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第六話 元婚約者

もう一人の薔薇騎士の登場です。

「お嬢様。大分、お疲れの様ですね。」


「それは…、まあ…。」


踊りの最中に事情を知っている執事は労いの言葉をかける。リエルは苦笑した。

事情とは、舞踏会が開かれる前に少々面倒な事態が起きたといっていた件である。

リヒターが報告した内容は確かに面倒な事だった。

母と姉が誰彼構わず好みの相手に招待状をばら撒いていたのだ。

本来ならば招待客リストとして名簿を作り、招待客の面々を把握しなければならない。

それでも何とか探りを入れて使用人が把握してくれたのだから何とか舞踏会を開くことができたのだ。

優秀な使用人のおかげで事なきを得たが母と姉はそんな裏の事情など自覚していなかった。

そして、好き勝手にやっておいて後は他人任せなのだから苦労する。

舞踏会の挨拶をし、もてなしをする役目も当家主催の者であるので伯爵家の人間が挨拶するのが基本である。これは使用人ではできない役目だ。

が、母と姉は好みの人間としか話したがらないので無理な話だ。

なので、必然的にルイかリエルにその役目が回ってくるのだ。

お陰でリエルは舞踏会の準備とその処理のために舞踏会が始まる前から疲労感を覚えていた。


「お嬢様…。」


「何?」


リヒターの足を踏まないように意識を集中していたリエルは突然呼びかけられ、顔を上げた。

すると、いきなり彼はリエルの耳元に唇を寄せた。


「今日のお嬢様は…、いつも以上に魅力的ですよ?」


「は…?」


吐息が耳に掛かることでこそばゆさを感じつつもリエルは執事の発言に目が点になる。


「可愛いですね。とても…、このまま食べてしまいたい位です。」


問題発言に見上げると、妖艶に微笑む執事の表情がある。美形である為にその効果は抜群だ。

その表情は壮絶な色気があり、数多の女性を惑わしてしまう程の威力を放っていた。

が、リエルは胸のときめきさえも覚えない。それどころか、背筋に戦慄が走り、


―また何か碌でもないことを考えている。


と思った。

執事が気まぐれにリエルに甘い表情をするのは大抵何かを企んでいるからであるとリエルは経験を以て身にしみている。

そして、その企みはいつもリエルにとっては頭を痛める内容だった。

曲が終わるとリエルはその意味を理解した。

リヒターが離れた瞬間に突き刺さる視線の数々…。

見たくないが見ないと正体が分からないので見回せば案の定、殺気立った令嬢たちの視線と目が合った。視線で人が殺せるのではないと思える程だ。

そんな芸当ができる令嬢たちにリエルは感心してしまう。

別の視線を感じて見ると、遠く離れたところでリヒターが意味深に微笑んでいた。

怒りで引き攣る笑みを抑えつつ、舞踏会が終わったら後処理は全てリヒターに押し付けてやるとリエルは心に決めたのだった。



「見苦しい踊りだな。見ているだけで、気分が悪い。」


背後から聞こえた声にリエルはびくりと反応した。その声は聞き覚えがある。振り向くと、


「野暮ったい娘がいると思ったら、お前か。リエル。舞踏会でも見かけないし、フォルネーゼ家の娘はセリーナ嬢一人だけなのかと思っていたぞ。」


「アルバート…、様。」


そこには、両脇に令嬢を伴った一人の美青年がいた。

アルバート・ド・ルイゼンブルク。ルイゼンブルク家は五大貴族に連なる家柄である。

彼はルイゼンブルク家次期当主にして薔薇騎士の称号も持っている将来有望な青年だ。

彼はリエルと同い年であり、家柄の関係により古くからの付き合いだ。

幼い頃から親同士で交流があったせいかよく遊んだ記憶もある。

しかし、彼の皮肉気な口調から分かるようにあまり二人の関係は良好ではない。更に言うと、二人は以前、とある関係にあった。


「相変わらず…、どこもかしこも変わっていないな。お前は…。」


リエルは黙っている。アルバートはじろりとリエルを見下ろした。


「ふん…。その目も昔と変わらないな。」


取り巻きの令嬢達はリエルを見て馬鹿にしたように笑っている。


「どこをどう見ても凡庸な女だが男を誑かすのは上手いらしいな?お前にそんな手管があるとは思いもしなかった。」


「…何の事でしょうか?」


「とぼけるのか?さっき、男と踊っていただろう。お前がダンスのパートナーを見つけられたというのにも驚いた。まあ、家柄の名を使えば易易と従わせることもできるが…、更に驚いたのはあんな公衆の面前で男と顔を近づけ合うという醜態を晒すとは…。五大貴族の名が聞いて呆れる。お前のそのふしだらな行動のせいで高貴な我々五大貴族の品格が貶められるとは…。」


「申し訳ありません。…以後、気をつけます。」


「…分かればいいんだ。全くこんな不出来な女が元婚約者だったとは…。過去とはいえ許しがたい事実だ。」


アルバートの言うとおり二人は婚約者同士だった。とはいえ、ただの政略結婚である。

お互いの両家同士が結ばれることで利益に繋がるので丁度年頃の合う二人に白羽が当たったのだ。

二人が婚約したのは十二歳の時だ。

だが、前当主であるリエルの父が亡くなったと同時に婚約は無効となった。

すると、アルバートは婚約が解消された途端に嬉々として今まで以上に女遊びをするようになった。

婚約者としている時もたくさんの令嬢とは親しかったがそれ以上に遊びまわるようになったのだ。

リエルはそれに胸が痛んだ。


「何だ?その目は?」


「いえ…。」


「ふん。俺は忙しい。だから、さっさと用事を済ませたいのだ。」


「そうですか。では、私はこれで失礼して…、」


よく分からないが職務ならば大変だろうと思い、リエルはすぐにその場を立ち去ろうとした。

すると、アルバートはリエルの腕を掴んだ。

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