2話 メンエス嬢ヒナ
時は事件から1時間前にさかのぼる。
私の名前はヒナ。
とはいってもメンズエステで働く時の源氏名(お店での偽名)である。
年は24歳。
『ファミリースパ』という店でメンズエステのセラピストをしている。
オーナーがスパイシーファミリーが好きなのと、家族のようなフレンドリーなお店になるようにと付けられた名前である。
店名のダサさには目をつむっている。
コロナ禍になる前はキャバクラで働いていたが、メンズエステの方が稼げるということを友人から聞いて転職した。
かれこれ2年近くメンズエステで働いている。
ヒナは美人でスタイルが良く、キャバクラでの経験のおかげでコミュニケーション能力も高く、さらにはノリも良い。
マッサージ技術はあまり高くはないが、ファミリースパでの指名ランキングは20人中3位である。
今日は店の常連客であるタナカの指名予約が入っている。
タナカは他のセラピスト3人からNG指定されており、オーナーに頼まれて私がオススメされることになったのである。
NGの理由は過剰要求とお触りらしい。
この業界ではよくある事だ。
店自体を出入り禁止にすればいいのにオーナーによると毎週利用している太客タナカを出禁にするのは経営的にしたくないらしい。
メンズエステの経営もきっと大変なのだろう。
危険な事は分かっていたが、ヒナはタナカの予約を受け付けることにした。
それは他のセラピストとは違い、ヒナにはクソ客を上手く扱う自信があったからだ。
キャバクラ時代に強引な男が多く居て、なんとかなってきたという自負があるのだろう。
それに何より、オーナーの力になりたかったというのもある………
予約時間ちょうどになりインターフォンが鳴った。
タナカが来店したのである。
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