20話 メンズエステの練習
2人が入れ替わって1週間が経過した。
元通りに戻る方法は未だに見つからない。
というより、2人は現状を乗り切る事に精一杯だった。
《土曜日の朝》
「タナカー、相談があるんだけど……」
「ん、何?」
「あのー、私もそろそろ仕事を再開したいと思うんだけど……」
「え、メンズエステ?」
「うん」
「えーと、つまりそれは俺が働くって事だよな?」
「そうね、私の身体を操っているあなたが働くって事」
「えー、俺が男の身体触るの?嫌だなー」
「私は今までそれをやってきたの!あんたも客として来てたんだからわかるでしょ?」
「分かるよ。仕事内容はなんとなく分かるよ!でも、汚いおっさんとかも来るんだろ?やっぱり嫌だよ」
「あんたも汚いおっさんの仲間でしょうが!もし元に戻れても仕事やお客さんが無かったら生活に困るでしょ?その為にもたまには出勤した方がいいと思うの。あんたの会社が休みの週末だけでいいからお願い!!」
タカナの姿をしたヒナが手を合わせて頭を下げた。
ヒナの姿をしたタナカは、自分の姿で頭を下げられたので少し同情してしまった。
「じゃあ、とりあえず週末だけ……
短時間にしてくれよ」
「うん、ありがとう!
来週から大丈夫そう?」
「分かった」
1時間後
「予約入ったよ!」
「え?もう?」
「うん!オーナーに連絡して、SNSに投稿したら速攻で入ったよ!」
「早っ」
「毎週来てる常連様がいるのよ!先週は予約キャンセルにしてもらったし、今週も無理だからきっと来週は楽しみにしてると思うよ!」
「若い人?おじさん?」
「多分あんたより少し歳上かな。嫌だ?」
「んー、色々考えたけど、おじさんは汚そうで嫌だし、若い男をマッサージするのもなんか嫌だ!結局どっちも嫌だなって思った笑」
「なにそれ!聞く意味ないし笑」
「あ、1番いいのは綺麗なおじいちゃんがいいかも!静かでラクそうだし」
「綺麗なおじいちゃんって、、そんな人来るわけないでしょ……」
「そうかな。ま、誰でもいいよ!考えても仕方ないし……
練習するんだろ?マッサージの……」
「もちろん!
私の技を全て教えるから、頑張って入れ替わった事がバレないようにしてね」
「おう!ちなみに給料もらえるの?」
「んー、じゃあ半分ずつね」
「よし!
でもお前はなにもせずに半分ももらえるのズルくないか?」
「え?バレた。ウフフ笑
でも、私が教えるんだし、私の身体を使うんだよー。半分でも結構いいお金になるし、差し入れやチップはあんたの好きにしていいから!」
「ふーん、まあいいや。続けれるか分からないし、とりあえず練習するか……」
「そうね!」
こうして1週間後のタナカのメンエスデビューに向けて練習が始まるのだった。
タナカの姿をしたヒナがモデルになり、ヒナの姿をしたタナカが実際にオイルを使ってマッサージした。
「うわー、おっさんのすね毛は邪魔だなー。オイル使ってるのになめらかにすべらないよ」
「この足はあんたの足だろうが!メンエス嬢はいつもすね毛ボボーの足をオイルマッサージしてるの!」
「そうだけど……モデルが女の子の身体ならやる気出るのにな……おっぱいマッサージしたいな!」
「いちいち文句を言うな!真面目にやれ!
あと、私のおっぱいはマッサージするなよ!」
「え、俺の思考バレてた?
でも、別にいいだろお風呂の時おっぱいいっぱい触ってるし……」
ヒナの姿をしたタナカは、トイレやお風呂、着替えも1人でするようになっていたので、当然ヒナの身体の隅々まで見たり触ったりしていた。
「うるさい、分かってるけどそういうのは聞きたくないの!とにかく無駄に私の身体に触るなって事!ぶん殴るぞこの野郎」
ヒナは本当に殴りたいくらいだったが、自分の身体を傷つける事になるので止めることにした。
「ごめんごめん。そんな怒るなよ。真面目にやるからさ」
タナカはその後は真面目に練習した。
メンズエステには何度も行っているので、施術を覚えるのは早かった。
「じゃあ次はマーメイドね」
「えー、マーメイドって足絡めて密着するやつ?」
「うん、そう。よく知ってるね」
「まあ、メンエスに行った数は多いからな!」
タナカはヒナに教わりながらマーメイドを練習した。
「はぁ、まだ自分の身体がモデルだからできたけど、知らないおっさんに密着するのは嫌だなー。吐き気がしてきた」
「んー、そればかりは頑張って我慢してねとしか言えないね。お客さんに吐かないでね」
「うん、もしもの時はトイレに駆け込むよ……」
その後も、カエル足、四つん這い、鼠径部、おっぱいスタンプ、密着など、メンエス特有の技をタナカは習得した。
いつも受けているだけあって、未経験の新人セラピストよりも覚えは早く、技術も上手だった。
「よし、とりあえず施術はこんなもんでいいかな。あとは接客や本指名様の情報を覚えてもらわないとね」
「はぁ、まだあるのか……」
「今日はこれで終わりでいいよ。
お疲れ様。
ところで……
気になった事があるんだけど、質問してもいい?」
タナカの姿をしたヒナが、ヒナの姿をしたタナカに、少し遠慮気味に尋ねた……
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