16話 動物園①
タナカの姿をしたヒナと、タナカの妻と子供2人は駅で待ち合わせをして動物園に行く事にした。
提案したのはヒナで、理由はヒナが動物園に行きたかったからだ。
「おい、遊びに行くんじゃないぞ。これはあくまでミッションなんだからな。絶対に怪しまれるなよ」
タナカがヒナに注意をした。
「大丈夫大丈夫!
ここの動物園ゾウさんいるかな?キリンさんも見たいなー♪」
「こんなんで大丈夫かよ……
じゃあそろそろあいつらが来る時間だからよろしく頼むぞ!」
そう言って、ヒナの姿をしたタナカは、タナカの姿をしたヒナから離れた。
家に居ても不安なタナカは、家族の動物園へのお出かけを尾行する事にしたのだ。
……
「あー、パパだー」
小学2年生になるタナカの長女『イトウヒマリ』がタナカの姿をしたヒナに声を掛けた。
「あー、ヒマリちゃんだー!ちょー可愛いー!初めまして♪」
ヒナは手を振りながらヒマリに歩み寄った。
「パパ何言ってんの?昨日も普通に会ってただろ!?」
そう、ヒマリの兄でタナカの長男の『イトウハルト』が言った。
「あ、そうだよね!可愛すぎてつい初めましてって言っちゃった。ごめんごめん」
「あなた大丈夫?体調まだ悪いんじゃないの?」
後ろからタナカの妻の『イトウマミコ』がやってきて言った。
「あははは、大丈夫大丈夫!昨日は飲み過ぎちゃったけど、元気ピンピンだよ」
そういいながらヒナはボディビルダーがやるようなポーズをとった。
「ま、いいわ。じゃあ早速向かいましょ」
様子がおかしそうな旦那に気を使ったのか、妻のマミコが動物園への道のりをリードした。
駅からはシャトルバスが出ているようで、イトウ家と尾行中のヒナの姿をしたタナカはシャトルバスに乗り込んだ。
子供たちは隣同士で座って、その後ろで夫婦が座る事になった。
ヒナの姿をしたタナカは最後方に1人で座った。
……
「ねー、あなたほんとに大丈夫なの?」
小声で妻のマミコが言った。
「え、大丈夫だよ。凄い元気だよ」
「違う!そういうことじゃなくて…
さっきから言葉使いが優しいっていうか…女っぽい所もあるし…」
(ドキッとするヒナ)
「それに、鼻毛が出てないし、眉毛も整ってる。あなたもしかして……」
「やばいバレたかも」と心の中で焦るヒナ……
「もしかして、昨日女の家に泊まってたでしよ?」
「い、いや、違う、違うんだ…(ホントに泊まってだけど)」
タナカの顔が汚過ぎて整えていたのが仇となってしまった。そしてヒナは咄嗟に思いついた嘘をついた。
「ほら、最近美容男子って流行ってるだろ!昨日会った友達の中にオネエ系のやつもいてさ、化粧してたんだよ。それでそいつに俺も整えてもらったんだよ。汚いおっさんよりもキレイなおっさんの方がいいだろ?
言葉遣いは昨日のオネエ系の友達のがうつったんだよ」
「ふーん、まーいいわ。そういう事にしといてあげる……」
マミコはまたいつもの嘘だろうと思ったが、深く追求する事はしなかった。
夫婦の関係はここ数年冷め切っていたので、マミコとしては浮気していようがそこまで気にしなかったのだ。
それにマミコはシュウジ(タナカの本名はイトウシュウジ)がコソコソと風俗かキャバクラのようなところでお金を使っている事になんとなく気づいていた。
女の家に泊まることよりも、お店で女に大金を使うことの方が嫌だった。
離婚する時はたんまり慰謝料を請求するつもりでいたから、ある程度のお金を貯めておいてもらわないと困る。
マミコに怪しまれて咄嗟に嘘をついたヒナは、脇汗が尋常じゃないくらい出ていた。
「これだからおっさんの体は嫌だ」と心の中で思うヒナであった。
そんな夫婦の気まずい会話を知らない子供達は、動物園への道中を楽しんでいた。
一方、最後部のタナカは呑気に寝ていた。
タナカは妻にメンズエステに通っている事は隠せてると思っていたし、妻が離婚を考えているとはこれっぽっちも思っていなかった。
そうこうしている間に、イトウ家とタナカを乗せたシャトルバスは目的地の動物園に到着するのだった。
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