第七十一話 リーリアの末路
「あの女…!
悪役令嬢の分際でヒロインのあたしを馬鹿にして!
冗談じゃない!
あんなブスに主人公の座は渡さないんだから!」
リーリアは爪を噛み、苛ただし気にそう叫んでいると、ふわり、と甘い匂いが辺りに漂った。
「ああ。リーリア。可哀想に。」
リーリアはその甘い美声にハッと顔を上げた。
そこには、灰色の薄汚いフードをすっぽりと目深に被った人物が立っていた。
でも、リーリアはその美声の持ち主を知っていた。
思わずリーリアは鉄格子を掴んだ。
「ああ…!来てくれたのね!」
「リーリア…。」
フードの人物はリーリアに近付き、そっとその頬に触れた。それだけでリーリアはうっとりと夢見心地の表情で頬を染めた。
「大丈夫。君はいずれ、ここから解放されるよ。
君のような美しい女性にこんな場所は似合わない。
君にはもっと光り輝く場所が似合う。」
「そう…!そうよね!私はこんな所で終わらない!
だって、あたしはヒロインなんだから!」
「そうだよ。リーリア。私の可愛いお姫様。」
「そんな事より!早くあたしをここから出してよ!
その為に来てくれたんでしょ!?」
「…勿論だよ。リーリア。
でも、その前に…、君のその花弁のような唇で私にキスをしてくれないかい?」
「キス…?この状況で?」
「駄目、かな?君と会えない間、僕はずっと我慢していたんだよ?そのご褒美位、貰ってもいいだろう?」
そう言い、バサリ、とフードを脱いだ人物は…、美しい金髪を靡かせ、黄金と紅玉のオッドアイの瞳を持つ神秘的で幻想的な容姿を持った美丈夫だった。
俗世離れしたその美貌はまるで神のような神聖さすら感じさせる。
そんな彼が蕩ける様な微笑みをリーリアに向け、リーリアはその情熱的な眼差しにくらり、と眩暈を起こしそうになった。
この絶世の美貌を持った男の心は自分だけの物だと思うとぞくぞくした。
「し、仕方ないわね。キスだけなら許してあげるわ。…ここを出たら、それ以上の事もしてあげる。」
「リーリア…。ありがとう。君は本当に可愛いね。」
そう言い、男は微笑み、リーリアに目を瞑るように促した。
リーリアはうっとりと言われるがままに目を瞑った。そっと頤に手をかけられる。
スルリ、と男の骨張った細長い手が肌を撫で上げた。その官能的な触り方にぞくぞくした。
すると、男の美声がそっと耳元で囁かれた。
「君は理想的な私の可愛い人形だったよ。
でも…、使い物にならない人形はもういらないんだ。」
言葉の意味を理解するより早くにリーリアは男に口づけられる。
すると、口移しで何かを飲まされた。
反射的にリーリアはそれを飲み込んでしまう。
瞬間、リーリアはカッと喉が熱くなり、激痛が走った。
「グッ…!?ヒイッ…!」
リーリアは喉を両手で押さえ、口から食べたものと胃液を吐き出した。
リーリアは愕然と目を見開き、目の前の男を見上げた。男は苦しみ悶えるリーリアを見下ろし、優雅に微笑んだ。
「さようなら。リーリア。
君は愚かで騙されやすくて…、利用価値のある人形だったよ。これは、私からの餞別だ。
これで君はこの牢獄から解放される。
代わりにずっと君は夢の世界に旅立てるんだから。
まあ、その夢は永遠に醒めないだろうけどね。」
男はクックッとおかしそうに笑い、リーリアに背を向けた。リーリアは震える手を伸ばすがやがて、力尽きたようにパタリ、と地面に倒れ伏し、そのまま動かなくなった。
男はフードを被ると、そのままコツコツと足音を立てて暗闇の中に消えていった。
今回は短めです。
区切りがいいので一旦、切ります。




