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第二百二十話 ごめんね!クレア…!

「じゃあ、クレアが…、ゾフィーを助けてくれたの…?」


「うん。クレアがいなかったら…、私は男の人達に乱暴されて、傷物になっていたところだった。私が阿片が切れて、禁断症状に苦しんでいる時も必死に呼びかけてくれて…、男の人達に乱暴されたり、ゼリウスに捨てられた幻覚を見たこともあってとても辛くて、何度も心が折れそうになったけど…、クレアが見捨てずにいてくれたから、今、私はこうしてここにいるの。全部、クレアのお蔭だわ。」


「はあ!?俺がゾフィーを捨てる!?そんな事、有り得ない!俺は例え、ゾフィーが傷物になったとしてもゾフィーの気持ちは変わらないからな!」


「ゼリウス…。」


ゼリウスの言葉にゾフィーは頬を染めた。


「けど…、そうか。ゾフィーは誰にも穢されてないんだな。良かった…。」


ゼリウスはそう言って、ゾフィーを抱き締める。


「ゾフィー…!本当に…、無事で良かった!俺のゾフィーが…、他の男に汚されていたらと思うと、想像するだけで頭がおかしくなりそうだった。」


「ゼリウス…。」


震える声でゾフィーの髪に顔を埋めるゼリウスにゾフィーはそっと優しく抱き締め返した。


リエルは口元を手で覆った。そんな…!じゃあ、私は…、ゾフィーを助けてくれたクレアにあんな仕打ちを…?


「私…、何て事を…、」


「リエル。」


アルバートがそっと肩に手を置くが、リエルは自分のしたことに対して、震えが止まらなかった。


「姉上。姉上のせいじゃありません。あの黒猫はまるで自分がゾフィーを酷い目に遭わせた犯人のように振る舞い、あんな挑発的な手紙まで送りつけた。あれで察しろだなんていうのは無理な話です。」


「それに、お前だってあいつに怪我をさせられたじゃないか。」


「でも、私…!クレアに…、あんな酷いことを…!」


「リエル。あの…、私はクレアとリエルの間に何があったか知らないけど…、何だかクレアはあなたを誤解しているみたいだった。もしかして、クレアってわざとあなたを怒らせるような事を言ったんじゃないの?」


ゾフィーの言葉にリエルはぽつりぽつりと答えた。


「クレアは…、ゾフィーの事を…、まるで娼婦のように扱ったって言って…。だから、私…、それを信じてカッとなってつい手が出て…、」


「はあ?あの女、そんな事言ったのか?そんな事言われたら、誰だって信じるだろう。状況が状況だし。」


「リエル。クレアがどうして、そんな嘘を吐いたのか分からないけど…、リエルは悪くないわ。」


アルバートとゾフィーにそう言われるがリエルは俯いた。

まさか、黒猫がクレアだったなんて…!

ゾフィーを傷つけるどころか助けてくれたなんて…。

知らなかったとはいえ、私はクレアを傷つけた。リエルは激しい後悔と罪悪感に襲われ、胸が苦しくなった。ごめんなさい…!クレア…!何度も心の中で謝る。


「おい。リエル…。」


アルバートに話しかけられても、リエルは返事ができず、そのままフラフラになりながらも、クレアの眠る部屋に向かった。

部屋に入ると、そこには寝息を立てるクレアの姿があった。手当てを受けたクレアの身体には至る所に包帯が巻かれている。その姿にリエルは視界が涙で滲んだ。


「クレア…!ごめん…!ごめんね…!ごめんね!クレア…!」


何度もごめんと謝るリエルはクレアの手をギュッと握りしめる。

クレア…。まさか、黒猫がクレアだったなんて…。クレアが生きていた。リエルは涙が止まらなかった。


あの日、村が火に包まれ、リエルが行った時にはクレアの家は火の海だった。

伸ばした手は届かず、リヒターによって無理矢理引き離された。

翌日の早朝になって行けば、村は燃え、何も残っていなかった。生存者はいないか捜したが誰一人、生きていた人はいなかった。村人達は全滅していた。


クレアの母親と弟は無残な遺体となって発見された。

母親の身体には全身に何十箇所の刺し傷があり、顔が焼かれていた。クレアの弟のリシールの遺体は獣に食い散らかされたような有様だった。

だけど…、クレアの遺体だけは見つからなかった。何日も必死になって捜したが結局、見つけることはできなかった。

リエルはひっそりとクレアとその家族の葬式をあげた。参列者は十人にも満たない小規模なものだった。葬式を挙げた時、クレアの棺は空っぽだった。


あの状況ではクレアが助かる可能性は限りなく低い。恐らく、クレアの遺体は野犬か狼にでも食われてしまったか川に流されてしまったのだろう。クレアを満足に供養することもできない現状にリエルは悲しくて悲しくて、涙が止まらなかった。

あの時、私はクレアを助けられなかった。だから…、だから、せめて…、クレアとの約束を果たそうと思ったのだ。


クレアに出会うまでは知らなかった平民の現状…。

十二歳になるまで学校で教育を受け入れられる法律があるのに、実際、貧しい家の子供は学校に通う事すらできないという。

病気になっても薬が買えず、医者にかかることもできない。だから、平民の死亡率は貴族と比べると著しく、低い。

夫を亡くした未亡人や片親の子供は偏見と差別に遭っているという現状。


クレアに聞かされるまでリエルはそんな事実は全く知らなかった。

法律なんて名ばかりでただの薄っぺらい紙切れ同然だと語るクレアの言葉にリエルは衝撃を受けた。

法律は平民を守ってくれない…?そんな…。

貴族が平民を馬車で轢き殺しても罪には問われない。そんな風に親を亡くした子供を誰が守ってくれるのか。そんな事…、考えもしなかった。


だから、リエルはクレアに約束した。私は立派な貴族になると。

クレアと同じ領民達が幸せに暮らせる未来を作っていくと。だから、私は必死に努力した。

報告書だけでは現状は分からない。この目で見て、確かめないといけない。

だから、父に頼んで視察に同行させてもらった。そして、実際にこの目で見ることで、問題点や改善点を把握することができた。クレアに出会っていなかったら、私は愚かにも平民達がどんな暮らしをしているのか気付かなかった。

これがクレアを助けることができなかった私なりの贖罪だった。

でも、クレアは生きていた。生きていたんだ!


「クレア…!」


眠るクレアを見て、涙を流すリエルの姿を見たアルバートはそのまま無言でスッとその場を立ち去った。





「クレア―!」


「おっ、リエル!」


リエルは籠を両手で抱えながら、急いでクレアに駆け寄った。


「遅えよ。待ちくたびれたぞ。」


「ごめん。ごめん。」


「ん?その籠、何だ?」


「あ、これ?厨房の料理人に頼んで昼食を作ってもらったの。サンドイッチと木苺のパイと骨付きチキンに…、」


「肉!?しかも、骨付き!?」


「うん。クレア。この前、一緒に遊んだ時、一生に一度でいいからお腹いっぱいチキンが食べたいって言っていたでしょ?」


「やったー!リエルー!愛してるー!」


「わわっ!」


よっぽど肉が好きなのかクレアは喜びのあまり、リエルに抱き着いた。リエルはバスケットを落とさないように慌てて抱えた。そんなに嬉しかったんだ。


「さすがリエル!太っ腹だな!お前が男だったら、嫁になりたいくらいだ!」


「クレアったら…。お肉位で大袈裟なんだから…。でも、そうだね。あたしもクレアが男だったらお嫁さんになりたかなったな。クレアと結婚したら、毎日楽しそう。」


「じゃあ、俺達、相思相愛だな!」


「フフッ…、そうだね。」


お互い笑い合いながら、バスケットを開け、中に入っているチキンを取り出し、クレアにあげた。

クレアは手を叩いて喜び、口いっぱいに肉を頬張った。見た目はとても上品そうに食べる子に見えるのに大口を開けて肉を頬張るクレアを見て、意外と豪快に食べる子なんだなと思いながらも、美味しそうに食べる親友の姿に嬉しくて、ニコニコしてしまう。


「美味しい?」


「滅茶苦茶上手い!こんなにうまい肉初めて食べたぞ!」


「良かった。たくさん食べてね。」


クレアに美味しいお肉を食べさせたくて、父様にお願いして、いいお肉を取り寄せてもらった甲斐があった。こんなに喜んでくれたんだもの。


「今日は何して遊ぶ?」


「木登りしようぜ!この前、登り甲斐がありそうな木を見つけたんだ!」


「き、木登り?でも、あたし木登りなんてしたことないよ!」


「大丈夫!大丈夫!俺が教えてやるからさ!」


クレアに手を引っ張られ、戸惑いながらもクレアの後に続いた。

大切な思い出…。クレアと遊ぶ時間は楽しくて…、時間を忘れてしまった。


「ん…。」


リエルはふと、目を覚ました。いけない。いつの間にか寝てしまったみたい。

最近、寝不足が続いていたからな。起き上がり、目を擦りながら、ベッドに横たわるクレアを見ると、クレアはまだ眠っていた。

そういえば、ゾフィーはどうしているかな?

リエルはそっとクレアの元を離れて、部屋を出て、ゾフィーの所に向かった。

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