7話 仰向け
うつ伏せ施術の最後に四つん這い(四足歩行のポーズ)の施術があった。
四つん這い状態のタナカの足の間にヒナが入り、お尻や鼠蹊部などの施術を行う。
フェザータッチ(弱いタッチ)から始まり、鼠蹊部深くまで手が伸びる。
2人は会話をせずに、大人の雰囲気を味わった。
この時、リトルタナカはビックタナカに成長していた。
ヒナもその事には気付いていたが、特に触れる事は無かった。
手でも言葉でも触れなかった。
メンズエステでは股間が大きくなるのは日常茶飯事。
いちいち気にしていたら仕事にならない……
「次、仰向けでお願いします♪」
紙パンツの中のビックタナカは、他の男性のそれよりは小さかったので、なんとか紙パンツの中に居続けることができた。
仰向けになる頃には90分コースのうち、残り30分くらいになっていた。
シャワーは10分前に浴びる流れになっているので、残りの施術時間は20分程度。
ヒナはこのまま時間が進めば問題なく終われると思った。
しかし、クソ客タナカがついに動き出す事になる……
「ヒナちゃん、残り時間少ないでしょー?」
「そうですね、あと20分くらいでシャワーの時間になります♪」
「そっか、じゃあ残り時間は鼠蹊部だけでいいよ!」
「……あ、はい……」
店のルールに、身体の部分的な集中施術は禁止されている。
それはクソ客からセラピストを守る為でもある。
いつもなら店のルールという理由で断っているのだが、今回は断る事ができなかった。
うつ伏せの時に会話が弾み打ち解けたので、断りずらい雰囲気になっていたからである。
ヒナはまだ、タナカは私の前ではクソ客ではないかもしれないと期待していたのかもしれない……
ヒナは仕方なく、四つ這い施術でモッコリしたままの股間周辺の施術を開始した。
「あー、気持ちぃー、こんな可愛い子にマッサージしてもらえて最高!!」
タナカはうつ伏せの時には見る事ができなかった、ヒナのマイクロビキニ姿を凝視しながら言った。
「あ、ありがとうございます」
ヒナは、嫌な予感がしていたので一気にテンションが下がっていた。
この時、ヒナの笑顔は完全に無くなっていた。
あと15分も鼠蹊部の施術をしないといけないと思うと、嫌で嫌で仕方がなかった。
そんなヒナの気持ちを知らないタナカはこう言った。
「紙パンツ苦しいから脱いでいい?」
「…………」
ヒナは何も言ってないのに、タナカは勝手に紙パンツを脱ぎだした。
他の男性よりはかなり小さめのビックタナカが出現した。
仰向けのタナカの胴体とは垂直方向に真っ直ぐとビックタナカは直立不動していた。
実は紙パンツは小さめなので、他のお客様でアソコのサイズが大きめの男性は、よくはみ出し露出する事がある。
ヒナはメンズエステの仕事を始めてから、男性の下半身を見る事には慣れていたので、タナカが紙パンツを脱いでも、特に怒ることもなく驚く事もなくそのまま施術を続けた……
「ヒナちゃんがセクシー過ぎて、俺のここが大変な事になっちゃったよ」
タナカは自らの股間を指差して言った。
そしてニヤニヤしながらこう続けた。
「責任取ってよ」
「え、責任ってなんですか?」
「え、分かってるくせに……
これこれ……」
タナカは片手で土管の形を作り、手を上下に動かした。
ヒナはメンエスでは、1度も男性のアソコを触る事は無かった。
触らずに誤爆(勝手に暴発)するお客様はいたが、こちらが意図的に性処理をする事はなかった。
そして今もこれから先も性処理をする事は無いと心に強く決めていた。
「それはできません!!」
ヒナは多少怪訝そうに言った。
「えー、ヒナちゃんいつもしてないの?
他の子は手でしてくれるよ!?」
『他の子はしてるよ』は過去にもクソ客からよく言われる言葉だった。
ルール破りのハードルを下げる為に、共犯者を出して安心感を与えているのだろう。
ルール破りが普通だと言われると、
「自分がダメなんだ」
「みんなと同じようにしよう」
「断りにくい」
と、思うセラピストもいるだろう。
特に、何も知らない新人はクソ客の口車に上手く乗せられてしまう事も多い。
しかし、ヒナは意志が強かった。
クソ客がリピートしなくてもお客様が付く自信があったからかもしれない。
とにかく自分から触る事は絶対に嫌だった。
これはヒナのプライドかもしれない。
お客様に強く反発する事で、トラブルになる危険性もあった。
しかし、幸いにも今までメンエスの仕事をしてて、強く反発してもトラブルにはならなかった。
そして今回もいつものようにこう言った。
「他の子は関係ありません!絶対に無理です!!」
そう強い口調で言うのだった……
㊙︎㊙︎㊙︎タナカのメンエス裏マニュアル㊙︎㊙︎㊙︎
㊙︎第一条
仰向けになったらスイッチを入れるべし
㊙︎第二条
断られたら「他の子はしてる」と言うべし
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