4話 初対面(ヒナ目線)
予約時間ちょうどになり、インターフォンが鳴った。
メンズエステでは時間ちょうどに来店するのが暗黙のルール。
予約状況によっては、インターバル(前のお客様と次のお客様との感覚)が15分しかない時もある。
・部屋の片付けや掃除
・セラピストのシャワーや着替え
・シャワー室の掃除
・身だしなみのチェック
他にも、
・次のお客様の情報確認
・セラピストのお手洗いや休憩
・床のオイル拭き取り
・洗濯
・備品の補充
など
施術中よりもインターバルの時間の方がバタつく事もある。
インターバルが短い時は多少時短(接客を短めに終える)しなければ身体が持たない。
ネット上では多くのメンエス関係者が時間ちょうどの来店を呼びかけている。
そのせいなのか、最近は時間ちょうどに来店するお客様が増えた気がする。
インターフォンが鳴ると自然とスイッチが入る。
『よし』(心の声)
ここから『メンエス嬢ヒナ』になるのである。
キャバクラ時代でもそうだが、接客中は女優になりきっている。
キャバクラ時代の先輩の口癖が
「接客中は完璧な女優になりきれ」
だった。
ヒナは今でもその言葉を忠実に守り続けている。
「どうぞ〜♪」
普段の2トーンくらい高い声を出した。
画面にはカメラ目線のタナカが笑顔で映っていた。
『キモい』と思いつつも、安心感があった。
他のお客様はメンズエステに行く事に後ろめたさがあるのか、マスクや帽子、サングラスなどで顔を隠して映る人も多い。
そんな中、カメラにしっかり顔を見せるという行為は、ヒナにとっては悪い印象ではなかった。
エレベーターが到着するタイミングを見計らって、ヒナは部屋のドアを空けてタナカを待った。
「こんにちは〜♪」
「こんにちは」
タナカの声を初めて聞いた。
これがタナカとの初対面である。
身長は165くらい。
中肉中背。
年は50前後といったところ。
髪はボサボサで、服装は少しダサい。
第一印象は普通のおじさん、特に悪い人には見えなかった。
どちらかと言うと礼儀正しそうで、真面目で良い人に見える。
部屋に入ってもらい施術部屋のイスに案内し、改めて挨拶をした。
「初めまして!ヒナです。本日はよろしくお願いしまーす♪」
「よろしくお願いします」
「今日は90分コースで良かったでしょうか?」
「はい」
「オプションはどうされますか?」
オプション表を見せると、少し間があってタナカは言った。
「んーと、衣装チェンジと極液とディープリンパをお願いします」
「かしこまりました。ありがとうございます♪」
ヒナはコース時間が伸びる事を恐れていた。
時間が長くなるほど際どい施術も増えたり、お客様の要望が多くなるリスクがあるからだ。
後の予約の都合で延長は断るつもりではいたが、嘘を吐く回数が減って少しだけホットした。
女優にはなりきるが、できれば嘘を吐きたくないというのが本音である。
会計を終えて、衣装を選んでもらう事にした。
「衣装はどれにしますか?」
いくつか見せてタナカは最も高額なマイクロビキニを選択した。
マイクロビキニにも、面積の大小などで様々な種類があるが、タナカが来店する前に面積の小さいマイクロビキニは隠しておいた。
クソ客にはマイクロビキニでも最も面積の大きいものしか選択権が無い。
ほぼ普通のビキニだが、タナカがクレームを言うことは無かった。
高額なオプションでバックも高いが、クソ客相手にはできればビキニは避けたかった。
衣装が決まったので、ヒナはタナカに服を脱ぐように促し、シャワーを浴びる準備をしてもらった。
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