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第四十五話 茶番は終わりだ

…何故、こんな時に思い出すのだろう。

こんな子供同士の口約束なんて、彼が覚えているわけないのに…。


すると、目の前に立っていた男が消えた。

その直後、物凄い激突音が身近で聞こえた。


「…え…?」


リエルが音のした方に目を向ければ、初めに白い騎士服が目に映った。

壁にあの男の頭が打ちつけられ、思いっきり、顔が壁にめり込んでいる。

壁にはヒビが入り、男の頭を壁に打ちつけた人物は…、アルバートだった。

リエルは何が起きたのか分からなかった。


―い、今のは一体…?まさか、あの一瞬で…?


男が消えたのはアルバートが男を殴り飛ばしたことで、男の身体が吹き飛んだのだろう。

男は悲鳴を上げる間もなく、気絶した。


混乱するリエルの前にカッと靴音がした。

目の前に視線を向ければ、いつの間にこちらに来ていたアルバートが立っていた。

リエルは目を見開いた。

青い瞳と薄紫の瞳が交差する。


リエルは呆然と彼を見上げた。

アルバートは黙ったまま、上着を脱ぐと、そのまま膝をつき、リエルの背中から包み込むように被せた。


「…無事か?」


リエルはアルバートから目を離せなかった。

彼は逸らすことなく、じっとリエルの瞳を見つめた。それは答えを待っているかのようだった。

リエルはコクン、と頷いた。


アルバートが不意にリエルの頬に視線を走らせた。

スッと手を伸ばし、頬に手が触れられる。

先程、男を壁にのめり込ませた荒々しさとは違い、壊れ物を扱うような触れ方だった。


「…傷がついている。」


「え?あ…、そっか。さっき爪が当たって…、」


指摘されて初めてリエルは気付いた。

きっと、あの男に顎を掴まれた時に爪が当たったのだろう。


「あ、アルバート様?な、何で?

何でその女を庇うんですか?」


リーリアの言葉にリエルはぎくりとした。

リーリアはリエルを睨みつけ、指差した。


「その女は男の人を誘惑して、関係を持とうとした最低な人なんですよ!?そんな人どうして…、」


「黙れ。」


リーリアはびくりとした。


「下手な芝居はやめろ。

…全部、お前が仕組んだことだろう。

この、売女が。」


リーリアは信じられないと言いたげに目を見開いた。


「ひ、酷い…!あたし、何もしていないのに!

それなのに、あたしを疑うなんて…。

そんなアルバート様なんて、嫌いです!」


ハラハラと瞳から涙を流し、泣き出すリーリアの姿は儚げで美しい。

何も知らない者が見たら、思わず同情心を抱き、彼女を慰めようとする事だろう。

男ならばその涙を見ただけで許してしまうことだろう。

が、アルバートは絶対零度の眼差しを向けた。


「それは良かった。俺も同感だ。」


「ッ…!どうして…?どうして、そんな事を言うの?アルバート様はいつもあたしを見てくれていたじゃない!

あたしを可愛いって!

今まで会ったことのない新鮮な女だって!

あたしを他の女とは違うんだって特別扱いしてくれたじゃない!

アルバート様はあたしが好きなんでしょう!?

それなのに…、」


それは、リエルも気になっていた事だった。

噂になる程、親密な空気を出していた二人の関係…。アルバートはリーリアを他の女よりも優先していたようだし、心惹かれている様子だった。

でも、それなら、どうしてこんな冷たい態度をとるのだろうか。

アルバートが分からなかった。


「ハッ…、」


不意にアルバートは乾いた笑い声を叩いた。


「俺が本気でお前に惚れていると?

俺だけじゃなく、他の男にも愛想を振りまく尻軽のお前を?

勘違いもここまで酷いと呆れを通り越して笑えるな。リーリア。」


アルバートは髪を掻き上げ、口角に笑みを浮かべて言った。


「茶番は終わりだ。リーリア・ド・ブロウ。」


「っ、何…?」


「お前には内乱罪の疑いがかけられている。

高位貴族や我々薔薇騎士に近付き、媚を売って取り入って何をするつもりだった?

お前のしてきたことは国を乱すも同然の行為だ。

…それだけならまだしも、お前はよりにもよって五大貴族の娘に手を出した。

国家反逆罪で貴様を今すぐ逮捕する。」


「逮捕?…何、言っているの?あたしが?何で?」


わなわなと身体を震わせ、顔を真っ青にするリーリアは現実を受け入れたくないとでも言いたげに首を振った。


「こんな…、こんなの、おかしいわ!

どうして、あたしがそんな目に!?

あたしはヒロインなのよ!?

誰からも愛される特別な存在なのに!」


おかしいのは紛れもなく、彼女の方だ。

髪を振り乱して泣き喚くリーリアはまるで自分の世界に酔っているかのようだ。

正気の沙汰とは思えない発言にリエルはぞっとした。


「もう黙れ。」


リーリアが叫んでいる間にアルバートは一瞬で間合いを詰め、リーリアの首筋に手刀を叩き込んだ。


リーリアは悲鳴を上げる間もなく、ドサリ、と床に倒れ込んだ。


―今の一瞬で…?早くて見えなかった。

これが薔薇騎士の力…。


リエルは噂に聞いていた力を目の当たりにし、驚愕した。

薔薇騎士はただの騎士とは違う騎士の中でも特別な存在だ。

薔薇騎士一人でも百人力、千人力の戦力を持つと言われ、その力は計り知れない。

そして、それがただの誇張でもないことをリエルは知っている。


「もしかして、今の…、」


異能の力。

それが薔薇騎士に選ばれる最低限の資格である。

異能とは、並みの人間より遥かに優れた能力を持つ者を指す。

能力に適性が合った人間が選ばれ、その能力を習得し、コントロールする。


だが、適性があるだけでは薔薇騎士にはなれない。

薔薇騎士の見習いとして、第一段階に適性試験があるのだがその試験に通るのは極めて困難で半数の人間が落第しているのが事実だった。

仮に試験に合格し、適性が合っても過酷な訓練や重責に耐えきれずに脱退する者も多く、その中でも勝ち残った者だけが生き残るという厳しい道を辿る。


だからこそ、薔薇騎士の称号を与えられるのは容易なことではない。アルバートはその能力を習得したからこそ、白薔薇騎士に任命されたのだ。


「加速の能力だ。」


「加速…。」


そんな事までできるのかと思っていると、


「…う、うう…。い、痛えよ…。」


その時、男が目を覚ました。

ギクリ、としてリエルは思わず羽織っていた上着の裾を強く掴んだ。

アルバートがザッと男に近付き、見下ろした。


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