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第二百二十一話 まさか、あの男が全部仕組んでいた…?

「つまり、クレアは何らかの手段で意図的に記憶を消されていたと?そんな事、可能なんですか?」


「あくまで可能性の話だ。証拠はない。大体、おかしいと思わないか?家族を殺されたことは覚えていて、リエルの事は綺麗さっぱり忘れているなんて。」


「妙だとは思いましたが、別にそういった事例は珍しくもないでしょう。実際、身内を殺されたり、事故や事件に巻き込まれて記憶喪失になるという話は聞いたことがありますし。」


「確かにそういった前例があるのは事実だ。けど、今回の件はあまりにも不自然だ。家族を殺されたショックで記憶を失って、それと同時にリエルの記憶も忘れてしまっただけならまだ分かる。

だけど、あいつは自分の家族を殺したのはフォルネーゼ家だと思い込んでいる。あの事件にはフォルネーゼ家は一切、関わっていないのにだ。」


…?この声、アルバートとルイ?


「確かに不可解な点が多いですね。まるでお嬢様を…、いえ。フォルネーゼ家を憎ませるように仕向けられたかのような…。何者かの悪意を感じます。」


リヒターの声もする。リエルは思わず立ち止まり、聞き耳を立てた。


「ゾフィー嬢の話によれば、クレアはずっとシーザーに仕えていたそうです。

恐らくは家族を殺された復讐のためにシーザーと手を組んだのでしょう。クレアを自分の手下として使っていたことといい、ゾフィー嬢の件といい、偶然にしてはできすぎている。」


シーザー。あの羊の救済者の指導者。そして、私の片目を奪った男も羊の救済者の信者だった。

リエルはシーザーの言葉を思い出す。


『次の遊戯でも僕を楽しませてくれ。』


まさか、あの男が全部仕組んでいた…?

いや。そんなまさか…。だって、クレアと私の関係は誰にも知られていないのに…。

でも、シーザーは私がクレアと親友だった事実を知っていた。私がクレアの死を忘れていないことも知っていた。まさか、本当に…、あの男が…?


「シーザーは怪しげな術を使い、相手を意のままに操ることができると聞いたことがあります。もしかしたら、彼女はシーザーに洗脳されていたのかもしれません。」


「その怪しげな術とやらで記憶を塗り替えられたということか。」


記憶を塗り替える?そんな…、そんな事が可能なの…?

じゃあ、クレアが私の事を忘れて、お父様に家族を殺されたと思っているのは…、シーザーのせい?


「おかしいのはそれだけじゃない。クレアが頭を押さえて苦しみ出したのを見た時、妙だと思わなかったか?それに…、あの時、あの女の目は微かに赤くなっていたんだ。」


「目が赤く?…冗談、でしょう。見間違いでは?」


いつも冷静なルイの声が動揺したように震えている。


「生憎、俺は夜目が利くんだよな。…あれは、見間違いなんかじゃない。」


アルバートの言葉に沈黙が訪れる。


「そんな馬鹿な…。有り得ないでしょう。だって、あの力は…、」


「俺だって認めたくないさ。けど…、薔薇騎士として継承した記憶の中に残っているんだよ。あの力で洗脳された奴らは皆、目が赤くなっていた。洗脳が強ければ強いほど、目の色は濃くなる。…あいつの目はまだ微かに赤くなっていた位だった。完全に洗脳されていた訳じゃない。」


「つまり、その洗脳が解けない限りは姉上を傷つける可能性があるという事ですか。厄介ですね。」


ルイは少しだけ何かを考え込むように思案し、


「アルバート。君の家が所有する秘薬の中に洗脳を解く薬はないのですか?」


「記憶を取り戻す薬はあるが、さすがに洗脳となると難しいぞ。あれは、本人の意思で解かないと意味がない。」


「それに、記憶を取り戻しても元の状態に戻る保証はありません。記憶を取り戻した直後に精神的ショックを受け、廃人のようになる可能性もあります。」


「けど、あのまま放置するのは危険だぞ。あいつ、目が覚めたら絶対にまたリエルを殺そうとするぞ。

今は状況が状況だ。リエルの安全を最優先にするなら、今すぐあいつの記憶を取り戻すべきだ。多少、荒療治になろうともそれは仕方ないことで…、」


「ですが、恐らくお嬢様は反対しますよ。相手はあのクレアです。ご自分の命が危なくても、友人である彼女の安全を優先することは明白です。」


「…そうだな。とりあえず、一度姉上に相談して…、」


「待て!ルイ。今の話をリエルにありのまま話すつもりか?」


「そのつもりですが?」


「馬鹿か!お前は!そんな事したら、リエルは絶対反対するに決まっているだろ!例え、自分が殺されそうになってもリエルはあの女を守ろうとする筈だ!お前はそれでもいいのか!」


「では、どうしろと?まさか、姉上に嘘を吐く気ですか?後遺症が残る可能性がある事実を隠したまま、クレアの記憶を取り戻す方法があるとでも言って。」


「…別に必ずしも後遺症が残るとは限らない。もしかしたら、何の問題もなく、記憶を取り戻るかもしれないし…。」


「僕は嫌ですよ。姉上に嘘を吐いたってバレたら、姉上に嫌われます。僕は姉上の意見を尊重します。」


「ルイ!お前…!」


リエルは立ち尽くしたままだった足を踏み出し、三人の前に姿を現した。


「アルバート。ルイ。」


「おや。お嬢様。」


リヒターは特に驚いた様子はなく、ゆっくりと振り返ってリエルに声を掛けた。


「ッ!?リエル!?」


「姉上。」


アルバートは顔を強張らせ、ルイも目を見開いた。


「り、リエル…。もしかして、今の…、聞いて…、」


リエルはアルバートを真っ直ぐに見つめると、


「アルバート。私…、クレアが記憶を失っているのなら、それを取り戻したい。だけど…、私は怖い。クレアをまた失うのが怖い。でも…、このままじゃいけないのは分かっている。失った記憶を取り戻すなんてそう簡単にできることじゃない。クレアの記憶を取り戻す為には多少のリスクは覚悟しないといけないのは分かっているの。」


「リエル…。」


「だから…!」


リエルは決意を宿した目をして、アルバートを真っ直ぐに見つめた。


「私に時間を頂戴!」


「時間?お前、何言って…。」


「クレアが目を覚ましたら、私は全てを話すわ。私が知っていることを全部!その上でクレアがどうしたいかを決めてもらう。」


「なっ…!?お前、何言ってんだ!あいつは目を覚ましたら、またお前を殺そうとするぞ!そんな奴とまともに話し合いができる訳が…!」


「確かにそうかもしれない。クレアは私との記憶を忘れている。私を殺そうとするかもしれない。それでも…、私はクレアを信じるわ。」


「リエル!お前があいつに情を抱くのは分かる!けどな!あいつは昔のクレアじゃないんだ!今のあいつはお前との記憶を忘れている!そんな何の根拠もない願望なんて抱いたって…!」


「アルバート。私は適当にこんな事を言っている訳じゃない。少しの可能性があるなら、それに賭けようと思った。ただ、それだけのことよ。」


「可能性…?どこにあいつを信用する要素があるんだ!」


「それは…、」


リエルはクレアとの邂逅を思い出す。あの時、リエルが合言葉を口にした時のクレアの反応。

そして、ゾフィーから聞かされたクレアの話。リエルはギュッと手を握りしめる。

確信はない。でも…、私は信じたい。クレアを…!


「!そうだわ!」


その時、リエルはハッとした。急いで踵を返して、駆け出す。


「リエル!?どこ、行くんだ!?」


話の途中で急に走り出したリエルを見て、アルバートが追ってくる気配が聞こえる。構わず、リエルは自室に駆け込んだ。

確かここに…!リエルは引き出しの奥に仕舞っていたある物を取り出した。

細長い形状の箱…。中を開けるとそこに入っていたのは一本の短剣だった。

古いが月をモチーフにしたその短剣は月の光の下で見ると、神秘的な輝きを放ち、とても美しかった。


「リエル!急にどうしたんだ!?」


「アルバート。これを見て。」


後から入ってきたアルバートはリエルが手にしている短剣を見た。


「…?その短剣がどうかしたのか?」


「この短剣、エリザさんの形見なの。」


「エリザ?誰のことだ。」


「亡くなったクレアのお母様よ。」


「え。何でクレアの母親の形見をリエルが持っているんだ?」


「これは、私がエリザさんから預かっていた物なの。本当はエリザさんを埋葬するときに返した方が良かったんだけど…、どうしても手離すことができなくて…。」


思い出す。あの時、エリザさんと話した時の事…。

リエルはアルバートにいきさつを話した。

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