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第九十二話 女好きと見せかけた女嫌い

「なあ、リエル。中々、落ちない女を堕とすにはどうしたらいいと思う?」


やっぱり、碌でもない相談だった。リエルは思わず冷めた視線をゼリウスに送った。


「潔く諦めたら?」


ゼリウスの問いにリエルはきっぱりと答えた。


「いやいや。そうはいかないよ。だって、彼女の方だって俺に気があるんだから。」


「…まさかとは思うけど、その女性って、ゾフィーのこと?」


「ああ。そうだよ。」


一体、ゾフィーのどこをどう見たら、ゼリウスに気があると勘違いができるのか。

どう見たって、ゾフィーはゼリウスを嫌っているではないか。

あの冷たい態度と素っ気ない口調でどうしてそれに気付かないのだろう。


「…どう見たって、あれは脈なしだと思うよ。」


「分かってないな。

あれはね、よくある照れ隠しというやつなんだよ。」


自信満々の表情のゼリウスにリエルは彼の頭の中は一体、どうなっているんだと呆れた。

ああ。そうだ。この人、冷たくされて喜ぶ変態なんだった。変態の考えていることはよく分からない。


「だから、考えたんだ。俺は彼女が素直になれるように動いてあげようって。」


その企んだような笑みにリエルは嫌な予感がした。

ゼリウスがこういう表情をした時は大抵碌なことしか考えていないからだ。

そう思いながらも一応は聞いておくことにした。


「…あなた、一体何する気?」


「元々、彼女は君に紹介しようって思っていたんだ。絶対、君達は話が合うと思ったんだ。」


「まあ…、確かにゾフィーとはいいお友達になれそう。」


「そうだろう?それで提案だ。

君から、それとなくわたしのことをゾフィーに…、」


リエルはゼリウスの言いたいことを理解し、にっこりと微笑んだ。


「うん。分かったわ。

ゼリウスが如何に女好きでだらしないかしっかりとゾフィーに言い聞かせとくね。」


「いやいや!違うから!そこは、わたしの魅力を存分にアピールする所だろう!?」


「私とゾフィーはあなたの紹介なく、知り合えたことだし、そもそも、あなたの恋愛遊戯に付き合う義理はないの。だから、協力何て、絶対にお断り。」


「ええー。」


「そもそも…、ゼリウス。あなたもいい大人なんだから、もうこんな馬鹿げた茶番は止めたらどう?」


リエルはカップをソーサーに戻すと、改めてゼリウスに向き直った。


「茶番?」


「惚けないで。あなたが本当は女好きじゃなくて、そうと見せかけた女嫌いだってことは分かっている。

もう、止めたら?こんなの、不毛なだけの関係だわ。あなたも彼女達も傷つくだけ…、」


リエルは口を噤んだ。空気が変わったからだ。

それまでへらへらと軽薄に笑っていたゼリウスだったが…、纏っていた空気が一変した。

口元は笑っているのにその目はゾッとする程、冷たい色を宿していた。


「優しいねえ。リエル。君は昔っからそうだった。

優しくて…、真っ直ぐで…、自分の事よりも他人ばかりを気にしていた…。」


「ゼリウス…。」


「でも…、俺知っているんだよ。君の心の闇を。

君は自分の気持ちを隠しているだけの偽善者だ。

君は甘い。甘すぎるんだよ。…反吐が出る位にね。」


「っ…、」


リエルはギュッとスカートの裾を握り締めた。

彼は鋭い。リエルの痛い所を突いてくる。


「君の偽善者ごっこに付き合うなんて御免だね。

幾ら君相手でも言っていい事と悪いことがある。

君に俺を縛る権利何てないよ。」


「…。」


ゼリウスの心の傷は深い。それを目の当たりにしてリエルは何も言えなかった。




ゼリウスは社交界ではプレイボーイとして名を馳せているが実際は違う。

リエルは知っている。

彼は女好きと見せかけているがその本心は誰よりも女を見下し、嫌悪している。

それなのに、来るもの拒ず去る者追わずといったふうに数々の女性と浮名を流しているのだ。


さっき女達と話していた時だってそうだった。

優しい微笑みと甘い言葉を吐いているがその目の奥は笑っていないのだ。

だが、何故か彼女達はそれに気付かない。

好きでもないのに平気で甘ったるい台詞と口説き文句を口にするゼリウス。

そういった所がリエルは好きになれなかった。

リエルは何度も忠告した。

だが、ゼリウスは嘲笑うかのように


「女の君には分からないだろうけど、俺は今、とっても楽しいよ。

あの豚共、ちょっと微笑みかけたり、煽てるだけで舞い上がってさ。

それだけで自分は特別だなんて勘違いをして、他の女共と醜い争いをする。実に滑稽で愉快じゃないか。」


歪に笑うゼリウスにリエルは呆然とした。

結局、彼は未だにその行為を止めようとしない。




―ゼリウスの女嫌い酷くなってる気がする。


リエルは溜息を吐いた。ゼリウスがここまで女嫌いになったのはちゃんと理由がある。

よくある話。彼が母親に捨てられたからである。

何とかしたいが彼自身があそこまで拒絶しているのだ。これ以上の説得は難しいだろう。

それに、これは友人同士で解決できる問題ではない。


―いつか…、ゼリウスの頑なな心を溶かしてくれるそんな人が現れたら…、彼も変わるかもしれない。


リエルは心の中で思った。

ゼリウスは愛や恋はまやかしだと言い、下らないと吐き捨てていた。


でも、それは彼がまだ本当に人を愛したことがないからだ。

彼も愛する人を見つければきっと…、リエルは青空を眺めながら友人の幸せを願った。




「はあ…。疲れた…。」


ゾフィーはぐったりと机にうつ伏せになっていた。何とか金の工面ができ、融資の件は解決できた。


「頭痛い…。」


そういえば、金を工面するのに奮闘して碌に食事も睡眠も摂っていなかった。

ゾフィーは頭を押さえながら溜息を吐いた。


「た、大変です!ゾフィー様!」


バタン!とノックもなしに乱入する部下にウトウトしていたゾフィーは飛び起きた。


「な、何?どうしたの?また、ソニアかお母様が来たの?」


「い、いえ!それが…、ゾフィー様に会いたいと来客が来ていて…、しかも!その相手があの白薔薇騎士なんです!」


ゾフィーは目を見開いた。


「失礼します…。もう少しでオーナーがいらっしゃいますのでお茶でも飲んでお待ち下さいませ。」


そう言って、頬を紅潮した女従業員がいそいそとアルバートに茶を出した。

事務的に返事をしたアルバートに女従業員はチラチラと流し目を送るがアルバートは見向きもしない。


応接間に通されたアルバートが長椅子に座り、待機している姿を扉の陰から女従業員達はきゃあきゃあ言いながら興奮した眼差しで見つめていた。


「あの人が白薔薇騎士!?

絵姿よりも断然、いい男…!」


「金髪碧眼なんてまるで王子様みたいー!

白い騎士服もかっこいい!」


「白薔薇騎士って、特定の相手いないのよね!?

だったら、あたしにもチャンスかも!」


「…何をしているの?あなた達。」


「お、オーナー!?」


ゾフィーは冷たい声で女達の背後から声を掛けた。


「あなた達、まだ仕事が残っているでしょう。こんな所で油を売ってないで仕事に戻りなさい!」


「す、すみませんー!」


バタバタと立ち去る従業員たちにゾフィーは溜息を吐いた。

全く…。ゾフィーは入室する前に深呼吸すると、扉をノックした。


「ルイゼンブルク卿。お待たせして申し訳ありません。」


「いや。約束もなしに押しかけたのはこちらだ。

忙しいのに悪かったな。」


ゾフィーは以前と違い、張り詰めた空気がないアルバートの柔らかい声音に驚いた。


「今日は君に話があって来た。」


「話…、ですか?」


もしかして、妹の件だろうか。

それか、もうリエルに近付くなという?

ゾフィーはごくりと唾を呑み込んだ。


「この間は悪かった。君を噂で判断して、酷い態度を取ってしまった。」


「え…!?い、いえ!そんな…!

謝るのはこちらの方です!

元々、妹が貴方様に多大なご迷惑をおかけして…!」


「だとしても、あの時の態度は紳士とはいえなかった。

思えば君はあの噂とは違い、言い訳ばかりするロ

ンディ家の連中と違い、真っ当な対応をしていたし、誠意を見せようとしていた。

そんな相手に俺の態度はあまりにも大人げなかった。」


やっぱり、あの時とは別人だ。


「あの…、ルイゼンブルク卿は私が嫌いなのではないのでしょうか?なのに、急にどうして…、」


「…初めは君がリエルを利用する為に近付いたんだって思った。あの警戒心が強いリエルが心を許したのも取り入るのが上手いからだと思っていた。けど…、あいつは…、笑っていたんだ。」


ゾフィーは顔を上げた。その時のアルバートの表情に目を瞠った。


「あいつのあんな笑顔は…、心を許した身内か限られた人間にしか見せたことがない。

…俺の前でもあんな顔はほとんど見せなかった。それだけ、あいつはあんたを信頼しているんだって思ったし、その笑顔を引き出しているのは君のお蔭なんだって気づいた。」


「…。」


「だから…、感謝しているんだ。二年前のあいつは…、見ているのが辛い位に抜け殻のような状態で…、笑うこともできなかったから…。」


二年前。確か、それは二人が婚約破棄した時でリエルが不慮の事故で片目を失った事件が起こった年…。

一体、二人の間に何があったのか。ゾフィーは気になったが聞けなかった。彼があまりにも切なげな表情をしているから。


「それができるってことは君は本当にあいつ自身を見てくれているんだって思った。

…ゾフィー嬢。どうか、あいつと仲良くして欲しい。あいつ、貴族令嬢ではほとんど友達がいないんだ。だから、君がその一人になってくれたらきっと、喜ぶ。」


そう言って、微笑むアルバートにゾフィーはコクンと頷いた。

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