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探求者ダミアヌスと語り部エイミング・クロウ

 我々が村につくと、なにやら言い争う声が聞こえてきた。


「帰りな。あんたに聞かせる話はないよ!」

「おやおやおや……こんなに頼んでも?」


 部族の古老であろう背筋のしゃんと伸びた老婆と、

 私の着ているコートや帽子に似たデザインの服を着た陰気そうな男。

 そして、老婆を取り囲む銃を持った柄の悪そうな男達。

 彼らもまた、ヤハガムの装いに似たコートと帽子姿だ。

 数は五人か。


「では仕方ない、ああ仕方ないなあ!力尽くで聞き出すしかないようだ……!」


 陰気そうな男がゲラゲラと笑い、パチンと指を鳴らすと男達が銃を構えた。


「撃ちたまえ諸君。

 おっと、聞き出す前に死んでは困るから、足先をよく狙ってくれたまえよ?」

「イエッサー」


 私とオッタル達は村の入り口で馬車を止め、その様子を陰からうかがっていた。


「ど、どうするのだコートマン。

 私は戦うのだ!カンギー族の戦士は死は恐れないのだ。

 でも、ただ出て行っても撃ち殺されるだけだでよ……!」

「一つ聞くが……彼らは殺してしまっても?」


 私はすでに意識を戦闘に切り替えていた。

 加速された脳によりオッタルの声がひどくゆっくり聞こえる。


「たぶん大丈夫だろう。

 あいつ……ダミアヌスは開拓民の中でも鼻つまみ者らしいんだ。

 何より、この状況では仕方ないよ」


 ヤツィが答えた。それだけで私の意志は決まった。


「解った。我が狩りをお見せしよう」


 私は剣を抜いて歩き出す。オッタルがおろおろとついてきてきたが、私は手で制した。


「まっ、待つのだ!さすがに死んでしまうのだーっ!」


 その声で、男達が一斉に振り向いた。その瞬間、私は駆けた。

 あえて剣を地面にすりつけ、火花を出す。視線がオッタルから私に向く。


「何……?新手か。もういい、一人くらい殺した方が早く済む。撃ち給え、諸君。殺して良いぞ」

「イェアアア!野郎共!やっちまえー!」


 男達の銃が火を噴く。だが私は大きく空に跳び、『物置き』から左手にいくつものナイフを取り出しては男達の手に投げた。


「うわっ!」

「ぎゃあっ!」

「いてえ!」


 彼らの手からライフル銃が落ちる。

 その瞬間、彼らと言い争っていた老婆は背中から二本のナイフを抜いて残りの一人に斬りかかる。


「ぐえっ!」


 あっという間に残りの一人は崩れ落ちた。

 老婆はこちらに倣ったのか敵は手を押さえ銃を落としていた。

 残るはリーダー一人だ。


「おやおやおや……ヒーロー登場というわけかね?

 その身のこなし、その古い神秘の匂いのする剣……!

 すばらしい!あなたは私よりも『血』の秘密に!

 あの砂漠に消えたヤハガムに近しいのだね!

 どうだろう君、その秘密を語ってはくれないか……?」


 欲望と好奇心にまみれた目は、私が葬ってきた欲深い探索者のそれだ。

 陰気で、暗い顔色にむせかえるほどの血と死の匂い。

 目ばかりがぎらぎらと欲に輝いている。

 身なりは学者めいた上質なものだが……性根は下衆か狂人のそれだろう。


「貴様のような者に教える秘密などない」


 陰気な男ダミアヌスは心底愉快そうに笑った。

 狂気に満ちた嫌な笑い方、あのヤハガムで良く聴いたクズ共の笑い方だ。

 私は男に踏み込み、剣を振った。


「アッハハハ!おやおやそうかいそうかい……それはそれは……ククク」


 私は確かに男の首を飛ばしたつもりだった。

 だが、断面から出てきたのは紙吹雪と色テープで、身体は煙となって消えた。

 ああ、そういえばそんな技術もあった。変わり身の術というわけだ。

 この男は、どうしてか『銀の血』の技術をかなり深い所まで知り、身につけているようだ。


「いいだろう、今は去ろう。けれどね、私は諦めないよ……!」


 声が去ると、うずくまっていた手下たちも煙に包まれていく。

 煙が晴れた後には衣服に包まれたミイラが四体転がっているだけだった。

 おそらく、あの陰気な男の怪しい術で動かされていた哀れな屍だったのだろう。


「……あんた、余計な助太刀だね。でも、助かったよ。

 あいつらの仲間じゃあ無いみたいだが……見ない顔だね」


 老婆が、まっすぐこちらを見てきた。

 白髪は束ねられ、日焼けしたしわだらけの肌。

 それでも、若い頃は大層な美人だったと解る。

 背筋も伸び、しっかりとした老婆だ。


「これは申し遅れた。私はコートマン。

 行き倒れていた所をオッタルに拾われて世話になっている。

 その恩返しに剣を教える約束をしていたので、村までお邪魔させてもらった。

 迷惑だというのであれば、速やかに去ろう」


 私は丁寧に一礼をして頭を下げる。

 駆けつけてきたオッタルの声が後ろでする。


「ええーっ、それは困るのだ!ぜったい教えて欲しいのだ!

 クロウ婆!コートマンは悪い人じゃないのだ!行き倒れて行く所もないし……

 私が剣を教わる間だけでも、私の家で泊めさせてほしいのだ……」


 クロウと呼ばれた老婆は困ったように眉間を揉んで、空を見上げて少し考えた後こういった。


「まあ……何だ。助かったのは事実さね。あんたに行く当てがなさそうなのもね。

 とりあえず2,3日泊まっていくがいいさ。

 あんたをここに置くかどうかはそれから決める。いいね?」


 私はもう一度深く礼をした。


「寛大な温情に感謝する。しばらくお世話になります。ええと……?」

「クロウ、私はエイミング・クロウだ。コートマン」


 なるほど鴉か。

 よく見れば肩からポンチョのように纏っている羽毛は鴉の濡羽だ。

 頭につけている髪飾りにも鴉の羽があしらってある。


「感謝します。ミセス・クロウ」


 オッタルが飛び跳ねて喜び、馬車を引いてきたヤツィが目を細める。


「やったのだ!ありがとうなのだクロウ婆!

 ちゃんとコートマンのお世話はするのだ!」

「よかったねえ、あなた。ありがとうねクロウ婆。

 詳しい訳は、私から後で説明するよ」


 エイミング・クロウはふう、とため息を吐いた。


「ミセス、ね。やれやれ、あんたも開拓民……国を追われた訳ありって訳かい。

 まあ、そこまで悪いやつじゃあなさそうだし、歓迎するよ。

 ここは来る者拒まず、去る者追わずだ。

 けれどね、ここに居るからには私たちのやり方に従ってもらうし、自分のことは自分でするんだ。わかったね」

「もちろんです、ミセス・クロウ」


 クロウはフッと優しげに笑い、そしていかめしい顔に戻ると良く通る声で村人に言った。


「さあさ!ならず者は去った!お客人が来た!

 みんな戻りな!夕餉の支度をするんだよ!

 ……ああ、それと。おかえり。ラフィング・オッタル。ヤツィ・シノパ」

「ただいまなのだ!」

「ただいま、みんな」


 オッタルは弾けるような笑顔で、ヤツィは月のように静かな微笑みで。

 いつか私もただいまと言える日が来るのだろうか?

 ともかく、ヤハガムはもう消えた扱いと言うことは知れた。

 あとは、恩返しを精一杯するだけだ。

 その後は?……わからない。もし叶うならばこの村で暮らしたい。

 だが、この汚れた身がそんな平穏を許されるのだろうか?


「ああ、それからコートマン。夕餉の前に族長とご意見番に会ってもらうよ」

「わかりました。荷下ろしの後で良いならば。ミセス・クロウ」

「……クロウでいいよ。開拓民の言い方は慣れないんだ」

「あなたがそう言うのであれば。クロウ」

「それでいい」


 私はそれから荷下ろしとミイラの埋葬を手伝い、それなりに役には立てた。

 夕餉まであと半時間はある。族長とやらに会いに行ってみるか……

 さて、どんな人物だろう?


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