23話 タナカ頑張る
月曜日の朝になってタナカの姿をしたヒナが父親役から戻ってきた。
仕事に行くフリをしてヒナの部屋に帰ってきたのである。
ヒナの姿をしたタナカはリモートワークをしていた。
部長というだけあって、仕事も多いのだろう。
「ただいま」
「おう、おかえり……
うちは大丈夫だった?」
「え、えー、大丈夫よ。なんとかなったわ」
「なんとかって、さては何かあったんだな」
「でも、大丈夫だから」
「ま、後から聞かせてもらうよ。仕事も忙しいし……」
「私はもう会社行かなくていいの?」
「おう、今のところリモートでなんとかなってるから大丈夫だよ。体調も微妙な事になってるし、どうせ行っても何もできないだろ?」
「まあ、そうだけど」
タナカの仕事中、暇なヒナは計算ドリルをしていた。
その姿を見てタナカは笑った。
「お前、何やってるんだよ?」
「勉強!ほら、ヒマリちゃんに教える為に!それにハルト君も頭の悪いパパは嫌だって言ってたし……」
「それなら元通りに戻る方法考えた方が早くないか?」
「それも今まで散々考えてきたでしょ?」
「まあ、そうだな」
「いつ戻れるか分からないし、、せめて子供達には迷惑かけたくないなって思って……」
そんな一生懸命なヒナを見てタナカは少し嬉しかった。
「なんか、、ありがとな」
「勘違いしないで!別にあんたの為にやってるわけじゃないんだから、、これは子供達と私の為だから!」
「おう、じゃあ頑張ってな……」
午後になってもタナカは仕事を忙しそうに進めていた。
一方ヒナは、あまり捗って(はかどって)いなかった。そもそも、今まで勉強を真面目にした事が無かったから勉強の仕方が分からなかったのである。
「はぁーだめ。小学生の問題なのに難し過ぎる……」
「掛け算の問題だろ?九九を覚えていなかったら解けないよ!」
そうタナカが助言した。
「やっぱ、そうだよね。九九から覚えなおさないとな……
ところで仕事は落ち着いたの?」
「なんとかな」
「じゃあ、メンズエステの練習もしないとね。週末は予約入ってるし……」
「えー、前に練習した感じだとだめなの?」
「うん、初めてのお客様ならなんとかなるだろうけど、もっと練習しないと常連様にバレちゃうわ」
そうして仕事を終えたタナカは、夜はみっちりメンズエステの練習をするのであった。
文句を言いながら頑張るタナカを見て、ヒナは少しだけ見直した。
褒めてあげようか迷ったけど、ヒナはタナカを褒めなかった。
恥ずかしさもあったし、入れ替わりの事件の日を許したわけではなかったから……
タナカは平日の5日間、昼間は仕事をして夜はメンズエステの練習という流れを続けた。
「ふうー、疲れたー」
「お疲れ様!だいぶ上手になったね!これなら明日の予約もなんとかなりそうね」
「メンズエステってテキトーにやってるかと思ってだけど、意外に色々考えてるんだな。奥が深い」
「そうね。施術だけでも上手くなるにはかなり練習や経験がいるのよ!常連様を飽きさせない工夫も必要だし……
あとは明日のお客様の情報もしっかり復習しといてよ!」
「はーい」
翌日。
こうしてついにクソ客タナカの、メンズエステのセラピストデビューの日がやってくるのであった。
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