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第七十六話 薔薇騎士になりたい

明けましておめでとうございます!

今年初めての投稿になります。

今年も本作を楽しんでいただければ嬉しいです!

「何を言っている。私は祖父や父と違って、婚約破棄までさせたり、借金を盾にして無理矢理結婚したりはしなかったぞ。」

「…では、グレース様が病弱なのを理由に求婚を断られたにも関わらず、外堀を埋めていって結婚ざるをえない状況にまで持っていったのは何処のどなたでしたでしょうか?」

「そ、それは…、」

アレクセイは途端に言葉を詰まらせ、目を泳がせる。

「そもそも、旦那様はグレース様に出会った当初から、酷い態度でしたし。」

「うっ…、」

アレクセイは気まずそうにウォルターから目を逸らした。

「確か、『私は気が強い女は嫌いでな。君は身分と家柄もまあまあ釣り合いはとれるし、大人しそうだから丁度いい。妻にしてやる。』でしたか?…旦那様のその最低な求婚の文句にも驚きましたがそれ以上にそんな言葉を吐かれて怒らなかったグレース様の寛大さには驚きましたよ。」

「…い、いや。あれは…、す、少し言い間違えただけで…、」

「存じておりますよ。本当は…、グレース様の様に慎ましやかで清らかな女性は見たことがない。その上、あなたの身分も家柄も私の妻としての条件が揃っている。私は何て幸運なのだ。どうか、私の妻になっては頂けないか?…そう言いたかったのでは?」

「よ、よく分かったな。」

「一体、これのどこが言い間違えになるのでしょうね。旦那様?是非とも、私にも分かるようご説明頂きたいものです。」

「…。」

アレクセイはウォルターのじっとりと非難が含まれた視線から逃れるように紅茶を一口飲んだ。その態度にウォルターははあ、と溜息を吐きながら、

「そんなのだから、グレース様に振られるのですよ。それで諦めるわけでもなく、社交界でお二人は将来を誓い合った仲だと嘘の噂を流し、周囲に誤解され、求婚を断られなくする形にまで追い込んだ旦那様も似たようなものだとわたしは思いますがね。」

アレクセイは何も言い返せない。何せ、アレクセイも当時は一人の女に心を奪われるなんて経験がなく、戸惑っていたのだ。プライドが許せなくて自分の気持ちを認められず、グレースにはその苛立ちをぶつけていた。それをグレースは自分は嫌われているのだと勘違いし、結婚生活はすれ違いが生じ、二人の仲はギクシャクしていた時期があった。そのせいでグレースからは第二夫人を迎えるよう切り出されてしまった。そして、結果的にあのクラリスを妻として娶る羽目になったのだ。

「私共は気が気ではありませんでしたよ。旦那様のグレース様の想いは私達、使用人は知っていても当のグレース様は旦那様の想いに全く気が付かないのですから。…まあ、それは旦那様の態度が一番の原因ですが。結婚した経緯があれでしたからグレース様は致し方なく結婚したのだと思い込んでいました。旦那様はグレース様に想いを伝えることもしなかったですし、会えば、思っている言葉とは正反対の言葉を言い、心にもない事を言ってましたしね。」

「…言うな。わたしにとってもあれは消し去りたい過去なのだ。」

アレクセイは両手を組んだ手の甲に自らの額を押し付けて呻くように呟いた。その背中は後悔していると全身で語っているかのようだった。

「旦那様もまだお若かったですからね。まさか結婚して数年間経ってから漸く誤解が解けるとは思いもしませんでしたが。旦那様があそこまで臆病者だとは私は初めて知りました。」

「…今日のお前は痛い所ばかり突いてくるな。」

アレクセイは過去の黒歴史を掘り起こされ、引き攣った笑いを浮かべた。

「ですが、旦那様と奥様は遠回りをした分、今はとても幸せそうです。」

「…ああ。勿論だ。昔のわたしからは信じられない位に…、今は満ち足りた気持ちでいる。」

そう言って、アレクセイは穏やかに笑った。

「あの子は私によく似ている。だからこそ…、時々不安になるんだ。あの子が自分を見失わないか。」

アレクセイはぽつりと呟くと、

「あの子はきっと、薔薇騎士になろうとするのだろう。あの覚醒も元を辿ればリエルを助けるために覚醒したものだ。あの子のその純粋な想いが…、どんな結果を招くのか…。」

「大丈夫ですよ。旦那様。ルイゼンブルク家の男達はその強くも重たい愛故に標的にされた女性は逃げられないといわれていますがどのご夫婦も紆余屈曲の末に幸せな家庭を築いたとお聞きしています。旦那様の父君やお爺様も同じです。きっと、坊ちゃまも幸せな恋を手にすることができますよ。旦那様の様に。」

「…そうだろうか。」

「それに、坊ちゃまは奥様に似て、真面目で優しい方です。あのお二人なら、きっと…。」

ウォルターの言葉にアレクセイは微笑み、そうだなと頷いた。



部屋に戻ったアルバートはぼんやりと自分の手を見下ろした。人を殺した。自分がこの手で…。父には覚えてないと言ったがアルバートは朧気にその時のことを覚えていた。断片的なものだけで全てではないが。身体の奥底から沸き上がる力…。肉を切った感触も断末魔の叫び声も迸る大量の血もこびりつくような血の匂いも返り血で浴びた生温さも身体が覚えている。自分はあの時、自分じゃないような感覚に囚われた。まるで獣にでも生まれ変わったような感覚だ。あの男達も自分を化け物だと言っていた。アルバートはあの時、現実に引き戻され、震えが止まらなかった。でも、それでも自分を見失わずにいられたのは…、リエルがいたからだった。リエルはアルバートに救われたと言ったが救われたのはアルバートの方だった。あの時、リエルは血で汚れた自分を躊躇なく抱き締めてくれた。怖がらずに向き合ってくれた。それだけでアルバートは自分を保つことができたのだ。もし、リエルに拒否されたら自分は正気でいられたか分からない。アルバートはグッと拳を握り締めた。

―薔薇騎士になれば…、もっと強くなれるかもしれない。そうすれば、リエルを…、あいつを守れる力が手に入るんだ。

薔薇騎士になりたい。それはリエルとの約束を守る為だけじゃない。あの時みたいに無力な自分は嫌だ。リエルが傷つけられるのをただ黙って見ているだけしかできないなんて絶対に嫌だ。守りたい。今日みたいにあいつが危ない目に遭った時に守れる位の強さが欲しい。アルバートはそう強く願った。


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