街へ
暫くすると道に出た、舗装はされていないが轍がくっきりと残っている。気持ちを反映するように軽快な足取りで馬車を追う。まだ少し遠いが、馬車の左右には、武装した男が操るダチョウ?が一騎ずつ並走している。荷台には荷物がこれでもかと載せられている。
(何あれダチョウに乗っているの?ってゆうか、あのダチョウでか!左右にいるってことは護衛かな。それと、馬車を引いている馬もやたらでかいし、それに牙生えてない?そういえば森の中には、魔獣ではない普通?の獣がいた。中には、魔獣を蹴散らして食ってる奴もいて、種別が“獣”と出たときには鑑定がバグってないかと思った。ただ漠然とした感じなんだけれど、魔獣は問答無用で襲ってくるけど、猛獣はちょっと違う感じがする。まあ、前世でもサファリパークに行ったくらいで、直接猛獣と関わっていた訳ではないんだけど。とにかくここの獣は、逃げるにせよ、戦うにせよ競争相手が魔獣なので逞しさが違うみたいね)
このまま距離を取りながら追うことにする。この距離だと鑑定はできない。
暫く進むと馬車がスピードを落とした。こちらも合わせてスピードを落とす。すると、護衛と思われる一人が大きく手を振り手招きしながら何か叫んでいる。少し迷うが、警戒を怠らず近づくことにする。鑑定ができる距離になると素早く二人の護衛を鑑定する。
(手招きしている男は・・・)
名前 ケヴィン
種族 人族
性別 男
年齢 28
レベル 21
賞罰 なし
・
剣術 7 スラッシュ、見切り、いなし、三段突き
・
(剣士ね。剣術ランク高!もう一人は・・・)
名前 リアム
種族 人族
性別 男
年齢 24
レベル 18
賞罰 なし
・
槍術 5 足払い、石突き、穿孔、風車
・
(槍使いか・・・こっちもなかなかね。やっぱり護衛だよね)
想像通り護衛のようだ。ケヴィンは、金髪碧眼でちょっと顔つきが厳つくがっしりした体格の人で、なんと剣術はランク7で恵より高い。リアムは、赤茶色のくせっ毛に茶色の瞳、少し幼さを残した顔つきだが、彼も体つきはしっかりしている。こちらは槍使い。二人ともよく日に焼けている。馬車に乗っている男は、荷物に隠れて恵からは見えない。
(私のステータスはどう見ても出鱈目だわ。これ見られたら絶対にトラブルになる・・・とりあえずこの二人は鑑定持ちではないけれど、人里には鑑定術を使える人もいると考えておいた方がいいか。そういえば、隠蔽するテクニックがあったわね。街に入る前にやっておこう)
ケヴィンが、こちらに笑顔で話しかけている。
「嬢ちゃん。街に行くのか?」
(凄い言葉が分かる!)
驚いた顏をしていたからだろう。心配そうにケヴィンがのぞき込む。
「どうした?」
「あっ、はい。大丈夫です」
恵が答えると、ケヴィンは一つ頷いて。馬車に向かって声をかける。
「旦那、すまねぇ。引っ付き虫だが、まだ子供だ。許してやっちゃぁくれないか」
すると、馬車から答えが返ってくる。
「あぁ、構わんよ。ルアンはもうすぐだしな」
顔は見えないが、若くしっかりとした声が返ってきた。
やり取りの感じから、護衛のある馬車に近づいて、ちゃっかり守ってもらおうとした子供と思われたらしい。
「旦那のお許しが出た。近づいて付いてきていいぞ。ただし、自力で走ることが条件だ。ペースはこちらで決める。付いてこれなければ置いて行く」
口では、厳しいことを言っているが、わざわざスピードを緩め手招きまでしたのだ。
(守る気満々でしょう。大人として子供を保護するが、無条件で甘やかしたりしないと言ったところか。お兄さんちょっとイカしてるじゃん)
「メグです。分かりました。ありがとうございます」
「えらいな。ちゃんと挨拶ができるじゃねぇか。俺はケヴィン。冒険者で見ての通り護衛中だ。で、あいつは相棒のリアム」
リアムが前を見たまま軽く頷く。
「そして、馬車にいるのが雇い主のモハメドさんだ」
そして、私の様子を窺いながら一行は初めのスピードに戻してゆく。私が難なく付いてくるのを確認すると、ケヴィンは前を向き、護衛に専念し始めた。
休憩を挟みながら一時間ほど街道を走ると、広い平地に見渡す限りの畑にでた。畑は区画ごとに異なる野菜が植えられているが、都会育ちの恵には麦ぐらいしか分からなかった。その先に大きな城壁が見える。五~六メートルの高さのグレーの城壁が街を囲っていて、所々に見張りが立っている。壁より高い建物も見える。奥の高い塔を持つ石造りの建物は教会だろうか、手前にはこげ茶色の木枠に白い漆喰の壁を持ち赤茶色の屋根瓦が載っている三~四階の建物が所狭しと並んでいる。ここがルアンの街だ。
(テンプレ通りの中世ヨーロッパの世界なの?)
ルアンは、長辺が約六キロメートル、短辺が約五キロメートルの楕円形の城壁に囲まれ、中央を川幅が五十メートルあるロアーヌ河が南北を貫いている。人口は約七万人で地方都市としては大きく、ガルドノール伯爵領の領都である。
北には恵が超えてきたニゲルと呼ばれる国内最大の魔の森がある土地柄から冒険者が多く、街も防衛に力を入れている。しかし、ただ武張った街と言う訳ではない。討伐した魔獣の素材がもたらす利益から商人も多く出入りし、街全体に活気があった。
恵たちはルアンの西の城門に来ていた。
城門の前には広場があり、日が暮れる時間にはまだ間があるが、長い行列ができている。街に入る検問の順番待ちだ。ケヴィンもスピードを緩め、列の最後に並ぶ。列には、畑から戻る農民、商人、狩人、冒険者とみられる様々人が並んでいる。そして、今の恵と変わらない歳の五~六人の子供の集団が幾つか見られる。彼らの恰好は新人冒険者のもので、ケヴィンに気づくと挨拶する者が多い。
やはり子供たちのステータスはレベル3~5だ。大人でも農民や商人はせいぜいレベル8~10、狩人、冒険者など戦う者はさらに高く、稀にレベル30前後の者もいる。だがよく見るとそのような者は五十歳を超えていて、長年にわたり経験値を積み上げてきたことが分かる。ケヴィンは、年齢を考えるとレベルが高い。恵は鑑定隠蔽で、子供たちに合わせたステータスを早々に作り上げる。
「良く頑張って付いてきたな。大したもんだ」
列に並び、警戒を解いたケヴィンが馬上から話しかけてきた。
「体力には自信があります」
「そういえばメグ、お前見ない顔だな。お前みたいな別嬪なら目立つよな」
「ここは初めてです。商人の父と旅をしていたのですが、魔獣に襲われてはぐれました。多分、父や護衛の人たちは私を逃がすため盾になってくれたのだと思います」
心して低い声でゆっくりと話す。
「そりゃ、難儀だったな」
ケヴィンは困ったような顔をしている。先ほどの子供から受ける挨拶といい、ケヴィンは優しく面倒見の良い人なのだろう。騙しているのがちょっと悪く感じる。
「おまえ、身分証あるか?それとルアンに身寄りはいるか」
「いえ、持っていません。身寄りもいません」
「そうか。話は俺が通す。入城税が掛かる。金はあるか。何なら立て替えておくぞ」
「ありがとうございます。入城税はいくらですか」
「子供は小銀貨五枚だ」
「大丈夫です」
そして、漸く恵たちの番となった。
「よう。レオ」
ケヴィンは気軽に門番に声をかける。顔馴染みらしい。
「また、モハメドさんのお供か」
「そんなところだ」
「いつもお世話になります。これがギルドの取引証です」
御者台にいるモハメドの声がして、書類が門番に渡される。
「モハメドさんも稼ぐね。入ってよし」
門番は、書類に目を通して、モハメドに戻す。
「ところでケヴィン。そこの美人さんは?まさか隠し子!」
「ちげーよ。そこで拾った。魔獣に襲われて家族とはぐれたようだ。身寄りはいない。ソフィアのところ行くようにしてやってくれ」
「なるほど。だがあそこは、いっぱいじゃなかったか」
「分かっているが、この容姿だ。他じゃ危ねぇ」
何やら美人認定され、大人たちが気を使っているようだ。
「了解だ。じゃぁ、お嬢ちゃんはこっちに来てくれ」
「俺たちは、ここまでだ。元気でな、メグ」
「モハメドさん、ケヴィンさん、リアムさん、助けていただき、ありがとうございました」
恵は、ケヴィンたちと別れ、門番のレオについて奥の小部屋に入ってゆく。ケヴィンとの約束があるからだろう、門番の対応は別の者に任せ、私の手続きを直接レオが行うようだ。装飾品もない殺風景な部屋だが、掃除が行き届いている。
「座る前に、これに手をついてくれ、一応ステータスを確認する」
テーブルの横の台に黒い石板がある。見た目の質感は大理石のようだ。台はテーブルと同じくらいの高さで、背の低い恵にとっては胸の高さまであり、腕ごと台に乗せるように石板に触れる。振れた瞬間、石板の表面に光の文字が浮かび上がる。私の位置からは見えづらいがステータスが表示された。
「・・・いいだろう。十歳か。もっとちっこいと思った。座ってくれ」
恵が椅子に腰かけるのを待って、レオは話し始める。
「それで、入城税だが小銀貨五枚だ」
「はい、ケヴィンさんから伺っています」
いかにも普通のポーチからものを出すような仕草をして、小銀貨を出して渡す。
「すまないな。君みたいな子共からも徴収して。ルアンのご領主様は立派な方でな、治安はよく、税も抑えられていて街に活気がある。住みよいと評判が高い。そのため、こうしておかないと孤児や浮浪者で溢れてしまう。まぁ、助けたいお気持ちはあるようで、領主様も色々苦慮されているらしいが、なかなか難しいようだ」
まあ、それを私に言われてもと思うが。門番の話なので割り引くとしても、ここの領主はきちんとした人物のようだ。
「それで、魔獣に襲われたって」
「はい、商人だった父と旅をしていたのですが、野営しているときに魔獣に襲われて、逃げるとき父や護衛の人とはぐれました」
「どんな魔獣だった?」
「暗くてよく見えなかったのですが、近くにいた護衛の方がガルムと言っていました」
「どのへんで襲われたか分かるかい?」
「詳しくは分かりません。多分ここから西の方だと思います。私の足で二日くらいです」
「分かった。一応西に向かうものに警告だけは出しておくか。辛かったろう。よく頑張ったな」
「いえ」
「ここには、身寄りはいないんだな」
「はい」
「六時には大門を閉める。そうしたら孤児院に連れてゆく。今日からそこで暮らしてもらう。住民登録は、孤児院でやるから心配しないでいい」
「孤児院ですか」
「仕方ないだろう。未成年だしな。君は可愛いから下手なところに行くと食い物にされるぞ」
「分かりました。色々とありがとうございます」
「何、仕事でやっているだけだ。じゃぁ、ここで待っていろ」
そう言ってレオは立ち上がると、門番の仕事に戻った。
(ない頭をフル回転させて、物語を作ってしまった)




