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帝都の変 5

「とうとう、決起したか」

「今朝のようです」

「よし、行くぞ。ヨハネスの度肝を抜いてやろう」

「皇太子殿下もこれほど早く我らが動くとは思っていないでしょう」

ヘルマンは、決起が起こったとする狼煙や光玉での合図を決め、街道沿いに伝令を潜ませていた。単純なイエス、ノーを伝えるだけならそれで十分だ。リレー式にそれを繋ぎ、決起の情報をいち早く得ていた。更に、軽装のオルニトミムス部隊五百を何時でも出撃できるよう準備してある。オルニトミムスを使い潰すつもりで全速で帝都まで駆けるのだ。

ヘルマンは、早々に騎乗する。

「後続部隊は、お前に任せる。出来るだけ早く来てくれ。牽制だけでは済まぬだろう。たぶん直ぐに始める」

「承知しました。お任せください」

「時間が全てだ。遅れる者は置いて行く。日付が変わる前に帝都に着つくぞ。総員出動!」

掛け声とともに、五百騎のオルニトミムスは地鳴りのような音と土煙を纏いながら、帝都に向けて出撃した。

挿絵(By みてみん)

夕食を前に一息ついていたカルロスに、恵が来訪した知らせが届き、彼は早々に坑道の入り口に向かった。あれ以来、広場の往来が可能になりドワーフ達の暮らしは元に戻り、皆の顔に笑顔が戻った。カルロスは笑顔で恵を出迎えたが、彼女の表情を見て息をのんだ。

「カルロス様、至急の用件でアトゥル様にお願いがあり参上しました。ビカス殿はいらっしゃいますか」

「ビカス様は、広場に居られる。ご案内する」

恵は、型通りの挨拶もなく来意を告げるが、カルロスもごく自然にそれに応えた。恵は移動しながら理由を告げる。

「帝国で内乱ですか・・・」

「はい、強硬な姿勢を見せていた皇太子殿下が、皇権を奪おうとしているようです」

「・・・昔から人族の中には、背が低いだけの理由で我らが人族より劣っていると考える者がいる。強硬な皇帝が立つとその考えが助長されそうで、あまり気持ちの良いものでは無いな・・・」

「巻き込まれている、知人を助けに行きたいのです」

「それは・・・いかにも奥方らしい」

広場は、半分ほどが解放されドワーフが往来し、奥の半分にビカスが休んでいた。見るとその奥を更に広げようと工事も行っている様子だ。ビカスの周りにはドワーフの子供が数人屯している。

「ビカス君、おひさ」

「おう、メグか。久しぶり」

「あ、人族だ。ビカス、お前の女か?」

「そんなんじゃねえよ。客が来たから、お前らあっち行け」

「ちぇ、また明日来てやらぁ。じゃあな」

「もう来なくていいぞ。しっしっ」

ビカスは、前脚を子供たちに向けて、追い払うように振るう。

「へぇ。人気者じゃん」

「そんなんじゃねえよ」

口ではそんなことを言っているが、ビカスも満更ではないようだ。

「奥で工事してけど、あんたここに住み付くの」

「なんか居心地良くてな。カルロスもいいって言ってるし・・・。ところでどうした」

「アトゥル様にお願いがあって来たの。帝国で反乱があって、私の知っている人が危ないの。私たちを急いで帝都まで連れてって欲しいの」

「この人数か・・・」

「そう」

「親父だけじゃ無理だな」

「うん。だからビカス君にもお願いしたくて」

「まぁ、メグの頼みじゃしょうがねえな・・・」

「有難う」

「だが、ひとつ言っておく」

「何?」

「俺は、男は乗せない」

(何こいつ)

「私ならいいでしょう!」

「えぇ〜。メグか~。アリスさんなら歓迎だけど・・・」

「アリス姉、こいつ殴っていい」

「殴るのは、全て終わってからにしましょう」

「まぁ、乗せるのは御免だが、男でもお前の護衛達とアクセルは認めているぞ。アクセルは、力はねぇが、度胸はある。何よりあいつは気持ちのいい男だ」

「そっ、そう・・・殴るのは許してあげる」

「メグ様、チョロイです」

「ビカス君、私とアリス姉をドムス・デイに連れ行って」

「あぁ。乗れよ」

「カルロス様。私の護衛隊を帝国側の出口まで案内して頂けませんか」

「承知した」

ビカスは、恵とアリスを乗せると、大きく翼を広げる。ビカスの体長は、三十メートルほどだが広げた翼は体長の倍近くあり、直径百メートルはある広場が狭く感じる。その翼に魔力が込められる。翼の表と裏で気圧を変えているようだ。やがて、静かに体が浮かび上がり始めた。三十メートルほど上昇して力強く羽ばたくと瞬く間に夕暮れの空に昇って行った。


闇の節季のドムス・デイは、氷に覆われた極寒の地だった。防寒具を付けていても寒さが侵入し、恵たちは身体に魔力を巡らせて体温が奪われるのを防いでいる。

「おぉ、メグではないか。よく参った」

「メグちゃん。お久しぶり」

「アトゥル様、シーラさん。ご無沙汰しております。アトゥル様、腰の具合その後は如何ですか?」

「お陰様で、絶好調じゃ。有難うな。それで今日はどうした」

「実は、帝国で反乱がおこりまして。友人を救うため、急ぎ帝都ゼーシュタットに向かいたいのです。お力添えを頂けないでしょうか」

「・・・ふむ」

「その友人は、嘗てアトゥル様が祝福を与えた始皇帝の末裔でして・・・」

「そうか。お主と、その・・・アリス殿だったか、二人で行くのか」

「いえ、あと六名。私の護衛が同行します」

「八名か。あの時の面々じゃな・・・」

「駄目でしょうか」

「ビカス。お前が連れてってやりなさい。ドラゴン二頭もつれて行けば運べるだろう」

「おっ、おお」

「日頃の訓練の成果、見せてみい」

(ビカス君、ちょっと戸惑っている?)

「帝都の場所分かるの?夜間飛行になるよ」

「俺を、誰だと思ってるんだ」

「引きこもりの古龍」

「こっ、この野郎。よし、俺の凄さを見せてやる。びっくりこいて座りしょんべ・・・」

ガキ!

「痛って~。殴んなよかぁちゃん」

「女の子に、何て口きくんだ」

「メグだぜ~」

「立派な女の子でしょう」

「ビカス君に任せるよ。ドラゴン達をしっかり使役するところ見せて」

「おお。任せろ」


夜も更けてきたが、クロエの部屋では明かりが灯され、セリアとステラも詰めている。

「状況は、良くないようですね。皇帝陛下の部屋に反乱軍がなだれ込むのも、時間の問題のようです。マチルダ皇女殿下は、クロエ様への感謝と別れの言葉を書いてきています」

「そうか・・・。メグたちは?」

「ビカス殿に乗って帝都に向かっているようです。夜明け前には帝都に着くだろうと」

「さすがだな。マチルダ様に、メグが向かっている、最後まで希望を捨てるなと伝えてくれ」

「承知しました」


「どうした、父上を捕らえたか」

占領した皇城の一室で待機しているヨハネスとリーヌスの下に伝令が駆けつける。

「いえ、そちらはまだ。実は、島への入り口の城門に大公様の軍が現れました」

「何!もう来たのか」

「それで、城門は?」

「大公様の軍は、軽騎兵が五百ほどで城門を開けよと迫っています。今にも攻め込む勢いです」

「父上の命で私が帝位についたと伝えろ。今、帝都は混乱しているので暫し待てと言え」

「良いのですか。争っている気配は伝わっていると思いますが。兵は、城に回していますので、城門の寡兵では力押しで来られると抑えきれません」

「構わぬ。今の優先は父上を捕らえることだ。何を言っても構わん。とにかく時間を稼げ」

「はっ」

伝令の兵士は、すぐに立ち去る。

「何処から情報が漏れたのでしょうか?慎重に進めていたのですが・・・。大公様の屋敷を見張っていた者は、事が起きてから伝令が飛び出したと言っていました・・・。決起のタイミングは漏れていなかったと思われたのですが」

「来てしまったものは、今更どうこう言っても始まらん。父上を捕らえることを急がせろ」

「御意」


「マチルダ。もうここは長く持たん。隠し通路は知っておろう。お前は落ち延びよ」

皇帝の部屋にも、分厚い扉を通して争う音が聞こえるようになってきていた。部屋の外では、第一騎士団が最後の抵抗を試みているに違いない。

「お父様は、如何されるのです」

「余はここにいる。いずれにしろ、あ奴の目的は皇帝の玉座じゃ。余がここにおれば、お前は逃げることが出来よう。こうなってしまっては役に立つとも思えぬが、あの日に発表する予定であった、お前を立太子とする勅命と皇帝の証たる玉璽を持って行け」

「お父様・・・」

「さぁ行け。時間がないぞ。エミーリア、フィオナ。マチルダを頼む」

「はっ、この身に替えましてもマチルダ様をお守りします」

エミーリアとフィオナは、片膝をつきヘンリーに騎士の礼をとる。

「マチルダ皇女殿下。さあお行きください」

宰相のアントンが、部屋の奥にある隠し扉を開き、マチルダを促す。

「皇女殿下に精霊のお導きとドラゴンの祝福があらんことを」

フランクが、隠し通路に入るマチルダたちに声を掛け、隠し扉を閉じる。

「さらばじゃ。我が愛しき娘」

ヘンリーの呟きは周囲の者の耳には届かなかった。


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