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森の村 3

エルフの男は、メルキオールと名乗った。やんちゃなフェンリルの子ビューレの面倒を見ていたが、ちょっと目を離したすきにビューレが川を渡ってしまい、マンティコアに遭遇してしまったという。いくらフェンリルと言ってもまだ子供で、マンティコアに敵うはずもなく、メルキオールも戦闘は得意でない。本当に危ないところだったという。それを本能的に察知してアフィアが駆け付けたのだった。

アフィアの住み家は、四十名ほどのエルフの住む村であった。森の中のぽっかりと開けた場所にある小さな村だ。木造の小さな家が広場を囲うように並び、その奥には集会場のような建物や森の大きな木を利用したフェンリルの塒もある。時ならぬ人族の訪れにエルフたちがざわついたが、アフィアが一言いうと直ぐに静まった。

(壁が無い・・・魔獣の心配が無いってこと?それと、エルフ達は神域としてフェンリルの縄張りに近づかないっじゃなかったの?)

この森には他に五組のフェンリルの番が暮らしていて、アフィアが纏め役となっているという。他のフェンリル達は、エルフとは暮らしていないらしい。

恵たちは、アフィアの塒にほど近い村の集会場のような建物に案内され、寛いでいる。セリアは、エルフたちが用意した布団のようなものに寝かされている。

「アフィア様は、エルフと一緒に暮らしているのですか」

「ここは、ちょっと特別な村なのです。みな母に仕え母に守られている」

「そう言えば、メルキオール殿はアフィア様を母と呼びますね」

「えぇ、まさに育てて頂きました」

「??」

「そうですね、そこからご説明しましょう。実は、この村の者は、母に捧げられた贄なのです」

「えっ!」

「いやいや、本来の意味ではないのです。エルフ族が勝手にやっているだけですから」

「はぁ」

「約六百年前、フェンリルとエルフとの間で約定が結ばれ、フェンリルがこの地に住みエルフの森を守ることになりました、母はそんなことはお願いしていないと言っているのですが、約定締結の際に、どう話がこじれたのか生贄を差し出す話になったようです。それ以後、十年に一人、彼らは十歳前後の子供を贄として寄越すのです。当然、食べるつもりもなく、打ち捨てることもできず、母は仕方なく子供を育てています。始めはどうやって育てたら良いのかわからずかなり苦労したようです。狩って来た肉を与えてもエルフの子は食べませんし。かなり焦ったと言っていました。私も二百三十年ほど前に生贄として差し出されここに来ました」

「それ断れないんですか」

「何でも約定を交わした亡き先代の長老は偉大な方で今も慕うものが多く、先代が亡くなったからと言って約定を変える事は出来ないと・・・。出生率の少ない我らエルフにとっては子供を差し出すというのは一族としても大きなことで、この約定を決める際もかなりの決意で臨んだようです」

「だったら、逃げ出したとか言って帰ればいいんじゃない」

「それこそ、約定を違えた咎人として捉えられますし、やはり贄として差し出されるのは事情がある者が多く・・・。そんな者にはここはとても住み心地が良いのです。現に、みな母を慕っています」

「他のフェンリルは?」

「こんな面倒なことを引き受ける者はいませんよ。代表であることを良いことに、母に押し付けているのです」

「アフィア様は人が良すぎだね」

「私もそう思います」

やがて、セリアも目をさましたが、フェンリルが身近にいることでパニックになったが、何とか事情を説明して落ち着かせた。

(なまじ魔力の検知が出来るようになると、目の前にいなくても巨大な魔力が近くにいるのが分かるからびっくりしちゃうよね)

アフィアは、外から訪れた者に興味を持ったようで、恵たちの話を聞きたがった。引きとめる代わりに、この村からなら、すぐにウンブラの深層に入れるから拠点として使ってはどうかと提案してきた。恵はその申し出を受けることにしたが、ヘクターに報告しておかなければならないと、明日の朝、一旦アヴィニールに戻り、再び訪れるとアフィアに伝えた。

その晩は、村のエルフたちが質素ながら歓迎の宴を開いてくれた。エルフの食事は、野菜を中心としたあっさりとしたものだった。肉も食べないわけではないが、鳥を蒸して柑橘系の果汁に塩で味を調えたタレで食べるように、さっぱりとしたものだ。前世の日本で様々な食文化に触れていた恵には、素材を生かしたシンプルな味付けに全く問題はないが、ガッツリ形のニコラやエギルは、物足りないと顔に出ていた。

ビューレは恵のことが気に入ったのか、食事の間も側に張り付いていた。ビューレは子供といってもほとんど恵と変わらない大きさなので、のしかかられているようにも見えるが、モフモフした毛並みの触り心地が良いのか、恵も嫌がるそぶりは見えない。

「マルグリット。メグと言うのはそなたの愛称かえ」

「左様にございます」

「では妾も、メグと呼ぶことにしよう。そなたもそのような堅苦しい言葉は不要ぞ」

「お言葉に甘えさせて頂きます」

「うむ。ところで、何ゆえこのような所でマンティコアを狩っておるのだ。あの性悪猫どもを狩るは、異存はないのだが、人族にはちと荷が重かろう」

「連れている者たちを鍛えるためにございます」

「こう言うては何じゃが、妾の気当を受けて立っていられるのは、すでに人族としてはかなりの者と思うがの。これ以上鍛える必要があるのかえ」

「私がこんなものですから。手を出してくるものもそれなりな者なのです」

「成るほどの。ではメグがここに住んではどうじゃ。ここならば胡乱なものも手は出せまい。ビューレもメグを気に入っておるしのう」

「お言葉は有難いのですが、このような私でも必要としてくれる者があちらにもおりますので」

「浮世の義理かえ。儘ならぬものよの」


翌朝、恵たちはアヴィニールに戻るため、アフィアの村を離れた。アフィアが許可を与えてくれているとはいえ例外的な処置と思い、他のフェンリルも住んでいるので、早々に境界の川を渡り魔の森側に入る。昨日、アフィアに遭遇した辺りだ。あの時アフィアは強烈な殺気を放った。その残滓がまだ残っているせいか、魔獣の気配がない。

(フェンリルが容赦なく放った殺気はとんでもないね。エルフの森に渡ろうとする魔獣がいないのが良く分かる)

進路を東に向けて進んでゆき、魔の森の出口辺りになってようやく一頭の魔獣と出会った。大型の窮奇だ。さすがにウンブラ、西の森の窮奇より体格が二回りほど大きい。恵たちは、この窮奇に対して、マンティコア対策とした新しいフォーメーションを試すことにした。新しいフォーメーションと言っても特別なことはしない、リュカの盾とジョシュアのホーリー・シールドで相手の動く方向を限定させ、カミーユが相手の動きの出鼻を攻撃する。ダメージを受けないまでも嫌がって動きが鈍るタイミングで、エギルとニコラが二方向から足に斬撃を加える。とにかく、相手のスピードを殺す戦い方だ。大型と言っても所詮は窮奇、難なく策通りに討伐は完了する。護衛達はそれなりに手応えを持ったようだ。

そんな中で、セリアがぽつんと恵に話しかけた。

「いまの、邪乎窮奇という亜種であってますか?」

「そうですね。セリアちゃん良く知ってまし・・・もしかして」

「えぇ、昨日気絶から目覚めた後、なんか分かるようになってました。ステータスにもあるんですが、何か信じられなくて・・・」

「ちょっと見せて・・・やったよ、セリアちゃん。鑑定術発現している」

「間違いないんだ。う~、やったー。よし、色々鑑定してみます」

(まさか、フェンリルに殺気を当てられたショック療法。いや病気じゃないけど)

セリアは、討伐した窮奇の下で、爪や牙を見ては素材になるとか、取り出した魔石を見て、唸ったりし始めた。そのテンションに、周りはちょっと引き気味だ。

(セリアちゃん。それ結構グロいけど平気なの?)

セリアのテンションが落ち着いてから聞いたところによると、アフィアが現れたとき非常な危機を感じて必死に何者か見極めようとしたという。経験値もたまり、スキル発現の条件が満たされつつあったときの必死な思いが鑑定術発現の扉を開いたようだ。何にせよ、今回の遠征の目的の一つを達成した。

(次は、パワー・レベリングと検索だ)


「いやはや、もはや言葉もないな」

恵とエステェの報告を聞いたヘクターの第一声は、呆れたような響きがあった。

「おじい様、メグ様と行動するとこのような事は普通に起きます」

「そうなのか、アリス」

「ヘクターおじい様、そんなことはございません」

「どちらなのだ。エステェ」

「ご覧いただいていれば、おのずと分かるものです」

「・・・」

(エステェ姉、何そのお返事は)

「それで、ヘクターおじい様。私たちはアフィア様の村に滞在してよろしいでしょうか」

「フェンリル殿が招いたのであろう。そのような事は、許可も何もない。ただマルグリットよ、くれぐれもフェンリル殿の機嫌を損ねるようなことはするでないぞ」

ヘクターはくどいほど念を押してきた。

「物凄い殺気を受けましたので。重々承知しています」

「ご安心ください。メグ様は王族に対するより丁寧な言葉を使っていましたから」

「・・・そうか?」

暫くアフィアの村に滞在するかもしれないので、約束していた合同演習をしましょうかと恵が持ちかけたのだが、ヘクターはアフィアを待たせてはいけないと恵をせかし、討伐したマンティコアを解体のためのギルドへの依頼、不足物資の買い込み、土産とする穀物、果物、反物などの準備が整うと早々に、アヴィニールを発った。


今回も同じように魔の森ウンブラのアドゥーロ川沿いを下ってゆく。日にちが立ち魔獣たちも戻ってきており、今日はここまでの間にデス・ワームと呼ばれる毒を持つ大ムカデと窮奇に遭遇した。そして、そろそろ渡河地点と言うところで、マンティコアとエンカウントした。開けた河原で、視界は良いが石がゴロゴロとしており足場は悪い。決めていたフォーメーションに従ってマンティコアの足を止める戦いを始める。リュカは悪い足場にもかかわらず巧みに盾をコントロールし、マンティコアの突進を止めることに成功するが、窮奇とは違いニコラもエギルもうまく足を攻め込めない。マンティコアは利口な魔獣である。初めこそジョシュアに比べ小柄なリュカを狙って攻めたが、何度目かの突進でリュカの守りが固いことを悟り、狙いをジョシュアに変えた。窮奇ではうまく働けたジョシュアであったが、マンティコアの当たりは全くの別物だった。ホーリー・シールドに初めこそ戸惑っていたが、突進の運動エネルギーを消されても、柔らかく受けてマンティコアがダメージを受けなくなると、勢いを止められる中で追加の攻撃をするようになる。魔法改変してバッシュを加えるが、今度は足場の悪さもありマンティコアを止めきれない。スピードで勝るカミーユが加勢して凌ぐのがやっとである。そして、とうとうジョシュアが足を取られて転倒し、カミーユがそれを支えようとするが、無理をし続けていた疲労で動きが鈍ったため、鞭のような尾の攻撃を受けてしまった。その瞬間、恵が介入しマンティコアの前脚を切飛ばす。

スピードを奪えさせすれば、後はルシィのミドル・ショットも当たり、ニコルやエギルが打ち取った。カミーユとジョシュアには、恵がヒールで傷を直し、討伐は完了したが、空気は重かった。結局、護衛だけではマンティコアに対応できなかった。穴になったジョシュアはもちろんだが、素早い相手になすすべもなく、適切な指示も出せなかったルシィもかなりの落ち込みようだ。

「普通は、この人数でマンティコアとあそこまで戦えるだけでも凄い事なのですけれど」

「エステェ様、ここの方たちにその意識はありませんね」

今回も、セリアはアリスとエステェに守られ観戦モードだった。


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