18話 動物園③迷子
ヒナの姿をしたタナカはイトウ家のやり取りを陰で見ていたので、ヒマリが迷子になった事には察しがついた。
イトウ家が探しに行くと、ヒナの姿をしたタナカもヒマリを探しに行った。
必死の捜索だったが、ヒマリはなかなか見つからなかった。
すると突然園内放送が流れた。
ピンポーンパンポーン!
「園内の皆様にご連絡します。先程、園内の馬が脱走致しました。
現在係員が全力で対処しております。
つきましては、脱走した馬には近づかないようにお願いします」
ピンポーンパンポーン
「ヒマリ大丈夫かな」
イトウ家やタナカ、ヒマリを捜索しているみんなが同じことを思った。
…
…
ヒマリは馬小屋から少し離れた場所にしゃがみこんでいた。
帰り道が分からなくなって泣いてしまったのである。
ヒマリは下を向いて泣いていて動けない。
タナカは園内放送を聞いて急いで馬小屋の近くまで、やってきた。
走り回っている馬を複数の係員が追いかけていた。
すると、馬の走行方向にヒマリがいたのである。
「ヤバイ、ヒマリが危ない!」
ヒナの姿をしたタナカが泣いているヒマリに猛ダッシュで接近した。
逃げ出した馬もヒマリに向かって走っていた。
「危なーい!」
「誰かー」
「止まってー」
「子供がいるー」
子供が馬に轢かれそうになる様子を見て、周辺のお客さんが騒ぎ出していた。
「キャーーーー」
間一髪の所でヒナの姿をしたタナカが、ヒマリの救出に成功した。
馬の騒ぎで不安になったタナカの姿をしたヒナも、遠くから一部始終を見ていた。
その後、馬は暴れながらも係員に捕まった。
突然のことに、ヒマリはさらに泣いた。
「ヒマリ、もう大丈夫だからな。ヨシヨシ」
そう言ってタナカはヒマリの頭を撫でた。
そして、すぐにヒナも2人のもとに駆けつけて言った。
「ギリギリだったね。凄いよー」
それにタナカは返事した。
「おう、焦ったよ……
騒ぎになるとめんどくさいから、父親の姿をしたお前が助けた事にしろ」
タナカは父親の姿をしたヒナにヒマリを預けて去った。
「ヒマリちゃん怖かったね。もう大丈夫だよ」
父親が来て安心したのか、ヒマリは徐々に落ち着き、泣き止んだ。
周辺では若い女性が子供の危機を救った事で、ちょっとした騒ぎになっていた……
伊藤家とタナカはそれぞれ家路についた。
「ヒマリ。もう迷子になっちゃだめだよ」
そう母親のマミコが言った。
「うん」
「パパが助けてくれたみたいで良かったね」
「んーん、お姉ちゃんが助けてくれたの」
「お姉ちゃん?動物園のスタッフの人かな?」
「わかんなーい。でも、凄い綺麗な人だったよ」
「そうなの?あなた?」
マミコは旦那に聞いた。
「あー、そうそう、動物園の係員と俺の2人で救出したんだよ。あはははは……」
マミコには、旦那が嘘を吐いているように感じたが、深くは追求しなかった。
娘のヒマリが助かったのは事実なのだから、今回は旦那に感謝する事にしたのである。
その後、タナカの計らいで仕事を理由にタナカの姿をしたヒナは、伊藤家ではなくヒナの自宅に向かう事ができた。
そして、ヒナはタナカの待つヒナの自宅にようやく到着した。
「はー、疲れた」
「おかえり」
「家族で動物園に行くのは大変ね」
「今回は嘘も吐かなきゃいけないから、尚更大変だったな」
「あと、おじさんの身体は少し歩くだけですぐ疲れるのよー」
「あー、それは悪かったな」
……
タナカはヒナの身体にできた擦り傷をヒナに見せた。
「ごめんな、傷作っちゃって」
「いいよいいよ、これくらい。ヒマリちゃんに怪我がなくて良かったわー。
それにかっこよかったわー私の身体(笑)」
「けどほんとに助かったよ!若い身体だったから瞬発力が良くて助けられたんだと思う」
「そうなんだ。メンズエステではしばらく働けなくなるけど、ちょうど言い訳になって良かったのかも……」
タナカの姿をしたヒナはヒナの姿をしたタナカの手当てをした。
「今日はありがとな」
タナカがお礼を言った。
「こちらこそありがとう。
動物園楽しかった。
それにヒマリちゃん助けてくれたし」
「いや、ヒマリは俺の娘だから助けるのは当然だろ」
「あ、そっか。
なんか親になった気分だったよ(笑)」
2人はお互いの顔を見て笑った。
最悪の出会いの2人が笑い合ったのは、この時が初めてのことだった……
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