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第二百十話 ゾフィーはどこにいるの?

「あれ?」


一方その頃、ローランは保管していた筈の爆弾のサンプルが一つ減っていることに気がついた。


「おかしいな…。」


このサンプルは来週の軍部の実験で検証する時に使う物だから僕以外の人間には触れさせないように注意してたのに‥、まさか、盗まれた?

いや。僕の研究室は僕と僕が許可した一部の人間しか入れないようシステムが組み込まれている。

外部の人間が入れば、部屋に仕掛けられた罠が作動する仕組みになっている。

普通に考えて、僕の研究室からこれを持ち出すのは不可能だ。一体、どうして…、


「あ…、」


ローランはふと、何かに思い当たったようにゴソゴソとポケットを弄った。

ポケットの中から取り出したのは、掌サイズの大きさをした紺色のキューブ状の物だった。

それを見て、ローランはぽつりと呟いた。


「リエルに渡した爆弾、間違えた…。」


あの爆弾を完成した時、一つだけサンプルを取り出して、ポケットに仕舞ったままだったことを忘れてた。そして、そのまま別のサンプルもポケットに入れっぱなしにしていたんだった。

この紺色のキューブは、ただの試作品で作った物だから、威力が低い爆弾だった。

建物の壁の一部分を壊したり、相手の足場を崩す位はできるといった程度の威力しかない。

それをリエルに渡したつもりでいたのだが、実際に渡したのは黒いキューブ。

紺色のキューブの爆弾とは遥かに精度も高く、威力の高い爆弾だ。

色がよく似ていたから、全然気付かなかった。


「…まあ、いいか。リエルなら、多分大丈夫だろうし。」


ローランはそんな無責任な事を呟き、ふわああ、と欠伸をして仮眠室へと直行した。






凄まじい爆発音と風圧にリエルは思わず悲鳴を上げた。


「きゃあああああ!?」


リエルは咄嗟に身を守るようにして、蹲った。

幸い、瓦礫がリエルの上に崩れることはなく、無事だった。

漸く、音が鳴りやみ、シン、と静かになると、リエルはそっと頭を覆っていた腕を外し、顔を上げた。

見れば、先程、黒猫がいた場所は建物が半壊していた。

おまけに木材やら硝子の破片、煉瓦の残骸が落ちていて、瓦礫の山となっている。

そのせいで地面が見えず、黒猫がどこにいるのかも認識できなかった。


う、嘘でしょう!こ、こんなに破壊力のある爆弾だったなんて聞いてないわよ!ローラン!


リエルはその惨状を前にして、思わず心の中で抗議した。

ちょっと壁の一部が崩れる位だよ、って言ってたのに!


実は、偶然にも黒猫が指定した場所はリエルも知っている区域だった。

そこは、かつて犯罪組織だった集団がアジトにしていた所だった。

その犯罪組織は今ではフォルネーゼ家の保護下に入り、隠密部隊として活躍している。

組織の長だったファビアンとその部下で幹部だったのがロジェだ。

今でもファビアン達はフォルネーゼ家の為に影で暗躍してくれている。

だからこそ、リエルはファビアン達に連絡を取り、黒猫との約束の時間前に仕込みをお願いしたのだ。


リエルはローランに会い、試作品の爆弾を幾つか分けてもらった。

ローランから説明も受けたのでやり方も分かっている。後は、これを実戦でどれだけ上手く使う事ができるかにかかっていた。

ローランの科学者としての腕は本物だ。だからこそ、信用していた。

あまり威力の強い爆弾だと相手どころか自分も巻き添えで死んでしまう危険がある。

それに、黒猫を殺してしまっては意味がない。生かして捕らえないとゾフィーの居場所は分からないのだから。あの黒猫を生け捕りにするなんてリエルの実力では無理な事は十分に分かっている。


ルイ達に話せば協力してくれるだろうがそれだと、ゾフィーが危険に晒されてしまうかもしれない。

恐らく、ゾフィーは生きている。リエルはそう信じていた。だからこそ、黒猫は私を誘き寄せたのだ。

リエルが他の人間に話したりすればゾフィーが危ない。

だから、覚悟を決めた。ゾフィーを助け出す為に私は黒猫と戦う。

でも、その為には黒猫を殺さずに勝たないといけない。


リエルの実力では黒猫には勝てない。黒猫と初めて遭遇した時にリエルは手も足も出なかった。

黒猫はあの薔薇騎士の捜査の手を逃れることができる程の強者だ。

多少、護身術を身に着けている程度のリエルでは勝ち目はない。

正攻法では黒猫に太刀打ちできない。多少は卑怯な手を使わないと、私に勝機はない。

迷う必要なんてなかった。卑怯だろうが何だろうが私はやる。

ゾフィーを助ける為なら、私はどんな事だってすると決めたのだから。


だから、リエルは作戦を考えた。

ローランが開発した比較的威力の低い爆弾を使って、時間稼ぎをして黒猫をあらかじめ仕込んでおいた爆弾の所まで誘き寄せる。そして、爆弾を作動して、黒猫を気絶させるなり、昏倒させる。

作戦は単純だが、実戦となると、成功するかどうかは分からない。

それでも…、リエルは賭けに出る事にした。黒猫の狙いは私だ。

どうして、黒猫がゾフィーの事を知っているのかは分からない。

でも、今はそんな事考えている余裕はない。一刻も早く、ゾフィーの居場所を見つけ出さないと!

そして、リエルは黒猫との戦いに挑んだのだ。


しかし、まさか、ここまで爆弾の威力が高いものだとは知らず、リエルは焦った。


「黒猫!」


リエルは慌てて、黒猫の姿を捜した。瓦礫を掻き分け、黒猫が埋まっていないか確認していく。

まずい…!どうしよう!もし、ここで黒猫が死んでしまったら…!リエルは必死に黒猫の名前を呼んだ。


「黒猫!いるのなら、返事をして!」


返事はない。嫌な予感がする。焦燥感に駆られ、リエルは何度も視線を彷徨わせる。

どこ…?どこにいるの?まさか、本当に…、最悪の事態を想定したその時、


「ッ…、うっ…、」


「!黒猫!?」


リエルは小さな呻き声が聞こえ、声のする方に向かった。すると、瓦礫の一角がガラガラと崩れ、ゆっくりと黒い人影が立ち上がった。そこには、頭から血を流し、ボロボロになった黒猫がいた。

良かった!生きてた…!リエルはホッとしつつも、すぐに警戒して、銃を構えた。

あれだけの傷でまだ立っていられるなんて…。そう感心しながらもリエルは警戒した。

いざとなったら、足を撃ってでも動きを止めるしかない…!

そう思っていると、黒猫がギロッとこちらを睨みつけた。


「やって…、くれたな…!」


「!?あなたは…、あの時の…?」


あの爆発の衝撃のせいか仮面が剥がれていて、黒猫の素顔が露になっていた。リエルはその素顔を見て、驚愕した。一目見て、すぐに気が付いた。目の前にいる男はあの夜会で出会った黒髪の貴公子だ。

そして、黒百合の館でも一度だけ見たことがある。まさか、彼が怪盗、黒猫の正体だったなんて…!

頭から血を流し、全身傷だらけの黒猫は足取りもふらついていて、立っているのもやっとの状態だ。

それでも、その鋭い眼光は消えていない。琥珀色の瞳がリエルを射抜いた。

その瞳にリエルは既視感を抱いた。一歩、足を踏み出す黒猫だが、そのまま彼は力なく、倒れ込んでしまう。


「ッ、クソッ…!」


黒猫はそのまま立ち上がろうとするが力が入らないのか立ち上がれずにいる。

リエルは黒猫を警戒しながらも考え込んだ。

あの娼館に彼がいたという事は、やはり、この男もゾフィーの件に絡んでいる可能性が高い。

リエルは用心深く、黒猫に近付き、銃を突き付けた。


「黒猫。動かないで!私の質問に答えなさい。ゾフィーはどこにいるの?」


「ゾフィー…。あの、赤毛の女か…。」


「!やっぱり…、知っているのね…。ゾフィーはどこ!?彼女は無事なんでしょうね!?」


黒猫は一瞬だけ目を細めた。そして、嘲笑うように口角を吊り上げると、


「ハッ…!もう、手遅れだ。…あの女、もうボロボロで使い物にならなくなっちまったからな。」


「…何ですって?どういう意味!?それは!」


黒猫の言葉にリエルは詰問した。


「ゾフィーは無事なの!?あなた、一体、彼女に何をしたの!」


「俺はただ…、あの女に分からせてやっただけだ。自分の立場ってやつをな。…元貴族の女を屈服させるのは気分がいいな。鎖に繋いで従順なペットのように躾けてやればすぐに大人しくなったぞ。」


リエルは思わず怒りに任せて、黒猫の頬を銃で殴った。


「この、外道…!何て酷い事を…!よくも、ゾフィーをそんな目に…!許せない…!」


黒猫は無反応だった。


「ゾフィーがあなたに何をしたというの!どうして、そんな酷い事ができるの!あなたは女性を何だと思っているの!女性はペットでも道具でもない!一人の意思を持った人間なのよ!私は絶対にあなたを許さない!あなたは私の親友を傷つけた!そんなあなたを私は許さない…!」


「親友…?」


「そうよ!ゾフィーは私の大切な友人…、親友よ!私にとってはかけがけのない友達だわ!」


あの子を失ってから…、私には親友と呼べる友達はできなかった。私にとっては、あの子がたった一人の友達で親友だった。あの子の代わりはどこにもいない。だけど…、ゾフィーに出会って心に変化が生まれた。

ゾフィーとあの子は全然違う。それでも…、私はあの子と同じくらいの気持ちをゾフィーにも感じた。

だから、リエルにとってゾフィーは二人目の親友だった。


「親友…。うっ…!」


「黒猫?」


ぽつりと呟き、その直後に黒猫はいきなり苦しそうに声を上げた。

頭を押さえ、何かに耐えるような表情を浮かべる。


「ッ…!あ…!グッ…!」


「ど、どうしたというの?」


尋常じゃない程の痛みの声を上げる黒猫にリエルは戸惑った。


「うああああああああ!」


髪を振り乱し、頭を押さえる黒猫は叫び声を上げて、そのままフッと力が抜けたように崩れ落ちた。


「黒猫!」


リエルは慌てて黒猫を抱き起した。彼は気絶していた。

何…?さっきの黒猫は尋常じゃない位に痛がっていた。ただ傷が痛んだというわけではなさそう。

今のは一体…、

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