。ドラゴンの気が変わらぬうちに皇女殿下を捕らえるぞ」

第二騎士団は、息を吹き返し再び激しく攻め始める。

「くそ、お嬢の配慮が裏目に出やがった」

「ぐずぐず言ってないで、しっかり守りなさい。メグ様の剣と豪語するお前の見せ所でしょう」

「言われるまでもねえ」

「ニコラさんにばかり、良いところをもって行かせませんよ。守りなら僕のほうが得意です」

ニコラとリュカは、並み居る攻め手をもろともせず一歩も引かず抑える。

「助けは有難いですが、ここは逃げ場がありません。数で押しつぶされるには時間の問題です」

一時の動揺から戻ったマチルダは、冷静に現状を捕らえている。

「退路は、メグ様が作ります」

「どうやって」

「さぁ。でもメグ様が口にされたことですから、我々は信じて待つだけです」

ルシィはエミーリア達にヒールを掛けながら、平然と話した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ