第八十九.五話
今回は短めです。
ゾフィーがリエル達と別れた直後のお話。
「うっ…、な、何?」
ゾフィーは馬車の中で寒気を感じた。
「風邪かしら…?」
そういえば、最近、寝不足が続いていたんだった。気を付けなくてはと見当違いの心配をゾフィーはしていた。
「お嬢様!」
「遅くなってごめんなさい。何があったの?」
「そ、それが…、」
ゾフィーは部下の報告に顔色を変えた。急いでゾフィーは屋敷に向かった。
「お母様!」
バン!と勢いよく扉を開けて入ってきた長姉の姿にロンディ子爵夫人は眉を顰めた。
「まあ!何です!ゾフィー。淑女がノックもなしに入ってくるなんてはしたない…、」
「あら、お姉様。そんなに血相変えてどうしたの?」
続けて着飾った妹がおっとりとゾフィーにそう言ってきた。ゾフィーは母と娘の煌びやかな装いを見て、そして、室内を見渡した。たくさんの宝石やドレスの山が目に留まった。
「お母様。お話がありますの。」
「話?どうせ、碌でもないことでしょう。私は忙しいの。後にして頂戴。」
「先程、商会の従業員から聞きました。お母様が商会のお金を勝手に持ち出したと!」
「まあ!娘の癖に母である私にそんな口を聞くなんて…。何て、躾けのなっていない!聞き分けのいい妹を
少しは見習ってはどうなの?大体、あれだけたくさんの貯えがあるのなら少し位、使ってはいいのではないの。」
「お金でしたら、もう今月分の費用は渡したではありませんか!生活するのに困らない程度の額は渡した筈です!」
「あんなはした金じゃ足りないのよ!ドレスも宝石も数着しか買えなかったし…、」
「ドレスと宝石?何を言っているんですか!我が家はただでさえ、生活が厳しいのですよ!?毎月の借金の返済に、使用人だって人材を削って給料をあげるのも精一杯の状況なのに…、ドレスや宝石を買う余裕があるわけないでしょう!?だから、あのお金は生活費に充てるようにとあれ程、忠告したのに…!」
「なら、足りない分は商会から出せばいいのではないの!そもそも、あなたときたら、家族がお金に困っているのにあんな大金を隠し持っているなんて、何て意地汚い娘なの!」
「お母様たちにお金を渡したら全部使ってしまうからでしょう!?そもそも、お母様が持ち出したお金はこの先の融資に使う大事な資金なのですよ!?それを…!」
「お姉様ってば相変わらずね…。そんなにお金にがめついと、嫁の貰い手がなくなるわよ?」
クスクスと馬鹿にしたように妹は笑った。
「全く…。ソニアはこんなに可愛くて、よくできた娘なのにあなたはどうして、そうなの?育て方を間違えたのかしら?」
「…今はそんな事どうでもいいのです。お母様。早く持ち出したお金を返して下さい。」
「もうないわよ。全部、使ってしまったもの。」
「なっ…、まさか…、このドレスや宝石を買うために…?」
「少し買いすぎてしまったけど、これだけあればソニアも私もお茶会や夜会に出ても恥をかかずにすむわね。ああ。楽しみ。あの生意気な男爵夫人に一泡吹かせてあげられるのだわ!」
ゾフィーは眩暈を感じた。必死に怒鳴りつけたい気持ちを抑えつける。最早、母も妹もゾフィーなど気にも留めていない。新しい戦利品にはしゃいでいる。
「…失礼します。」
唇を噛み締め、ゾフィーはその場を退席した。もうこの二人に何を言っても無駄だ。家族は当てにならない。何とか自力で金を工面するしかない。ゾフィーはすぐに商会へ向かった。




