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第二話 理想の女は姉上です

主人公登場です。

「旦那様。もう終わったんすかー?」


「ロジェ。」


待機をさせていた傍付きに少年は眉を顰めた。


「いつも言うがその言葉遣いを何とかしろ。品がない。」


「そんな事言われても、俺って育ちが悪いんすよ。仕方無いっす。」


ハア、と溜息をつき、少年は歩いた。


「で?今回はどんな商談相手だったんすか?」


「借金で赤字だらけの事実を隠し、僕の会社との合併を持ちかけた身の程知らずな奴だった。あまりにもしつこいから話だけを聞いてやったが…、無駄な時間の浪費に終わっただけだ。」


「うわー。そりゃあ、災難でしたね。にしても、何でその男、旦那様がそんな話に乗ると思ったんすかね。」


「僕を若輩だからと侮り、己の都合のいいように商談を勧めるつもりだったのだろう。…だが、それにしても素人でも見抜きそうな下手な交渉だったな。あの男、こちらを舐めきった態度で思惑を隠そうともしなかった。あれで、よく貴族界を生きれてこれたな。」


「あー。よくいるんすよねえ。そういう勘違いする輩が。旦那様って、見た目だけは清廉で温厚そうな顔してますから。…そんで、旦那様を利用しようとして逆に旦那様に手酷い目に遭わされるんすよね。」


「先に仕掛けたのはあいつらだ。僕は、それに相応の報いを与えたまでだ。」


「相応って…。あれは、どう見ても倍以上の仕返しのような気が…。」


ロジェの言葉に意に介した様子はなく、少年は時計を取り出し、時間を確認した。


「もうこんな時間か。ロジェ、急ぐぞ。約束の時間に遅れる。」


「…別に遅れてもいいじゃないっすか。」


「何を言う。待たせている相手は誰だと思っている?1秒の遅刻も許されないのだ。」


そうして、少年伯爵は忙しなく目的地へと向かった。


フォルネーゼ家。それは五大貴族に連なる家柄だ。

その当主、ルイ・フォルネーゼは十六歳の若さで当主の座を受け継いだ。

そんな少年伯爵が居を構えるフォルネーゼ邸は薔薇園の美しさが有名だ。

王立薔薇園にも引けを取らない程である。

その薔薇園に、一人の少女が佇んでいた。焦げ茶色の髪を背に流し、薄紫色の瞳をしたありふれた容姿を持つ平凡な少女だ。唯一、特徴的なのは左目の眼帯である。際立って美しい訳ではないがその紅い唇から口ずさまれる歌声はとても美しい。少女は澄んだ声で歌っていたが…、何かに気がつき、歌を止めた。振り向けば…、


「姉上!」


少年の姿に少女は嬉しそうに笑みを向けた。そんな少女に少年は駆け寄った。


「ルイ。お帰りなさい。」


「姉上、遅れてしまい、申し訳ありません。」


「時間なら、きちんと守ってくれたじゃない。」


「いいえ。三秒の遅刻を致しました。」


「相変わらず、几帳面ね。あなたは。」


少女は、ルイの頭を撫でる。ルイはそれに嬉しそうに笑った。


少女の名は、リエル・フォルネーゼ。フォルネーゼ先代当主エドゥワルドの二番目の娘として生を受け、ルイの姉であり、伯爵令嬢の位を持つ。当主であるルイとは兄弟仲が良く、週に一度はこうしてお茶会を開く程だ。


「今日は林檎のタルトを焼いたのですよ。ルイは確か林檎が大好きでしたでしょう?」


「ええ。とても。それに、姉上の作ったものはどれも美味しいものばかりです。」


「フフッ…。ありがとう。」


ルイの言葉にリエルは嬉しそうに微笑んだ。


「とても美味しいですよ。姉上。やはり、姉上の手作り菓子は絶品です。」


「お口に合ったのなら、良かったわ。」


和やかな空気の中、リエルとルイは楽しげに会話をしていた。


「ルイ。そういえば、聞きましたよ。ウィンヴェール家のご息女との縁談を断ったとか?」


「ええ。僕はまだ結婚する気はありませんから。それに、彼女は僕の理想条件に満たなかったので。」


「そうなの?でも、確かウィンヴェール家のご令嬢…、ベアトリス嬢は大変美しい御方だと聞き及んでいますけど…。何がいけなかったのですか?」


「会った瞬間に彼女は僕の理想とは違うと確信しました。」


「…?そういえば、ルイの理想の女性について聞いたことなかったけれど…、どんな女性が好みなの?」


「そうですね…。僕の妻になる理想の条件は姉上と同じ位に愛らしくて、癒しを与えてくれて、料理上手で、音楽に秀でていて、気配りができて、聡明で優しくて芯の強い方…。ああ。後、僕を適度に甘やかしてくれて、決して僕を飽きさせずに一緒にいて楽しいと思える子です。」


「そ、それは随分と…、たくさん条件があるのね…。」


「これでも、随分と譲歩したのですが…。ああ。安心して下さい。姉上。僕が選ぶ女性には姉上を最優先しても文句を言わず、きちんと姉上を尊重してくれる女を妻にしますからね。」


「あ、ありがとう…。でもね。ルイ。私のことは気にせずにきちんと奥方は大切にしてあげて?」


「はい。でも、姉上。僕はあまり結婚をしたくありません。跡継ぎの問題があることは重々承知ですが…、」


「ルイ…。」


リエルは弟の言葉に切なげに眉を寄せた。リエルは弟が女嫌いであることを知っていたのだ。そして、その理由も。


「ルイ。」


リエルは弟の手に自分の手を重ねた。


「今は…、まだ現れないかもしれないけど…、いつかきっと、あなたにとって大切な女性が現れるわ。それが一日でも早く叶うように私は祈ってる。…何か私に力になれることがあれば何でも言って?」


「姉上…。ありがとうございます。あの…、」


「なあに?」


「早速で申し訳ないのですが…、姉上にお願いがありまして…、歌を聴かせて下さいませんか?父上によく歌っていたあの歌を…。」


「そんなことでいいの?…ええ。勿論いいわよ。」


リエルはスウ、と息を吸い込んだ。やがて、その唇から美しい歌声が紡ぎ出された。

補足説明

リエル・ド・フォルネーゼ

本作の主人公。20歳くらい。フォルネーゼ伯爵家の次女。上に姉、下に弟がいる。小柄で華奢な体格。濃い目の茶色い髪に薄紫色の瞳をした少女。容姿は平凡。左眼の眼帯が特徴的。趣味は歌やヴァイオリン、読書とお菓子作り。高位貴族の娘だが貴族らしからぬ性格の子で家柄を鼻にかけない気さくな娘。その性格から、使用人や領民には人気が高い。

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