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贈り物を開く 1

恵たちが王都に戻ったのは、社交シーズンの始まる直前であった。既に、多くの貴族がそれぞれの領地から王都入りをしており、街には社交シーズンの賑わいがある。恵たちフルール・ド・リス女子会の面々も、会談の成果の報告書を作成し留守中の確認をまとめたら、各自の王都屋敷に戻ることになっている。

これから始まるのは、王妃ルイーズを招いての報告会だが、留守中の報告もありリラやパトリシアも顔を出している。彼女たちは、王妃、皇太子妃、王女が揃って参加しているので、緊張して部屋の隅にいる。実は、今日の会議には特別なイベントがあった。帝国皇女マチルダより、アニカが無事検索スキルを習得したことが渡した通信板に書かれており、この後、筆談会議を行うことになっていた。

マチルダとの会議の前に、聖都での会談についてと留守中の王都の状況について情報を共有する。

「その後、聖都の騎士団にこちらで捕らえた実行犯のシスターを引渡し、アデルが突き止めた犯人グループのネストの情報提供を行いました。しかし、彼らは信用できませんでしたので、保険の意味でこれらの情報をベニート枢機卿に別で伝えておきました。枢機卿も探ってくださると仰っていただきました」

「良い判断ね、教会は過激派がいることは隠したいでしょうから、正規の報告ではろくな情報は来ないでしょう」

聖都での報告が終わると、留守中の活動内容が報告された。

「えらい申し訳ございませんが、スライムの吸収剤を使った生理用品の量産は遅れてます」

リラは、小さな声で済まなそうに報告した。スライムの吸着剤を使った生理用品の開発はとても順調に進み、試作品を試した女子会のメンバーの評判も良く、すぐに量産することになっていたのだ。

「なんで、あれは凄く良いものよ」

「リラさん頑張って。優先的に進めようって言ってたじゃない」

「いつものパワーはどうしたの、リラさんらしくない」

メンバーが口々にリラに問いかける。

「ううう・・・、お前らが、サンプル作る端から持っていくのがアカンのやろ!外注に渡すサンプルが無くて仕事進まんのや!うちら平民は、お貴族様にクレ言われたな断れんのや!・・・はぁはぁ」

(うわ、リラが切れた)

「そうなのですか?皆さん」

(うわ、皆一斉に目を逸らした・・・姫様まで!)

「あなた達・・・」

「「ごめんなさい」」

「リラさん、申し訳ありませんでしたね」

「いやいや滅相もないです。王妃陛下。頭をお上げください・・・」

「分かりました。あなたの仕事を理不尽な理由で邪魔をする者には、私の名を出して拒否することを許します。後で証書を送りましょう。リラさん頑張ってくださいね。期待しています」

(うわっ、黄門さまの印籠だ)

「はっ、かしこまりました」

(なんだかんだ言って、王妃様もスライムの生理用品に期待してるんだね)

続いて、パトリシアからの報告がある。

「私の方は相変わらず、メルキオール様のメモのような報告書とお話から、農業教本の製作をしております。麦に関する農業改善方法、荒れ地開拓の方法、スライムの粉を使った荒れ地の土壌改良方法については、皆さんが聖都に立つときにお渡しし、今は水田に関する農業改善方法をまとめています。また、これまでの実施事例の分析からメルキオール様の農業改良を行った際の、単位耕地面積当たりの収量増加予想と、それに掛かる必要経費、効果的な実施手順については先日王妃陛下に提出し、今期社交シーズンでの会議に提案して頂くことになっております」

皆パトリシアの報告に深く頷いている。

(そうなのだ、予想通りパトリシアさんは非常に有能だった。しかも、さっきまで緊張してブルっていたのに、仕事モードとなると落ち着いて報告してる)

「堂々としたもんやな、パトリシアはん」

「いやだ、リラさんやめてよ。貴方なんか王妃陛下に頭下げさせてしまったじゃない」

「それは、言わんといて。仕事の席で切れるなんてうちもまだまだや」

リラとパトリシアは互いに仕事が出来る者と認め、また女子会の中の平民同士とあって急速に仲が深まっていた。

その後、ステラからジュエ商会の収支報告があり、順調に売り上げを伸ばし利益を上げていることが伝えられた。また、先行して出来上がっていた農業教本も印刷の段階に進み、農業改革提案の議会通過に合わせて農民ギルドへの配布が出来ると見通しが報告された。更に。カドー計画のための物資調達も予定通り進んでいるとの事だった。

(さすがステラ、一緒に聖都に行ってたのに、仕事が回るように段取りしてたんだね。部下や下請けを使って仕事を進めるのはメンバーの中で一番うまいかもしれない)


「クロエお姉様、そろそろ時間です」

「おお、そうか。よし、連絡を入れてみてくれ」

『マチルダ様、ごきげんよう』

参加者、静かに恵の次の反応を待つ。

「つながりました・・・マチルダ様は今、船でアストラ山脈の沖合を航行しているとのことです」

「皆さんお元気かしら」

「ちょっと待ってください。”こちらは、全員無事王都に戻りました。皆様お変わりありませんか”と」

「・・・お付のイェシカ殿が船酔いで寝込んでいるほかは、皆さんお元気だそうです」

今回は、まだ帰国の途中で時間も立っていなく新しい情報は殆ど無いが、今回提供された情報や知識は大変役立つものであると感謝された。恵たちがマジック・バッグで提供したものは以下のとおりだ。

・検索スキルの発動条件とその訓練方法(但し、この書類はアニカが習得したら直ぐに焼却破棄を求めている)

・フルール・ド・リス女子会の会員の証しの指輪、及び、定款

・通信板、及び、その取扱い方法。恵とセリアが持つマチルダとの会話用専用の通信板のアドレス

・メルキオールとパトリシアのまとめた、麦の農業改善方法、荒れ地開拓の方法と荒れ地に適した作物をまとめた教本。

・スライムを使った土壌改良剤の作成方法、使用方法、及び、そのサンプル。

・スライムの吸収剤を使った生理用品の作成方法とサンプル。

・各病状、生理症状毎のメルのカップの魔法陣一式。

・ジュエで取り扱っている商品の作製方法とサンプル。

権利が付きまとうものは国が違うので問題は無いのだが、マチルダが作成、販売することの許可を与えた書類も入れておいた。あと、こちらからの依頼として、カエルム山脈のドワーフの情報提供をお願いした。

そして最後に、マチルダが独自の資金源を作り、広く民のために活動することを期待するとしたメッセージを加えておいた。

マチルダは、帰国したら早々に恵たちに倣ってコーンブルーム女子会を立上げ、提供された知識を生かしてゆきたいとした。

(女子会、流行ってるな・・・)

特に、生理用品関係でサンプル品を使用したとき感動し、帝国でも直ぐに生産すると、最大級の感謝の言葉が綴られていた。これには、こちら側の出席者全員が大きく頷いていた。

その他の情報としては、このところの帝国の状況、特に皇帝と皇太子の関係性をかいつまんで説明があった。

また、あの襲撃の後に帝国大使館に戻ると、全員が無事であったことに皇太子ヨハネスは大変驚いていたと伝えた。そして、アニカの参考意見としたうえで、ヨハネスは皇女に再会し無事を知った驚きの後、一瞬だが苦い顔をしたのを見逃さなかった。彼女のヨハネスの関与の疑念が確信に変わったと伝えてきた。

他国の王族に対して流してはいけない情報を、あえてマチルダは伝えている。当然、彼女の中に線引きは有ると思われるが、恵たちに対し信頼している証しを示したいと踏み込んだ情報を流したものと思われた。

「短い間なのに、良い人間関係が出来ましたね。この出会いを大切にしましょう」

マチルダとの会議が終わると、ルイーズはそう締め括り、満足そうに微笑んだ。

報告会の後は、留守中に溜まっていた仕事の処理やアカデミーで進級試験を受けたりと忙しく過ごした。進級試験は恵自身としては出来が悪くハラハラしていた。しかし、ふたを開けるとAクラス残留となりほっとしていた。それぞれの案件に一応の目処がつくと恵たちは、各自の王都屋敷に下がった。


恵が、王城からスフォルレアン家に戻ると、その夜早速に家族会議が開かれた。

サイモンからは、この社交シーズンで発表される幾つかのことが告げられた。一つ目は、クロエのルーフォン公爵の嫡男カルロとの婚約が発表される話。それと、恵が正式にアクセルの婚約者になったこと。合わせて、カドー開拓団として同行するように王命が下ること。そのため、アカデミーは休学扱いとなること。じつは、クロエからおよその事は聞いていたが、恵は、神妙に聞いていた。

恵からは、進級試験には合格し無事Aクラスのままでいられたとをやや自慢げに報告したが、ライアンには苦笑されてしまった。実のところ、カドー行きで休学となるとアカデミーには戻らない可能性が高いとして、少々点数が悪くても在学中はAクラスで終えたことにすると温情処置がなされたことをライアンは耳にしていたのだった。

(ライアン兄、なんだその笑い)

また、ライアンから今回のカドー計画のあらましの説明があった。カドーの計画は、フルール・ド・リス女子会が立ち上げたが、国として正式なプロジェクトとなりアレクシスの管轄下となったためだ。ただ、その構想はクロエ達がまとめ上げたものをほぼなぞったものだ。これには、王妃ルイーズの働きかけと、その時は帝国の対応にアレクシスが追われていたことよるものだった。実際には、国の政策として動きやすくしただけで、計画の成否の鍵となる、ニゲルの回廊を往き来するためのフェンリルも、カドー開拓の効率的な農業の手法を提供するメルキオールも実質的に女子会が押さえている。

「メグちゃん。将来の旦那さんのためにしっかり頑張りなさい」

「・・・はい。お母様」

(だめだ、こういうのは慣れない)

「それと、当家預りとなったフェリックス殿にも、カドー計画の一員としての王命が下る。あとは、お前の友達のシャーリー嬢も同行する」

(希望通り進んだんだ。恋する乙女は強いねぇ)

「いつもメグちゃんと一緒だったセリア様は一緒じゃないの」

「セリアちゃんは行きたがってたけど、ステラと一緒にクロエお姉様のお手伝いかな」

(鑑定の通信のためには、二人が離れていないと意味がないからね。ちょっと寂しいけど、今後はセリアちゃんとのツートップはなくなるかな)

「そうそう、メグちゃんステラ様ってどんなお嬢様かしら」

「母上、勘弁してください」

「えっ、どうしてここでステラ?でもお母様も昨年末のお茶会でステラに会っていましたよ」

「えぇ、覚えてますよ。背がメグちゃんと同じくらいで、黒髪のショートボブの可愛らしいお嬢さんでしょう。私が聞きたいのは人柄よ」

「人柄?」

「実はね、王都に着いてエマの事もあってルイーズお姉様にご挨拶に上がったの。そこでちょっと聞いたのだけれど、ライアンがステラ様宛てにお菓子を送ったて言うじゃない」

「あぁ、パル・ボヌールのか。そんなこともあった。私にはあんな高いもの買ってくれなかったのに」

「あらあら、朴念仁だと思っていたのに、意中の子にはパル・ボヌールのお菓子を選ぶのね。感心感心」

「母上!そんなんじゃありませんよ」

(こんなに取り乱すライアン兄は初めて見た。お母様完全にモードチェンジしているよ。ひっひっひ、これでライアン兄も終わりだ)

「マルグリットもニヤニヤしてないで誤解を解け」

「お兄様、誤解なのですか?先日も帝国交渉のために集めた行き場のなくなった穀物をカドー計画に引き取るときの適正価格に対してステラと楽しそうに相談してましたよね」

「仕事だ、仕事。カドー計画の物資調達は彼女の担当だろうが」

「ステラ、優秀でしょう」(ちょっと腹黒い手を打つときもあるけど)

「それは認める」

「それに可愛いよね」(あざといぶりっ子だけど)

「・・・まあな」

「まぁ、そうなのね」

(お母様、食いつきハヤ)

「誤解です、母上。父上からも・・・」

(お父様、あからさまに目を逸らしたよ)

「お兄様。諦めましょう」

「・・・マルグリット、おまえ」

(ひっひっひ、ライアン兄はきっと尻に引かれる)

「マルグリット。楽しそうだが忘れてはおるまいな」

「何でしょう、お父様」

「ロベール殿の事だ。夏期休暇に入ったときに隣領のフレメーヌまで出かけておきながらブクリウエスト領になぜ来ないと言われていたであろう」

「ですから、謹慎処分で・・・」

「私の手には負えないので、対応はお前自身が行えと言ったではないか。手紙の一つも出していないのか」

「えっ、てぇ。そう言うことだったのですか」

「常識であろう。お前は、王城で何を学んできた。早々と、お茶会の招待状が届いているぞ。とにかくお前の方で何とかせよ」

「まぁ、まぁ、私と一緒にお父様の所に遊びに行きましょうね」

「はひ・・・」

「ふふふ」

「なんですか、お兄様」

「何でもないぞ」


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