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帰郷の途 2

今回は、目的以外の討伐はしないので、フレメーヌ子爵領に向けひたすら進む。途中、ガルムの群れに襲われた商隊を助けたが、イレギュラーはそれだけで旅程は計画通り進んだ。

目的の草原には別行動を始めて三日目の夕暮れ時に着いた。ドニエーヌ川の河原にベースキャンプを築く。この川は、ロアーヌ河の支流にあたる。明日は朝一番で討伐だ。皆レベルが上がった効果があり、この強行軍でも疲れた様子は無い。

翌日のレッド・バイソンの討伐も順調に進んだ。午前中には二頭を討伐し、現在は川に浸けて血抜きをしている。以前は、苦戦したレッド・バイソンの突進も、ジョシュアは危なげなく抑えた。そればかりでなく。リュカが二頭目の突進を受け止めたときは、レッド・バイソンがまるで力負けしたようにその場に転がされてしまった。

「どうやってやったの?」

「ちょっと、相手の力を利用しただけです」

「・・・そんな、さらっと」

「素敵ですリュカさん」

「ダメだよセリアちゃん。カミーユがいないんだから」

「分かってますって」

「メグ様、何の話しです?」

「いやいや、こっちの話しだから。リュカは気にしないでいいから」

「・・・はい」


翌朝、ベースキャンプを畳むと、フレメーヌ子爵領の領都プレシールへ向かう。目的はレッド・バイソンンの解体だ。レベル50の魔獣二頭の解体なので迂闊に持ち込むと話題になってしまう。恵たちが目指したのはミュレー商会、つまりステラの実家で運営している商会の本店だ。恵は先行しているので、彼女はまだ帰郷していないのだが、紹介状を携えていた。

「何か、有ったのでしょうか。活気があると言うのとは少し違う感じですね。街が騒然としているような・・・」

「まず、宿を探しましょう。そこで何か聞けるかも知れない」

少し、高級な宿を求めたこともあり、宿泊先はすぐに確保できた。

「六名様ですね。男女を別に三人部屋を二部屋ですね・・・。問題ございません。オルニトミムスもこちらで預からせて頂きます。二泊のご滞在予定ですね。料金は前金でおひとり様、金貨一枚になります。お食事は別料金で、当ホテルのレストランをご利用いただければ、二割の割引サービスをさせて頂きます」

「それでいいわ」

恵が代表して、支払う。

「何かあるの?町が騒がしいようですが」

「冒険者の方とお見受けしましたが、討伐にご参加されるのではなかったのですか?」

「違います。別の用があってプレシールに来ました。今、着いたばかりで・・・」

「ルーベル山からはぐれ地竜が降りてきたのです。いま街を上げて討伐隊の編成をしているはずです。有難いことに、ブクリエウエスト辺境伯様が従士隊の精鋭を派遣してくださりましたので、大丈夫とは思うのですが。何しろ地竜ですから、討伐に失敗すると、街にも被害が及ぶと皆不安になっているのです。当ホテルをご利用いただけるのですから、実力は確かかと思いますが、皆さんまだお若い。別件でおいでになったのなら、ここは従士やベテランの冒険者の皆さんに任せた方が良いものかと・・・おっと、失礼しました。差し出がましいことを申し上げました。歳を取りますとついつい心配性になりまして」

「いえいえ、お気遣いありがとうございます」

恵たちは旅装を解いて、早々にミュレー商会に向かうことにしたが、商会には恵とセリア、ルシィの三名で、後は冒険者ギルドへ行ってもらい、地竜討伐の情報を仕入れてもらうことにした。

さすがに、この国の五指に入ると言われる商会の本部である。石積みの四階建ての大きな建物で、敷地も広い。大きく開いた玄関には引き切り無しに人が出入りしている。何れも商人のようで、冒険者風の恵たちは少し浮いていた。

受付で、ステラからの紹介状を渡し、支配人を呼んでもらう。若いが訓練が積まれた受付嬢は、ステラの署名に僅かに目を見開いただけで、後はごく自然に受け答えをした。

「そちらにお掛けになり、少々お待ちください。係の者を呼んでまいります」

暫くすると、副支配人を名乗る、若い男が現れ、恵たちを別室に案内した。

「副支配人のジョルジュと申します。大変申し訳ございませんが、総支配人のパトリックはただ今不在にしております。本日は、私が対応させて頂きます」

「メグです。よろしくお願いいたします」

「失礼ですが、お嬢様とはどのようなご関係でしょうか」

「大変、親しくさせて頂いています」

(つべこべ聞くなって、書いてもらったはずなんだけどな)

「・・・分かりました。それでご用件はどの様な事でしょうか」

「ミュレー商会では、魔獣の取引も専門部署を設けて行っていると聞き及んでいます。昨日、ドニエーヌ川沿いの草原で、レッド・バイソン二頭を討伐しました。血抜きはしましたが、解体をお願いできませんでしょうか。私たちが必要なものは肉ですので、ご希望があればその他の素材は引き取って頂いても構いません」

「レッド・バイソン。しかも二頭ですか・・・」

「それと、紹介状にもあったかと存じますが。このことについては内密にお願いいたします」

「承っております。先ずは現品を査定させて頂きます。今お持ちですか」

「はい、大丈夫です」

恵たちは直ぐに、ジョルジュの案内で解体所に向かった。解体所は、商会の裏手にある建屋だった。作業場所はルアンの冒険者ギルドにも劣らぬ規模だ。そこには、如何にもベテランの解体作業者と言った、筋骨のたくましい中年の男が待ち受けていた。

「トマ、こちらが、持ち込みのお客様だ。レッド・バイソン二頭だそうだ」

「ほう。・・・ここに出してくれ」

「では、お願いします」

セリアが、指定された場所に、マジック・バッグからレッド・バイソンを取り出す。

「これは・・・大物だな。しかも、どちらも一撃で急所を貫いてやがる。切り刻まれた跡もない。・・・寝込みを襲った?いや二頭は・・・おっ鼻面がつぶれてやがる。こいつの突進を止めたのか・・・とんでもねえな。副支配人、滅多に出ない上ものだ。皮も余すこと無く使えるぜ」

「そうなのですか」

「あぁ。普通こうはいかねぇ。罠などで足止めして、その後は大勢で取り囲み死角からダメージを与えて続け、徐々に弱らせて討伐するのが定石だ。だから、身体中傷だらけの状態になる。こいつにはそれが無い。よほど腕のある冒険者パーティーじゃなければこうは行かない」

「偶然と言うことはないですか」

「二頭続けて幸運が訪れるなら、さぞかしフォルトゥーナ様に愛されているんだろうよ」

「あの、よろしいですか?解体は何時ごろまでに上がるのでしょう」

「あっ、失礼いたしました。トマどうだ」

「明日の、夕刻までには済ませておく。お嬢ちゃんお使いご苦労だな」

「お客様に失礼ですよ。お客様、こちらが受取証になります」

「はい、確かに」

どうも、有力冒険者パーティーの見習いとでも思われたらしい。


宿に戻ると、ニコラたちは既に戻っていた。昼食を誘い食べながら結果を聞くことにした。プレシールでは、王都のように平民が昼食をとる習慣はまだ根づいていないので、開いている店は少ない様子だった。恵たちは、ホテルのラウンジで軽食をお願いした。オーダーを取りに来たウェイターに、”王都からいらしたのですか”と尋ねられ、”そうです”と答えると訳知り顔で頷いていた。

「で、どうだった。討伐の話しは」

「領政府からの依頼が出てたっす。ただ、Bランク以上のパーティーってことで」

「じゃあ、私たちは関係ない?」

「まあ、そうなんですが、ギルドでは可笑しな具合で・・・パトリックとかいう爺さんが、盛んに奴は”尾白”だと言って騒いでいやがって」

「”尾白”?」

「何でも、今回の地竜は五十二年前にこの街で大暴れした奴で、”尾白”って名付きらしいっす」

「名付きですか。それが本当なら厄介ですね」

「ルシィさん知っているの」

「時々出るのですよ。上位種並に力を持った魔獣が。その個体は危険指定されて二つ名が付きます。それが地竜ともなると厄介です。通常の編成では全滅もありうるでしょう」

「そうっす。今回の辺境伯の応援も、通常の地竜討伐の規模らしくて戦力が危ぶまれてるようでして、何より”尾白”ってやつの力がどれほどの分かんねえらしく、どれだけ準備すりゃいいんだって騒いでたっす」

「でも、過去に戦ってるんでしょう?」

「五十二年前のことで、実際に戦った連中がもういねぇっていってました」

「私の聞いたところだと、その地竜が西の城壁を二~三百メートルに渡り壊し、壁に近い民家も大きな被害があったらしいです。ところが、被害が大きかったのは地竜そのものでなく、壁が破られたときに町から外に着の身着のままで逃げた市民が外で別の魔獣に襲われたり、壁が再建されるまで、夜な夜な襲って来る魔獣への対処で疲弊したなど、そちらだったという者もいて。地竜そのもの脅威がはっきりしていないようで・・・。冒険者ギルドのマスターも従士団の団長もまだ若く、判断しかねています」

ジョシュアが、ニコラの情報を補足した。どうやら、尾白が恐ろしい地竜であることは、街の者に語り継がれたが、その実態は明確になっていない様子だ。

「アフィア様が、人族は忘れやすいって言ってましたけど、これもですかね」

セリアが小首をかしげて可愛らしく感想を漏らす。

「そうね・・・」

(よく、テレビなんかじゃ、”相手の戦力が分からないときは全戦力でかかれ”なんてセリフが出るけど。ここは領主さまのトップ判断がいる場面だよね)

「フレメーヌ子爵様の指示は無いの?」

「今、街にいないって」

「そうだ。お迎え・・・」

「セリアちゃん。何か知ってるの?」

「ステラが言ってたよ。娘の帰郷に合せて、子爵様自ら商隊率いて迎えに来てるから、一緒に帰るって。王都との交易を理由にしてるけど、ステラ大好きパパみたいで、うざそうに話してた」

(歳ごろの娘を持つ父親の定めね・・・)

「それで、どうなったの?」

「騒いでいるばかりで、当分結論が出ねえようなんで戻ってきたっす」

「そんなことしてて、地竜は大丈夫なの?」

「監視に幾つかのパーティーが動いているみてぇで、何かあればすぐに連絡が来るって言ってましたが・・・。あんまり時間はねぇんじゃねぇかなぁ」

(そうだよね。と言っても今私たちにできることは無いか)

「どうするのメグちゃん。ステラの故郷だけど、今回は目立っちゃいけないんだよね」

「まあ、出来ることがあればやるけど・・・。どっちにしても街がどう動くか確認してからだよね。午後は私たちも冒険者ギルドで話を聞こうか」


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