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孤児院の暮らし 4

研修を進めながらも少しずつ、常時受け付けの簡単な依頼をこなすようになる。孤児院の皆とパーティーを組んで受ける。女子は採取の希望が多く、男子はレベルの低い魔獣を狩りたがる。今は順番に女子と男子の希望で進めている。恵は鑑定術があるので、薬草採取は見つけるのが早く、品質を落とさない取り扱いができ、ギルド受付のエミリーさんに目をかけてもらっている。エミリーさんは、受付の花で、男子の憧れのお姉さんである。

そんな中で、今日は六歳から九歳の街にこもっている見習い前の子供たちに、将来選択の経験にと、冒険者の体験をさせることになった。希望者は男子二名と女子一名で、女子は恵についていきたいニナだった。冒険者見習いの年長組全員が付き添いになる。しかし、出かける前に、ひと悶着がある。今日は男子が希望を出す日なのだが、年少者が同行するので、薬草採取になることがリュカたちは面白くない。なかなか納まらず、最後はソフィアが説得するに至った。そんな、不機嫌そうな男子を伴っている中でもニナは恵とのお出かけにご機嫌で、しきりに恵に話しかけてくる。冒険者ギルトに着き、恵は代表となって依頼票を提出すべく受付に並ぶ。今日は、冒険者ギルドの流れを教えるため、常時受け付けではなく依頼票の仕事をする。袖が引かれ目を向けると、ニナが話しかけてくる。

「メグちゃん、メグちゃん。今日は何処まで行くの」

「ワレモコウを採りに行くから、森の手前にある北の草原かな。私は手続きしちゃうから、ニナはカミーユのとこで待っていて」

「うん」

しかし、このときカミーユは、再び愚図り出したリュカたちと遣り合っていた。相手にされないニナはギルドの中をふらふら歩き始めた。その時入り口から、大柄な三人の冒険者が入ってきた。彼らは、足を踏み入れるなり子供たちを見て、顔を顰める。

「なんでガキがこんなにいる。ここは本当に冒険者ギルドか」

周囲の注目を集めるもそのまま三人は、依頼票のある掲示板へと向かったが、そのとき掲示板の前にニナがいた。

「邪魔だ」

先を歩いていた男が、無造作にニナを払いのけると。ニナは床に転がされ、びっくりしたように目を見開き、男を見ている。男は何事もなかったように掲示板を物色し始めた。受付に並んでいた恵が、振り返ってその光景を見た瞬間、体が勝手に動きニナを庇うように男の横に立っていた。

「あんた、小さな子に何てことしてくれてるの」

「あぁ。またガキか。王都からわざわざ出張ってきてやったのに、何なんだここは」

男は、恵を睨みつけて悪態をつく。

(わっ、貧弱なステータス。でっかい図体してるけどルアンの冒険者の方が全然上じゃん)

「ルアンの冒険者ギルドは、貧しい子供に軽作業を出してるって、結構有名な話でしょう。あんたそんなことも知らないでここに来たの。そんなにここが嫌なら、とっとと王都に帰れば」

恵の言葉に、周りの冒険者が、口笛を吹いたり、はやし立てたりし始める。

(ったく。お気楽な男どもは。冒険者同士の諍いは不干渉が原則だけど、幼気な少女が頑張っているだから、ちっとは助けなさいよ)

見ると、カミーユはこの隙にニナを連れ出していた。

(流石、カミーユ。ボンクラ共とは違うわ。て、エミリーさん受付からメッチャ睨んでるじゃん。ギルド職員が出てきたらシャレにならないけど。うわー、この人終わったわ)

「なめた口ききやがって、躾をしてやらぁ」

男はわざと大きく拳を振り上げて見せた。だがそんなことで恵が怯むわけがない。そのまま、一歩前へ出て言い放す。

「それが、何!」

男は顔を真っ赤にして、殴りかかろうとしたが、腕が動かせないでいた。後ろから来た、別な冒険者が男の腕を捕まえていた。

「何しやがる」

「ケヴィンさん!」

男と恵の声が重なる。

「ようメグ。久しぶりだな。元気か」

陽気なケヴィンの声が返ってくる。

「はい。いつもお世話になっています」

恵も嬉しそうにケヴィンに答える。

「誰だ、てめぇ」

男が再び騒ぎ出す。

「ご同業さ。お前、女の子相手にカッコ悪りーなぁ」

男は、真っ赤な顔でジタバタするが、どうやっているのか右腕一本取られただけで身動きが取れないようだ。所詮ケヴィンとは格が違うのだ。

あとの二人はと見ると、しっかりリアムが牽制している。さすが相棒。

暫くそうしていたが、やがて男はあきらめたのか・・・。

「興が覚めた。行くぞ。ほら放せ」

男は、精一杯見栄を張りながら言うと、ケヴィンは男を放す。そのままスゴスゴと、仲間を引き連れギルドを出て行った。

(あいつら、ケヴィンさんに助けてもらったなんて思ってないだろうな。ケヴィンさん来なくてエミリーさんが出てきたら冒険者人生終わってたぞ)

「ケヴィンさん、リアムさん。助けていただき有難うございました」

丁寧に恵がお礼を言うと。ケヴィンは何でもないと言うように笑顔で右手を軽く上げた、リアムは黙ってうなずいた。すると途端に、周囲の冒険者が騒ぎ出す。

「お嬢ちゃん。いい啖呵だったぞ」

「痺れたぜ」

ワイワイしていると、受付にいたエミリーさんが速足で恵に近づいてきた。

(エミリーさん、目が三角・・・)

屈みこみいきなり抱き付いてきた。

「メグちゃん、無茶しちゃダメじゃない。お姉さん心臓止まりそうになったよ」

「ごめんなさい」

恵は、本能的に今逆らった不味いと思い素直に答える。

すると、エミリーはすっくと立ちあがって。周囲の冒険者を見回し。

「あんた達何やってるのよ。王都の冒険者に馬鹿にされてたのに、メグちゃんを一人にして。ちょっとはケヴィンさんを見習いなさいよ」

エミリーがまくし立てると、冒険者たちは、突然やることを思い出したように呟きながら蜘蛛の子を散らすようにギルドから出て行った。それを機に、恵たちも薬草採取へと向かう。


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