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第二百十九話 ゾフィーside

その夜、ゾフィーは眠れなかった。ホットミルクでも作ろうかな。そう思い、ゾフィーは起き上がり、台所に向かう。カタン、と音がしたのでゾフィーは思わず音のする方向に目を向ける。見れば、クレアが身支度を整えて、外を出て行った所だった。黒装束に白い仮面…。あの格好で出かけるという事は怪盗としてのお仕事に?そう思っている間にクレアはタッと駆け出し、目にも止まらぬ速さでどこかに行ってしまう。

クレア?一瞬だけ見えたクレアの横顔…。何だか思い詰めたような表情をしていた。

ゾフィーはそんなクレアが気になり、黒猫の跡を追う事にした。

本当は外に出るのは危険だろうけど…、でも、やっぱりクレアが心配だ。それに、何だろう。何か嫌な予感がする。慌てて、ゾフィーは外套を被り、夜道へと足を踏み入れた。

が…、クレアはあの跳躍力と足の速さで姿を消してしまい、すぐに見失ってしまった。


「ど、どこに行ったのかしら…?」


確か、こっちの方に行ったと思ったんだけど…、

いつの間にかゾフィーは路地裏に迷い込んでしまっていた。キョロキョロと辺りを見渡す。


「ねえ、そんな所で何してんの?」


ゾフィーはビクッとした。見上げると、そこには、小柄だけどあどけない顔をした少年が木箱の上に座り、頬杖をついてこちらを見下ろしていた。ふわふわの赤茶色の髪を揺らし、美少年といった見た目をしているがその目は鋭く、ゾフィーを捕食者の瞳で見つめている。ゾフィーは本能的に少年が危険だと察知した。幸い、少年と自分の間には距離がある。走れば逃げ切れるかも…、そう思い、ゾフィーはじりっと後退りした。その瞬間、少年がタンッと音を立てて、素早い動きで目の前に降り立った。そのままガシッと腕を掴まれる。


「逃げるなよ。」


少年はそう言い、口角を吊り上げ、笑った。


「は、放して!」


ま、まずい…!もしかして、この人達、裏の人間だろうか。

ゾフィーは少年の腕を振り払い、すぐに背を向け、逃げ出すがドン、と誰かにぶつかってしまう。


「キャッ…!?」


尻餅をつき、反射的に見上げれば、そこには、二メートル近くもある大男が立っていた。

浅黒い肌に筋骨隆々の身体をした男の鋭い眼光に見下ろされ、ゾフィーはヒッ!と思わず悲鳴を上げそうになる。


「あらあら。こーんな所に迷子の子猫ちゃんがいるじゃないの。駄目よ。こんな時間に女の一人歩きは。食べて下さいって言ってるようなものじゃない。」


クスクスと笑いながら、暗がりから黒髪に褐色の肌の美女が現れる。身体の線がくっきりと浮き出るような煽情的な格好をした女性は同性のゾフィーから見ても色っぽくて、思わずその肉体美に目を奪われる。

黒い革製でできた服は女性の身体にぴったりと沿っていて、豊満な胸と尻が強調されている。

女性の腰には鞭やナイフが装着されていて、笑みを浮かべながらもその目は猛禽類のような鋭い光を宿している。ペロッと赤い舌で唇を舐める美女の仕草には危険な色香があった。

ゾフィーは身の危険を感じたが恐怖で身体が竦んで動けない。


「それとも…、本当は食べて欲しくてわざとこんな時間に一人でうろついているのかしら?」


いつの間にか目の前までやってきた美女にトン、と胸を指で突かれ、ゾフィーは声にならない悲鳴を上げ、バッと女性の手を振り払うと、自分を守るように胸の前で手をギュッと握りしめ、叫んだ。


「ち、違います!私は…、人を捜しているんです!」


「ふーん。人を、ねえ…。じゃあ、ここが私達の縄張りだってことも知らないで来た訳?それは、まあ…。何と言うか…、命知らずな女。」


それまではニコニコと楽しそうに笑っていた女が急に真顔になり、最後はボソッと低い声で囁かれ、ゾフィーはヒュッと息を吞んだ。

怖い!怖い!この人達、怖すぎる!わ、私、どうなっちゃうの!ま、まさか、このまま売り飛ばされたりとか…!ガタガタと震えるゾフィーにハア、と溜息を吐く音がした。


「ミレーナ。その位にしておけ。脅しすぎだ。」


「えー。こんなのちょっとした軽口じゃない。」


黒髪の男に窘められたミレーナと呼ばれた女はすぐにケロッとした顔で笑った。


「お前もだ。アッシュ。堅気の女には手を出すな。」


「だって、見た目は堅気でも中身が堅気とは限らないじゃん。だから、ちょっと確かめようかなって思っただけで…、」


アッシュと呼ばれた少年は黒髪の男の言葉に気まずそうに頬を掻いた。

黒髪の男がチラッとゾフィーに目を向ける。

ゾフィーは思わずビクッとした。


「連れが迷惑を掛けたな。悪かった。あんたに危害を加える気はないから、安心しろ。」


「あ、い、いえ…。」


た、助かった…?ゾフィーは黒髪の男の言葉に肩から力が抜けた。


「立てるか?」


「あ、大丈夫です!」


男が手を差し出すがゾフィーは自力で立った。


「あんた、堅気の人間だろ。こんな夜に女の一人歩きは危険だぞ。それに、ここら辺は追剥や強姦魔や犯罪者が出ることで知られている。」


「それ、数年前の話だけどね。まあ、たまーにそういう奴らが出るのは事実だけど。」


「俺達がここら辺を取り仕切るようになってからはそういうの、めっきり減ったけどね。」


「煩いぞ。黙ってろ。」


横から口をはさむアッシュとミレーナに黒髪の男はじろっと睨みつけた。


「ここ一帯は俺達の組織が縄張りにしている区域だ。こいつらは見ての通り、縄張り意識が強い。侵入者だと判断されると容赦がない。分かったら、もう二度とここには近づくな。いいな?」


「はい…。」


ゾフィーはコクン、と頷いた。この人、言葉が冷たいけど、何だか悪い人じゃなさそう。


「あの、ありがとうございます!ご迷惑を掛けておいてこんな事お聞きするのは申し訳ないんですけど…、黒装束に白い仮面の人を見ませんでしたか?」


「怪盗、黒猫の事か?…あんた、黒猫とどういう関係だ?」


「えっと…、」


私とクレアの関係?ゾフィーは言葉に詰まった。


「と、友達ですかね…?」


「何で疑問形なんだ。」


「うっ…、」


最も意見にゾフィーはシュン、とする。


「ねえ、あなた…、名前は?」


突然、ミレーナにそう聞かれ、ゾフィーはそういえば、名乗ってなかったと思い出し、


「あ、すみません。申し遅れました。私、ゾフィーと言います。」


家名は伏せておいた。平民は貴族全般にあまりいい印象を抱いていないと聞くし…。そう思っていると、


『ゾフィー!?』


全員が目を見開き、ゾフィーを凝視した。


「ちょっとあんた!そのフード、とって見せてくれ!」


「え、あ、ちょっ…!」


アッシュにフードを剥がされ、ゾフィーは焦ったがバサッと音を立てて、被っていたフードが外され、ゾフィーの視界が開けた。


「その顔と髪の色…!あんた、もしかして、ロンディ家のゾフィー嬢か!」


「えっ、何で私の名前を…?」


「やっと見つけた!」


アッシュの歓喜の声にゾフィーはビクッとした。

な、何…?


「ゾフィー嬢。子爵令嬢とは知らず、失礼した。我々はずっとあなたを捜していたんだ。もう、大丈夫だ。あなたの身の安全は保障する。」


「わ、私を…?あ、あの…、あなた達は一体…?」


「ああ。失礼。俺の名前はファビアン。俺の主君はフォルネーゼ伯爵だ。俺達はフォルネーゼ家直属の隠密部隊だ。リエル様もあなたの事を大層心配していた。あなたの無事を知ったら、きっと喜ぶ。」


「フォルネーゼ家の!?」


ゾフィーはパッと顔を輝かせた。リエルに会えるんだ!が、ふと、ゾフィーはある事に気が付いた。


「え、あの…、リエルは私が無事だったことを知らないんですか?」


「?当たり前でしょう。たった今、あなたの無事を確認したんですから。まだリエル様にも連絡はしていませんし…。」


「でも、私…、クレアに頼んでリエルとゼリウスの所に手紙を送ったんですけど…?」


「手紙?リエル様からそんな話は聞いていませんが。」


「え…。」


嘘。でも、クレアはちゃんと届けたって言っていたのに…。どうして?まさか、クレアはわざと?

ゾフィーの脳裏には、リエルの名前を出した時のクレアの反応が思い浮かんだ。

クレアはリエルを嫌っているかのような…、ううん。どこか憎んでいるかのようだった。でも、同時に…、何だか苦しそうにもしていた。まさか、クレアは…、リエルに何かしようとしている?

そういえば、クレアは昨夜から様子が変だった。どこか思い詰めたような…。

ゾフィーはサッと顔色を変えた。今すぐ、クレアの所に行かないと…!そんな思いに駆られた。


「ファビアンさん!リエル…!リエルはどこに!?」


クレアは恐らく、リエルの所に向かった筈だ。何らかの方法でリエルを呼び出して、リエルに危害を加えるつもりなのかもしれない!止めないと!ゾフィーが必死にファビアンにリエルの居場所を問いただしていると、

どこからか爆発音が聞こえた。


「うわ…!何だよ。今の音。」


「あれってリエル様の仕掛けた爆弾じゃ…、」


「ええ!?リエル様の話だと、ちょっと壁が崩れる位の威力が低い爆弾だよって話じゃだったじゃない!今の音、どう考えてもヤバい破壊力のあるやつじゃない!」


アッシュ達が爆弾の音に意識をとられている間にゾフィーはダッとその場を駆け出し、音のする方に向かった。

リエル…!クレア…!どうか、無事でいて…!

ゾフィーは祈るような気持ちで走り続けた。そして、辿り着いた先で…、リエルと再会することができた。


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