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族長ガイドマンと生き神バロネス

 

 村は、20ほどの大きめのテントと馬車で成り立っていた。

 草原の中に、ただテントを並べただけだ。

 それでも、その並び方は規則的な円状で、しっかりとした文化を感じさせる。


「ここが族長のテントなのだ!

 族長は気むずかしそうに見えるけど、

 誠意を持って話せばちゃんと聞いてくれる人なのだ!」

「ああ、失礼の無いようにするよ」


 私が想像するのはいかにもな頑固な古老の姿だ。

 髭はぼうぼうで、酒飲みで、がっしりとした職人肌の老人……

 ちょうど、伝承にあるドワーフのような。


「さあいくのだ!族長!ラフィング・オッタルが客人を連れて入るのだ!」

「……入んな」


 奥からしゃがれた低い老人の声がしてテントの幕を開けて入る。

 まさに想像の通りの人物がそこにいた。

 獣の毛皮を肩にかけ、難しそうな顔でなにやら木彫りの像を彫っている。


「突然の来訪、失礼する。私はコートマン。

 こちらのオッタルに行き折れていたところを救われました。

 ついては、恩返しをしたく、しばらく軒を貸していただきたい」


 族長はそれを背中で聞いて、しばらく木を彫っていた。

 そしてオッタルが何か声をかけようとした頃に、振り向いた。

 まさに、頑固一徹な古老だ。


「……フン、開拓民、それも訳ありか」

「手土産も無く、申し訳ない」


 しばし、族長と私の目線が交差する。族長は私を見、私は族長を見た。

 ジジイとジジイが見つめ合っているのは、実にむさ苦しい光景だろう。

 だが、お互いになんとなく人となりはつかめてきた。

 悪いやつではない。そんな言葉が浮かんでくる。


「……好きにしな。屋根くらいは貸してやる。

 表の騒ぎも止めてくれたみたいだしな」

「ありがとうございます」


 そして老人は木彫りの像を床に置くと、じっと部屋の中央にある祭壇を見た。

 祭壇に祀られているのはヒトの頭蓋骨だろうか?


「うちの神様の一つだ。手ぇくらい合わせていきな」

「わかりました。作法も知らぬ身ですが……」

「フン、心がこもっていれば何でもいい……」


 私はしばしその頭蓋骨を見る。

 いや、あれはヒトの頭蓋骨では無い。オートマータの頭部中枢ユニットだ。

 まだ生きているのだろうか?それでも、きっと大切なものには違いあるまい。

 私は静かに手を合わせ、こう祈った。しばし世話になることを許してくれと。


「……認証を確認。クラス:アーキテクト。

 おかえりなさい、マスター・クリストフ。

 ……生きていたのですね。

 ならば、さっさと私のマスターになって自己再生機能をオンにするのです」


 どうやらあの都市、ヤハガムで普及していたオートマータの一体らしい。

 たしかに設計に少しはかかわった記憶がある。

 この声は……よく売れていたごく一般的な型のようだ。


「君……いや、あなたもまだ生きていたのか」

「早く認証をするのです。太陽充電ではあまりバッテリーがないのです」

「わかった、開発者コード声紋認証によりログイン。マスター登録」

「承認したのです」

「自己再生機能オン」

「よし!なのです。私が許可します、私を地面に下ろすのです。

 いいですね、族長」


 ここで成り行きをじっとうかがっていた族長がうなずいた。

 オッタルは事の成り行きを呆然とみていた。


「ああ、お前さんがそれでいいのなら」

「もちろんなのです。早くするのです」

「はいはい」


 族長は恭しい手つきでオートマータの頭部を床に下ろす。

 すると、頭骨がぼこぼこと泡立ち、霧を発して動き出す。

 あっという間に、さっきまでどくろだったものが美しい白髪の少女に変わった。

 白い羽毛を身に纏い、その下はかつてヤハガムでよく見た少女向きのシャツとスカートを穿いている。


「うっ、うわーっ!神様が降りてきたのだ!これは神秘なのだ!」

「……落ち着け、オッタル。フン、バロネス。

 こいつがお前さんのいつか言ってた待ち人ってやつなのかい」


 オートマータは女主人(バロネス)と呼ばれているようだ。

 なるほど、よく合っている名前だ。

 おそらく、彼女はずっとこの部族に助言をしてきたのだろう。

 私のように、彼らに拾われ彼らの温かさに触れて。


「ええ、彼が来るとは意外でしたが。

 それでも、他のやつらよりはずっとましな部類なのです。

 族長、彼は私の客人なのです。丁重にもてなすように」

「いや、お気遣い無く。私はあくまでただの訳ありの流れ者です。

 特別扱いは不要」


 バロネスは星空のような輝く青い目でこちらを見る。


「ここに居ることを強く要請するのです、マスター」

「……コートマンと。今はそう名乗っている」

「わかったのです、コートマン。ともかく、当分の間はここにいるのです」

「……それが許されるのであれば。族長?」


 族長は困ったようにバロネスと私を見やると、ため息を一つ吐いた。


「……好きにしな。ついでに俺の馬車からテントも持って行け。

 さっき言ったとおりだ。寝る場所くらいは貸してやる」

「ありがとうございます」

「……行きな。

 ……それから、そのうち酒でも手に入ったらもってこい。サシで呑もう」

「わかりました、寛大な処置に感謝をします」


 私は深く一礼し、まだ事態をよく分かっていないオッタルと共にテントを出た。


「理解が追いつかないのだ……つまりどういうことなのだ?」

「つまり、コートマンは私とこの村でいっしょに暮らすと言うことなのです。

 ご意見番権限なのです」

「おお、バロネスさまありがたいのだ!

 やったのだ!これでコートマンから教えを学べるのだ!」

「そういうことなのです。

 さあ、オッタル。私の復活と共にこれを皆に伝えてくるのです」


 オッタルの紅顔がぱぁっと明るくなり、聞くやいなや駆けだしていった。


「わかったのだ!おーいおーいみんなー!

 すごいことが起きたのだ!奇跡なのだ!」


 どうやら、ただ恩返しに剣を教える……というだけではすまない事態に巻き込まれつつあるらしい。

 だが、どうせ引き返す道も無く、このいい人達である彼らに恩返しをしたいという目的に変わりは無い。


「謀ったねバロネス」

「謀ったのですコートマン。

 でもどうせ一晩や二晩で剣が身につくわけも無いからこれで良いのです」

「……そういうものかね」

「そういうものなのです」


 燃えるような夕日に、帰り道を急ぐワタリガラスの群れが跳んでいった。

 私はその雄大な空をただしばらくは見ていよう。

 もはや事の成り行きに任せるしか無い。

 なにしろ、私はまだ何も知らず、そしてそれはいずれバロネスから語られるだろうから。

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