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第二十七話 黄薔薇騎士との出会い

新キャラ登場です。


「お嬢様!あそこで飴細工が売っているみたいですよ!」


メリルがはしゃぎながら、私、買ってきます!と言って列に並びに行く。

リエルは今日、城下町に出かけていた。

昨日から暗い表情をしているリエルを元気づけようとメリル達が気分転換に町まで連れ出してくれたのだ。


今日はメリルとロジェ、サラが一緒だ。

リヒターは所用で出かけており、ルイは商談があるとのことで一緒には来れなかった。


「お待たせしました!お嬢様!…はい!お嬢様には薔薇の飴細工にしてみました!」


そう言って、メリルはリエルに薔薇の形を模った飴細工を手渡した。

メリルは兎の飴細工、サラには鳥の飴細工、ロジェは金魚の飴細工だ。

はしゃぐメリルの姿にリエルは思わず微笑んだ。


「ありがとう。…ん。甘くて、美味しい。」


リエルは飴細工を舐め、その味に頬を緩ませた。

リエルの表情を見て、何処か安心した様な表情を浮かべるメリル達にリエルは心配をかけさせてしまったなと思い、申し訳ない気持ちと心配してくれて嬉しいという思いを抱いた。


「見て。あれ…、」


「嫌ね。こんな所で…、」


リエルはメリルが買ってきてくれた屋台の果実水を飲んで喉を潤していた。

すると、通行人の何人かが顔を顰めてある一点を遠巻きに見つめていた。

そちらに目を向ければそこには、花売りの娘が柄の悪い男達に絡まれていた。

リエルは思わず眉を寄せた。


一人の少女に複数の男が寄ってたかるなんて…、可哀想に少女は涙目で震えている。

あちこちに視線を彷徨わせ、助けを求めているかのようだ。

が、周囲の人々は巻き添えを食らうのが嫌なのか誰も助けようとしない。


「サラ、ロジェ。」


「はいはい。分かりましたよっと。」


「お供いたします。お嬢様。」


二人は呼ばれただけでリエルの言おうとしたことが分かったのか頷いた。


「お、お嬢様!私も…!」


「メリルはここで待っていて。私なら、大丈夫。」


震えながらも自分もついて来ようとするメリルにリエルはそう言い、そのまま少女に近付いた。

一見、少女は被害者で男達が加害者に見えるがリエルは彼らの事情を知らない。

万が一、この少女が男達に何か悪いことをしたせいで責められているという可能性もある。

とにかく、近づいて様子を見よう。


「だから、花を買ってやるから、俺達の相手をしろって言っているだろ!」


「それ位のサービスがないと、割に合わねえだろうが!」


「あ、あの…、あたし…、」


やはり、少女は運悪く男達に絡まれていただけのようだ。

リエルは一歩踏み出し、男達に声をかけようとした。


すると、肩に手を置かれた。


「…大丈夫。ここは私に任せて。」


驚いて顔を上げると、そこには一人の美青年が立っていた。

彼はニコリと微笑んだ。

その甘い微笑みは男女問わず魅了してしまいそうな破壊力のある笑みだった。

リエルは驚きながらもその場に留まった。


謎の美青年は金色の美しい長髪を風に靡かせ、彼らに近付いた。バサリ、と青年の檸檬色の外套が目に映る。


―あの紋章は…、


薔薇と剣の紋章にリエルは目を瞠った。


「呆れた。君達、女性へのマナーが全くなってないね。」


かけられた声に男達は剣呑とした視線を向ける。

そして、男の美貌に男達はぽかんとした間抜けな表情を浮かべた。

青年の登場に周囲の女性達はきゃあ、と黄色い声を上げた。

確かに彼は美しい。

金色の癖毛に宝石の如く澄んだ瞳、白磁の肌に整った目鼻立ち…、一つ一つのパーツが完璧でまるで精巧な人形の様だ。

けれど、その口元に蠱惑的な微笑みが浮かんでいるのが彼が生きている生身の人間であるという証拠だ。

女だけでなく、男ですらも惑わしてしまいそうな美貌に男達は見惚れている。


「女性は繊細でか弱い生き物なんだ。もっと優しく、丁寧に扱って差し上げるべき存在なんだよ。分かるかい?そんな口説き方では全く話にならない。」


はあ、と呆れたように溜息を吐く男に我に返った男達は怒りを顕わにした。


「何だと!?手前…、いきなり出てきて偉そうに…!」


「ぶっ殺されてえのか!」


「…何て品のない。見た目だけでなく、中身も粗野で野蛮だね。君達は。」


「この野郎!」


男達の一人が青年に掴みかかろうとした。

が、その胸倉を掴もうとした途端、目にも止まらぬ速さで青年は動いた。


気付けば男は身体が宙に浮き、地面に叩きつけられた。

それは数秒の出来事だった。

リエルは何が起こったのか分からなかった。

ただ分かることは男を倒したのはこの美貌の青年だという事だ。


「生憎、わたしは女性に触れられるのは大歓迎だがむさ苦しい男に触れられるのは好きじゃないんだ。」


「なっ…!手前、よくも!」


仲間をやられた男がいきり立つが青年は優雅な身のこなしでサッと髪を払いのけると、男達を一瞥した。


「あんまり、おいたが過ぎると…、職務妨害で君達を連行しなければならない。それでも、いいのかな?」


男はそう言い、腰の剣に手をかけた。


「お、おい!こ、こいつ…、薔薇騎士だ!」


すると、一人の男が焦ったように叫んだ。


「ば、薔薇騎士!?」


「ま、まずい!逃げろ!」


「ちょ、ちょっと待てよ!」


我先にと逃げ出す男達の姿をリエルは唖然と見送った。


「やれやれ…。逃げ足の速い。」


青年はフウ、と溜息を吐くと、花売りの娘に近づいた。


「大丈夫かい?お嬢さん。」


「は、はい!」


「本当に?怪我はしていない?」


コクコクと頷く娘は頬を染め、ポーと青年に見惚れている。

まるで恋した乙女の表情だ。


「早く助けてあげられなくて、すまなかったね。お詫びに…、その花を買わせて頂いても?」


「も、もも勿論です!」


そう言って、青年は少女の花籠に入った花束を全部、購入していた。


「愛らしいお嬢さん。君に女神の加護がありますように。」


そう言って、娘の手に口づけを落とした。

すると、はう、と娘は頭を抑え、そのまま気絶した。


青年が少女を抱きかかえる所まで目撃し、リエルは視線を外した。


「私達の出る幕はなかったみたいね。」


「そのようですね。」


「お嬢様!」


その時、メリルがリエルに駆け寄り、抱きついてきた。


「心配しましたわ!お嬢様に何かあったらと心配で…!」


「ご、ごめんね。メリル。」


「お嬢様ったら、いつも無茶ばかりするんですもの!それがお嬢様の美点ではありますが私は心配で心配で…!」


「う…、ごめんなさい。つい、放っておけなくて…、」


「お優しいのですね。あなたは。」


メリル達のものではない艶やかで甘い美声にリエルは顔を上げた。

見れば、いつの間にこちらに近づいてきたのか先程の青年が立っていた。


「あ…、先程はどうもありがとうございました。」


リエルは慌てて頭を下げ、感謝を述べた。


「いえいえ。町を警護するのが我々騎士の務めですから。」


「警護中なのに、却って邪魔をしてしまい、申し訳ありません。」


「お邪魔だなんて…、あなたの行動は褒められ事すれ、責められるものではありませんよ。あの状況であの花売りの娘さんを助けようと動いたのはあなただけでした。その勇敢な行動はとてもお美しい。」


「あ、ありがとうございます。」


リエルは戸惑った。

まさか、わざわざ話しかけてくれるとは思わなかった。

しかも、今は身分を隠しているとはいえただの町娘に扮しているリエルに。

薔薇騎士という高貴な身分を持つ彼が。

チラリ、と視線を動かせば気絶した例の娘は他の騎士が介抱していた。

リエルはあの逃げた男達が気づくよりも先に彼が薔薇騎士であることは察していた。


サミュエル・ド・レオンバルト。


薔薇騎士の一人であり、黄薔薇騎士の称号を持つ。

女神の如き美貌を持ち、柔らかい物腰と紳士的な立ち居振る舞いから、女性に絶大な人気を誇る。

美の女神アクアディーテも眩む程に美しいと聞いていたがその噂もあながち間違いではないなとリエルは思った。

それともう一つ黄薔薇騎士には有名な噂があった。


「間に合って良かった。もし、あの野蛮な男達にあなたの身が傷つけられていたらと思うと、私の胸が張り裂けそうだ。」


黄薔薇騎士は大層な女たらしであるという噂だ。


「…え、あの…、」


自然に手を取られ、リエルは戸惑った。

彼は戸惑うリエルに蕩ける様な笑みを浮かべ、


「勇敢で心優しいレディ。あなたのお名前を窺っても?」


「…リエルと申します。」


「素敵な名だ。私はサミュエル・ド・レオンバルトと申します。以後、お見知りおきを。」


チュッと指先に口づけられる。


「リエル嬢、お近づきの印にこれを。」


そう言って、彼はリエルにあの花売りから買った花束を差し出した。

ピンクの花を基調に可愛らしくラッピングした花束だ。


「い、いえ。そんな…、薔薇騎士様のような高貴な御方に私などがお花を頂く訳には…、」


「おや。私が薔薇騎士だとご存じで?」


「え、ええ。勿論です。レオンバルト卿を知らない娘はこの町にはいませんわ。」


「そんなつれない事は言わないで。あなたの勇気溢れる行動に私はいたく感動したのです。どうか、あなたの勇敢な行動を讃えさせていただきたい。」


「…あ、ありがとうございます。レオンバルト卿。」


「レオンバルト卿だなんて、そんな他人行儀な事は仰らず。私の事はサミュエルとお呼び下さい。」


「…いえ。町娘である私がそんな…、」


「あなたのサクランボのような唇から私の名が紡がれないだなんてとても悲しい。どうか哀れな私めに今一度、チャンスを…、」


「…わ、分かりました。サミュエル様。」


よくもまあ、そんな甘い台詞がスラスラと出てくるものだ。

リエルが拒めば拒む程、彼はこちらが折れるまでこの砂が吐きそうな台詞を言うつもりだろう。

リエルは早々に諦め、脱力気味に根負けした。


「…あの、薔薇騎士殿。すみませんが私達は先を急いでいるのです。」


リエルの遠い目にサラが助け舟を出した。


「ああ。これは、失礼。黒髪のお美しいレディ。あなたの連れの女性があまりにも魅力的でつい。」


「…いえ。」


「それにしても、リエル嬢の連れであるだけあってあなたも十分に魅力的な女性ですね。お名前をお伺いしても?」


「…名乗る程のものではありません。では、失礼。…行きましょう。お…、リエル。」


サラは薔薇騎士の微笑みに惑わされることなく、ばっさりと切り捨て、リエルをその場から連れ出そうとした。

あやうく、お嬢様と言いそうになったが素早く取り繕った。


「あなたも何て可愛らしい。蜂蜜色のレディ。この出会いに神に感謝しなくては。」


どさくさ紛れにメリルの手も取り、口説き始めるサミュエルにリエル達は呆れた。

ロジェがサミュエルの手を叩き落として、メリルの手を引いた。


「じゃあ、俺らはこれで。」


そのまま足早にリエル達は去った。

サミュエルは叩き落とした手を摩りながら笑みを浮かべた。


「彼女がリエル、か。中々、素敵なレディじゃないか。…次に会える時が楽しみだ。」


サミュエルは意味深に笑った。


お待たせしました!漸く、3人目の薔薇騎士の登場です。

残りの薔薇騎士も続々、登場する予定です。

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