15話 ヒナ 動きます
朝になった。
2人ともいつもに増して喉が痛いような気がした。
「おはよう」
タナカから先に挨拶をした。
「おはよう」
ヒナも返した。
今日は日曜日。
ヒナは昨日の事もありメンズエステの仕事をしばらく休む事にした。
タナカは日曜日という事で仕事が休み。
しかし、スマホを何度も見ながら落ち着かない様子だった。
「どうしたの?さっきから落ち着かない様子で……」
そうヒナが問いかけた。
「嫁からずっと着信やLINEが来てるんだよ」
「そっか、その声じゃ電話出られないもんね……で、奥さんなんだって?」
「今日実は子供達を遊びに連れて行く予定だったんだよ。こんな状況だし断ったら怒り出してさ……特に電話にすら出ない事に腹が立ってるらしい……」
「そりゃ誰だって怒るよー、てかあんた子供まで居たんだ……
いいわ、私に任せて」
そう言ってタナカの姿をしたヒナは、振動しているタナカのスマホに出た。
「あ、やっと出た!ちょっとあなた一体何してるの!!ちっとも帰って来ないし、電話にも出ないし、いい加減にしてよ!!!」
タナカの妻の怒りが爆発した。
「ごめーん。昨日偶然高校の同級生に遭遇してさー、飲み過ぎて記憶がないんだよね。今日子供達を遊びに連れてく日だったよね。これからすぐに帰るからもう少し待ってて!!」
ヒナの勝手な言動にタナカは驚き、空いた口が塞がらない状態になった。しかし通話中に口を出すことはできない。
「え、さっきLINEで無理だって送ってきたじゃない。大丈夫なの?」
タナカの妻も驚いたように返した。
「大丈夫、大丈夫!それより予定の時間過ぎちゃってごめんねー。子供達にも伝えといて!」
「分かった」
そうやり取りし、通話を終えた。
「おい、何勝手な事してるんだよ!」
電話が終わると即座にタナカが突っ込んだ。
「大丈夫!私が責任持ってやるから」
「責任って言っても、、俺の嫁や子供達と会うんだぞ?正気か?」
「正気だよ!でも勘違いしないでね。あんたの為にやるんじゃないんだからね!奥さんや子供達が可哀想だからやってあげるの!
それに奥さんに怪しまれたら入れ替わった事がバレてしまうわ。だから私の為でもあるの」
「分かった分かった。でも絶対に余計なことは言うなよ。あとメンエスに通ってる事も内緒だからな」
「分かってるって!私だって入れ替わった事は絶対にバレたくないもの。最善の注意を払うわ。泥舟に乗った気持ちで安心して待ってなさい」
「いや泥舟はダメな時に使う言葉だろ」
「あははは、細かい事は気にしないの!」
タナカは昨晩あんなに機嫌が悪かったヒナが、こんなことをするとは思いもしなかった。
つくづく女心は難しいとタナカは思った。
とはいえ、家庭崩壊の危機から脱する事ができるかもしれないと期待を持つ事もできた。
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