28話 悲劇来たる
タナカは最後に鼠径部の施術を始めようとした。
ハラダの股の間に入り込み、オイルを手に馴染ませてハラダの鼠径部に手を置いた。
ヤバイ、ぼーっとしてきた……
ふわぁー
バタッ
タナカはハラダの上に倒れた。
タナカの顔がハラダのお腹の上でバウンドした。
「え!?大丈夫?」
ハラダがヒナの姿をしたタナカに声を掛けた。
しかし、タナカは応答しなかった。
その頃、遠隔で様子を見ていたタナカの姿をしたヒナも声を上げた。
「え!?ヤバっ!
どうしよう……」
少しヒナは考えたがタナカがしばらく起き上がらなかったので、助けに行く事にした。
一方ハラダは身体を起こし、ヒナを施術マットに仰向けに寝かした。
「んー、どうしよう。店に連絡したほうがいいかな……」
ヒナの姿をしたタナカが目を覚まさなかったので、紙パンツ姿のハラダはそのまま店に電話をかけようとした。
その時、
『ガチャ』
個室になっている施術ルームに、タナカの姿をしたヒナが入ってきた。
「失礼します。店の者です!」
「え、今電話しようと思ったのになんで分かったんですか?」
隠しカメラで見ていたなんて言えないヒナは咄嗟にウソをついた。
「あー、なんか声が聞こえた気がしたので心配になって入ってしまいました。ごめんなさい!」
「裏にいらっしゃったんですね」
「あ、はい。そんな事より、ヒナさんの容体は?」
「さっきから声を掛けてるんですが、全然気づかないんです。救急車呼びますか?」
「いや、それはちょっと待ってください」
病院に行けば入れ替わったこともバレてしまうかもしれない。色々と面倒なことも予想される…
タナカの姿をしたヒナは、救急車を呼ばずにひとまず窓を全開にして換気した。
そして、しばらく声を掛け続けた。
「ヒナさーん!
ヒナさーん!」
すると、ヒナの姿をしたタナカが目を覚ました。
「ん?俺、気を失ってたのか?」
「うん、大丈夫?しばらく横になってていいから」
過労、睡眠不足、異臭による呼吸困難が原因だろう。
ヒナの姿をしたタナカは数分間気を失っていた。
「ヒナちゃん大丈夫?」
ハラダが声を掛けた。
「あ、はい、大丈夫です。
ごめんなさい。
施術の途中でしたね。
すぐに再開しますので」
そう言ってヒナの姿をしたタナカは立ち上がろうとした。
すると、立ちくらみのようにタナカはふらついた。
危険を察知したタナカの姿をしたヒナは、すぐにタナカを支えた。
「ほら、ちゃんと休んでなきゃダメでしょ。また、横になってなさい」
タナカの姿をしたヒナが言った。
「ヒナちゃん無理しないでいいよ」
ハラダも気遣った。
「すいません。ありがとうございます」
そう言ってヒナの姿をしたタナカは再び横になった。
「あの……私が代わりに続きをやりましょうか……」
どうすればいいのか固まっていたハラダに、タナカの姿をしたヒナが言った。
「えっ?……あなたがやるんですか?……」
やっぱり、おじさんがおじさんにするのは嫌か…
そうヒナは心の中で思った。
「えっと、、ダメですよね……この子より上手いとは思うんですけどね、、ハハハ」
結局スタッフに扮したタナカの姿をしたヒナは、ハラダにお金を全額返却し、ハラダには今回の件は全て口外禁止だと念入りに口止めをして、帰ってもらった。
「なんか悪かったな。最後までやりきれなくて」
ヒナの姿をしたタナカは謝罪した。
「いいのよ。他人に仕事を任せようとした私が悪かったの。あなたは自分の仕事をしながら私の仕事までしてくれてよく頑張ってくれたと思うわ」
「うん……」
「店の人やオーナーには私から説明しとくから、落ち着いたら帰っていいわよ」
幸いハラダは怒っておらず、この件は大きな騒ぎにならずに終わった。
しばらくして、2人は別々に帰路につきヒナの家で再会するのだった。
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