17話 動物園②
「はぁーやっと着いたー!」
タナカ(本名イトウシュウジ)の姿をしたヒナが声を発した。
車内と妻のマミコの尋問からの両方からの解放だった。
「私がチケット買ってくるからママたちは待ってて!」
そう言ってヒナはチケット売り場に行った。
マミコは旦那の一人称が違うことに(普段は『俺』)気づいていたがスルーした。
「分かったわ。パパよろしくね!」
ヒナがチケット売り場に並ぶと同時に、ヒナの姿をしたタナカも列に並んだ。
ヒナが前でタナカが後ろ。
他の人に怪しまれないように、タナカはヒナにラインを送った。
「バスの中、大丈夫だったか?」
実際はかなり怪しまれていたがヒナはオッケーマークを手で作り、後ろのタナカに見せた。
「引き続きよろしく」(ライン)
そして今度はグッドマークd(^_^o)を後ろのタナカに見せた。
タナカの姿をしたヒナはチケットを購入して家族の元に戻った。
そしてイトウ家の4人とタナカは動物園に入園した。
イトウ家の4人の少し後ろから見守るように、ヒナの姿をしたタナカは尾行した。
若い女性の格好なので特に変装したりコソコソする事は無かったが、若い女性が1人で動物園の中を歩いているのは少し寂しく見えた。
しかし、タナカには寂しいという感情はなく、ただ無事に動物園のお出かけを終えて欲しいと願うばかりだった。
そんなタナカの不安を知ってか知らずか、タナカの姿をしたヒナは動物園をエンジョイした。
息子のハルトと手を繋ぎ、娘のヒマリを肩車してあげたりもした。
「ヒマリちゃん!ゾウさんおっきいねー!私初めて見たよ!」
「えー、パパ初めてなの?ヒマリは遠足で見た事あるから2回目だよ!」
「えー、いいなー!」
この会話を聞いていたハルトがマミコに言った。
「あれ、ヒマリがもっと小さい時に家族で動物園行かなかったっけ?」
「んー、5年くらい前にここの動物園来たと思うよ」
そうマミコが返事した。
「あれそうだっけ、忘れちゃってた、ハハハ」
そうタナカの姿をしたヒナが言った。
少し後ろのヒナの姿をしたタナカはこの会話を聞きながら顔を抑えてヒヤヒヤしていた。
「そろそろお昼にしよっかー」
そうマミコが切り出した。
イトウ家は動物園の中にある飲食スペースで食事をした。
ヒナの姿をしたタナカも少し離れた場所で食事をした。
「ママ!トイレ」
ヒマリが食事中に言った。
「僕もトイレ!」
ハルトも言った。
「えー、2人とも?……
2人だけで行ける?」
マミコが半分困ったように言った。
「うん」(ヒマリ)
「うん、大丈夫」(ハルト)
そう言って2人は飲食スペースから少し離れたトイレに向かった。
「ねー、あなた!やっぱり変よ!」
夫婦2人になった瞬間、マミコが心配そうに旦那に言った。
「え、どこが?普通でしょ?」
そう、タナカの姿をしたヒナが言った。
「だって、子供みたいにはしゃいでるし……
それに……」
「それに?」
「ゾウさん初めて見たって言ってたし……」
「そ、それは5年前の事だから忘れちゃってて……」
「違うの、5年前に来たけど、10年前にも来てるの!!」
「え!?そうだっけ?」
「10年前私達は初デートにここに来たの。そしてゾウさんの前であなたは私に告白したのよ!ここの動物園は私達にとって特別な場所。どうしてそんな大切な場所を忘れるの……」
や、やばい……
泣き出しそうなマミコを見てヒナは何も言えなくなった。
「……きっと、記憶喪失になったのよ。明日病院に行きましょ!」
「……わ、分かったよ。見てもらってくるよ」
入れ替わった事を言えないヒナは一旦マミコの助言を受け入れる事にした。
一方、トイレを終えたハルトは数分待ったが、ヒマリは女子トイレから出てこなかった。
ハルトは自分より先にヒマリがトイレを済ませて戻ったと思い、1人で飲食スペースに戻る事にした。
「あれ、ハルト1人?」
そうマミコが問いかけた。
「うん、待ってたけど全然来なかったから、先に戻ってると思ってさ……」
「ヒマリちゃんはまだ戻ってきてないよ」
ヒナが言った。
「あれー?じゃあまだトイレかな……」
ハルトが両親に言った。
「えー、私心配だから見てくるね」
マミコはそう言ってトイレに向かった。
……
しばらくして、マミコが1人で戻ってきた。
「ダメだわ。トイレの中には居なかった」
「こっちにも戻ってきてないよ」(ヒナ)
「ヒマリどこ行ったんだよー」(ハルト)
「ヒマリちゃん迷子になっちゃったんだね。私も探しに行くわ」
そう、ヒナが言った。
「じゃあ、私もハルトと一緒に探しに行くわ」
マミコが言った。
タナカの姿をしたヒナは1人で、マミコとハルトは2人で、イトウ家は二手に分かれてヒマリを探しに行く事にした。
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