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Ⅲ勇者クロニクル ~第Ⅰの勇者『黒騎士』~  作者: 霰
最終章 Chronicle ~勇者を求めて~
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序章


 竜たちの警告は届くべきところに届き、国境では更なる混迷が起こっていることだろう。

 それは国境から真逆に住まう海の民にも察せられた。

 他の王たちが前線に赴く中ただ一人領地に残った人魚女王は、民たちと共に彼方から響く声を聞いていた。


「……いよいよ危なくなってきおったな、黒騎士殿」


 彼女が座る岩場の周りを固めているのは、銀鱗族の中でもイルカや鯱など海獣の類ばかり。他の民たちは領地に残って狩りに出たり、魔神戦で荒れた住処を整えたりと思い思いに過ごしていた。

 勿論この人選には理由がある。

 魔族たちは同族で集まって暮らすものだが、ある能力に秀でた種族の者が王から特別な役目を授かることがある。例えば夜目が利く梟の老爺などがそうだった。

 今集まっているのは、海の生き物の中でも音に敏感な者たち。また、音波によって遠くの仲間と連絡を取る手段を持つ者たちだった。

 彼らは魔王から授かった使命のため、常に彼方の音に耳を澄ませていたのだ。

 西の遠洋に出た彼らの視線が向かう先は遥か南。

 彼らの領地は魔界の北西の果てだ。そのまま南を睨んでも竜族領の山が見えるだけだが、大陸の端から出たこの海域からはきちんと南の水平線が見える。

 彼らにとって海は住処だ。ぼんやりと眺めているわけではない。

 その中に潜む仲間の合図をじっと待っていたのだ。

 潜行していた彼らは定期的に海面に顔を出し、自らの女王に報告を入れていた。


「先触れは辿り着いた頃だと思いますが、まだ連絡がないですね」


「まぁ、急ぐことではない。それでも音には十分気を配っておくれ。『境界』は遠いから伝言も一苦労じゃ」


 『境界』。

 王国でも魔界でもない、浮浪者たちが行きつく荒野。

 その地への道は広大な砂漠地帯であり、陸伝いで渡ろうとすると死の危険すらある過酷さだ。

 だが海路ならばそれも関係ない。

 人魚女王及び銀鱗族の民たちは、魔王から彼の地で人探しの任を受けていたのだ。

 具体的にはイルカや鯱たちがそこまでの道のりに点々と配置され、境界に至った仲間からの報告を伝言式で伝える、という手法だった。

 『境界』には、数は少ないが魔族も渡っている。

 海岸線沿いに暮らす者を捕まえて、欲しい情報を引き出す算段だったのだ。


「……『審判者』が目覚め、『守護者』も現れた。となればもう一つの勇者もどこかに必ず現れている。この期に及んで姿を見せないのは恐らく……」


 人魚女王が呟いたのは魔王の言葉だった。

 現在現れている二つの勇者は、どちらも魔界が握っている。

 残る勇者は一つだけだが、勇者は罪を犯した種族からしか現れない。つまり魔界では発生しない。王国で現れたなら、間違いなく何かの動きがある。

 となると、考えられる可能性は一つだけだったのだ。


「『調停者』……願わくば出番が無いまま、我らの働きが取り越し苦労になれば良いのだがのう」


 罪ある種族を裁く『審判者』。

 種族の罪を雪ぎ擁護する『守護者』。

 その両者の裁きの正当性を見る『調停者』。

 三つの勇者の集結は、あの少年が己が種族を罪ありきと告発する時だ。

 彼がこの地に流れ着いてから七年間、その力に救われてきた魔族たちにとっては胸の痛むことだった。


「……人間よ、願わくば過ちを重ねぬよう。まだ見ぬ姫君よ、あの優しき子に愛を与え給え……」


 温和で快活なはずの人魚女王は、しかしさめざめと息を吐き、そして祈った。

 しかし彼らの願いも空しく、国境ではいよいよその時が近づきつつあったのだ。


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