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第二百十一話 殺してやる!

「リエル!」


不意に名を呼ばれ、振り返ると、そこには路地裏に駆け込むようにして走ってくるアルバートがいた。


「え!?アルバート!?」


驚きながら、リエルは立ち上がり、呆然とアルバートを見つめた。

数百メートル先にいたアルバートが一瞬で間合いを詰め、リエルを抱き締めた。


「良かった…!無事で…!さっきの爆発でお前が巻き込まれたんじゃないかって…!」


「あ…、アルバート…。」


ぎゅうぎゅう、と苦しい位に抱き締められる。だけど、それは彼が自分をどれだけ心配していたか証明しているかのようで…。こんな状況なのに、リエルは嬉しいと思ってしまった。そっと彼の背中に手を回した。


「心配かけて、ごめんね。アルバート。」


「…頼むから、もうこんな無茶な事しないでくれ。」


「き、気を付けるね。」


そう言うリエルにアルバートはカッと目を見開き、リエルの肩を掴むと、


「お前の気を付けるって全然信用ならないんだよ!昔からそうだ!お前はいつもいつも無茶ばっかりして!お蔭で俺は餓鬼の頃からずーとハラハラしてたんだからな!お前といると、心臓が幾つあっても足りない位だ!」


「え、ええ?」


そこまで無茶なことしたかな?そんなリエルにアルバートはハーと長い溜息を吐いた。


「全く…。これだから、お前からは目が離せない…。」


アルバートはそう言って、リエルの肩に額を乗せるようにして、俯いた。


「…こんな私は嫌いになった?」


「そんな訳あるか!むしろ、そんな無茶ばっかりするリエルを見て、俺が守れるように強くなろうって思ったし…!」


そこまで言って、アルバートはハッとして、口を噤んだ。リエルは目をパチクリとさせながらもアルバートの言葉の意味を理解すると、嬉しそうに笑った。


「フフッ…、そっか。良かった。」


そう言って、リエルはアルバートの手をキュッと握った。

途端に顔を赤くするアルバートを見て、リエルは可愛い、と思った。

その時、アルバートがリエルの傷を見て、ギョッと目を見開いた。


「なっ!?お前、怪我をしたのか!?肩や足から血が出てるぞ!」


そう言って、アルバートは急いでリエルの手当てをした。白薔薇騎士の象徴である白い外套の裾を切り裂いて、傷口を止血した。


「アルバート!それ、大切な薔薇騎士の制服なのに…!」


「そんな事はどうでもいいだろ!お前の傷を手当てするのが先だ。大体、服なんてまた買えばいいだけの話だ。」


「アルバート…。」


薔薇騎士にとってこの白い外套はとても大切な物であるだろうに…。

それを迷うことなく、破いて手当てをしてくれるアルバートにリエルは胸が熱くなった。

さすが騎士であるだけあって、アルバートの応急処置は手慣れたものだった。


「とりあえず、応急処置はしたが、一時的なものだからな。後で屋敷に帰ったら医者に診てもらえ。他に怪我はしてないだろうな?」


「うん。大丈夫だよ。ありがとう。アルバート。」


「あ、ああ…。」


笑顔でお礼を言うと、アルバートは少しだけ照れたように頬を赤くして頷いた。


「それにしても、よく私がここにいるって分かったね。」


「お前の部屋から黒猫からの手紙が見つかったからな。ルイ達も大騒ぎしていたぞ。多分、そろそろ着くはずだ。」


「ルイも…。」


ルイ達も合流すると知り、リエルはホッとした。

アルバートがリエルの傍で倒れている黒猫に視線を向けた。


「そいつが黒猫か…?つまり、こいつがリエルに怪我をさせたんだな。」


「うん。でも、黒猫は私をすぐに殺す気はなかったからナイフが掠っただけで…、あ、アルバート!?何してるの!?」


リエルは急にアルバートが剣を抜いたのでリエルは慌てて止めた。


「何で止めるんだ!こいつ、お前を傷つけたんだぞ!同じ目に遭わせてやるのは当然だろう!」


「駄目よ!今の黒猫を見れば、重症だってことくらい分かるでしょう!?これ以上、やったら死んでしまうわ!」


リエルは必死にアルバートを宥めた。黒猫がゾフィーの居場所を知っている以上、殺す訳にはいかない。アルバートは渋々、剣を鞘に納めた。


「じゃあ、こいつはリエルが倒したのか?もしかして、さっきの爆発音ってローランの…。」


「そう。ローランに試作品の爆弾を分けて貰って、あらかじめここに爆弾を仕掛けておいたの。」


リエルの言葉にアルバートは思わず声を上げた。


「何でそんな危ない事をしたんだよ!爆弾がどんな危険な物かお前なら知ってるだろう!あれは、使い方を間違えると、命を落とす危険な武器なんだぞ!」


「だって、こうでもしないと黒猫には勝てないと思ったから…。それに、一応、爆弾は何度か取り扱ったことあるから、扱い方に気を付ければ大丈夫かと思って…、」


「お前は女なんだぞ!何かあって、顔や身体に傷が残ったらどうするつもりだったんだ!そんな危険な事をする前に俺かルイかリヒターにでも言ってくれれば…!」


「でも、それだと、ゾフィーが殺されてしまうかもしれないって思って。危ない事をしているのは分かっていたけど、そうでもしないとゾフィーを助けられないでしょう。だから、私…、」


リエルはアルバートの言葉にしょんぼりしながら、段々と項垂れていく。すると、アルバートはハッとしたように言い直した。


「わ、悪い。ちょっときつく言い過ぎた。俺達ですら捕まえられなかった黒猫をお前一人で仕留めたんだから先に褒めるべきだったのに…。ただ、その…、リエルに何かあったらって思ったらつい…。」


そう言って、アルバートは怒鳴ってしまって悪かった、と謝った。


「アルバート…。ううん。気にしないで。私の事、心配してくれたんだよね?ありがとう。」


「あ、当たり前だろ!お前は俺の…、こ、恋人なんだから!」


恋人、の部分をどもりながら言うアルバートにリエルは思わず笑った。


「な、何だよ?」


「何でもないよ。」


リエルはそう言って、アルバートに微笑み返した。アルバートは気まずさを誤魔化すようにして、視線を黒猫に移した。


「ん?こいつ、確か前に王宮の夜会に侵入した男だよな?こいつが黒猫だったのか…。どおりで逃げ足が早いと思った。」


「この人、黒百合の館にもいたの。多分、シーザーの部下なんだと思う。彼がゾフィーをずっと監禁していたみたい。」


「監禁?ゾフィー嬢って逃げたんじゃなかったのか?」


「私も詳しい事はまだ何も知らないの。もしかしたら、逃げる途中で黒猫に捕まったのかもしれない。そこは、彼に聞いてみないと分からない。でも、先にゾフィーの居場所を…、」


「そうだな。まずはゾフィー嬢の居場所を吐かせるのが先だな。」


「姉上!ご無事ですか!?」


その時、ルイ達がリエルの元に合流した。

ルイがリエルに抱き着いた。後からロジェもやってきた。


「遅くなってしまい、申し訳ありません!姉上!お怪我はありませんか?」


「大丈夫。この通り、無事だったから。あれ?リヒターは?」


「ファビアン達と一緒に黒猫のアジトを割り出しています。ここまで来た黒猫の足取りを追えばすぐに見つけ出せるでしょう。…そいつが黒猫ですか…?」


「ええ。」


リエルは今まであったことを簡単に説明した。

説明を聞き終えたルイはスッと表情を消した。黒猫を氷のような冷たい目で見下ろす。


「アルバート。退いて下さい。その男は僕が相手をしますから。」


黒猫を見張っていたアルバートにルイが近付く。


「はあ?何言ってんだ。こいつは薔薇騎士の俺が身柄を拘束する。」


「いいえ。それは僕の獲物です。この男の身柄はフォルネーゼ家が管理します。聞きたいことも色々とありますし…、」


「それは俺だって同じだ!こいつの裏についている貴族や組織を割り出さないといけないんだからな。」


「尋問は僕の得意分野です。僕にお任せを。」


「二人共!今はそんな事どうでもいいでしょう!それより、早くゾフィーの居場所を吐かせないと!」


リエルの声にルイとアルバートは口論を止めた。


「わ、分かった。」


「はい。姉上。」


あっさりと頷く二人を横目にリエルは黒猫の肩を掴んで揺さぶった。


「黒猫!起きて!起きなさい!」


「リエル。退いてろ。」


そう言って、アルバートは何か水筒のような物を取り出すと、それを躊躇なく黒猫の顔にかけた。


「ッ!?うっ…、」


うっすらと目を開ける黒猫。


「気が付いたか。久しぶりだな。黒猫。俺の事は覚えているか?」


「お前…、確か、白薔薇騎士…。」


黒猫はそう呟きながら、目の前にいるアルバートを見上げる。そして、アルバートの近くにいたルイが視界に入った途端、目を見開いた。そして、ギリッと唇を強く噛み締めると、鋭く睨みつけた。


「フォルネーゼ伯爵…!」


黒猫は歯を剥き出しにして、唸り声を上げて、ルイに飛び掛かろうとした。

立っているのもやっとの状態であるにも関わらず、彼は立ち上がり、ルイに手を伸ばした。


が、ルイは手にしていた杖で黒猫を薙ぎ払い、そのまま地面に黒猫を押し付けた。


「ガッ…!?」


強かに地面に転がる黒猫にルイは躊躇なく、蹴飛ばした。

避ける間もなく、黒猫は壁に身体を打ち付けられた。その時、キラッと何かが地面に落ちた。


今、何か…?リエルは一瞬、それを目で追ったが、すぐにルイと黒猫に視線を戻した。

壁に身体をぶつけた衝撃で黒猫はそのままずるずると身体がずり落ちそうになるが寸での所で足に力を入れ、何とか持ち堪えた。が、その黒猫の喉元にルイは細身の剣の切っ先を突き付けた。

いつの間にか杖から引き抜いたルイの隠し武器だ。


一見、華奢で繊細な容姿をしたルイは荒事に慣れていないように見える。

いかにも箱入り育ちの令息といった風情だが実は、剣の腕も立ち、弓や隠し武器、銃等の武器の扱いもお手の物だ。それはフォルネーゼ伯爵家の次期当主になるための教育の一環として身に着けた技だった。

ルイはサラやロジェよりも遥かに強い。本当は護衛なんていらないのではないかと思えない位の実力の持ち主なのだ。幾ら黒猫でも手負いの身体ではルイには勝てなかったのだろう。

あっさりと身体を封じ込まれた。


「クッ…!」


黒猫は悔しそうに歯噛みしながらも、その目にはまだ強い敵意と殺意があった。


「さて、黒猫。聞きたいことは山ほどありますがまずは僕の質問に答えて頂きたい。ゾフィー嬢はどちらに?…私は姉上と違って優しくないので早く吐いた方が見の為ですよ。」


ルイは、グイッと剣の切っ先を動かし、黒猫の肌に切っ先を食い込ませた。ツー、と微かに血が滴り落ちる。黒猫は数秒黙ったままだったが、唇を噛みながらも、白状した。


「ッ…、この先の…、住宅街にある…。赤い屋根の…、家に…。」


「リヒター。住宅街の赤い屋根を徹底的に探せ。」


『御意。』


ルイが通信機でリヒターに指示を出した。

黒猫はギリギリ、と歯軋りした。食い縛った歯からは血がでている。

圧倒的に不利な立場であるにも関わらず、黒猫はルイに対する殺意を隠そうともしない。


「フォルネーゼ伯爵…!この、悪魔の子が…!殺してやる!俺がこの手で手前をぶっ殺してやるからな…!」


「……。」


リエルから事情を聞いていたルイは然して驚かない。そのまま無表情で黒猫を見つめる。


「お前の手足を切り落とし、腸を抉り出して、全身バラバラに切り刻んでありとあらゆる苦しみを与えた上で殺してやる!」


「威勢がいいのは結構ですが、そんな格好で言われても説得力がありませんよ。」


「リエル。お前は下がってろ。」


狂ったように殺してやる!と叫ぶ黒猫を見て、アルバートはリエルを後ろに下がらせた。

アルバートに促され、一歩、後ろに下がったリエルの足元に何か光る物が落ちていた。

これ…、さっき黒猫が落とした物…?リエルは何気なくそれを拾った。

それは、琥珀のブローチだった。


「え…?」


リエルはそのブローチを見た瞬間、心臓がドクン、とした。

どうして…、どうして、このブローチがここにあるの?

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