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第二百五話 待ちなさい!

アルバートが剣を振ると、キン!と何かが弾く音がした。銃弾を弾いたのだ。


「なっ…!?馬鹿な…!?」


上の階から狙いを定めていた狙撃手は狼狽えたような声を出した。

サミュエルは狙撃手に向かって、バッと手を翳した。すると、狙撃手が持っていた銃が爆発した。

悲鳴を上げて、倒れる狙撃手にリエルは目を見開いた。あんな所に伏兵がいたなんて…。


「サミュエル。来るぞ。」


「分かっているよ。」


サミュエルも剣を抜き、アルバートに頷いた。リエルがえ?と疑問に思う間もなく、舞台裏からバタバタと複数の足音が聞こえた。


「薔薇騎士を討ち取れ!」


「王家の犬だ!殺せ!」


現れたのは武装した男達だった。ザッと見た感じ、二百人以上はいる。

いや…。もっといるかもしれない。

狼狽えながらも、リエルは銃を取り出した。


「幾ら、薔薇騎士とはいえ、この人数だ!やっちまえ!」


うおおお!と歓声を上げた男達は我先にとこちらに突進してくる。


「随分と舐められたもんだな。」


「そうだね。少し、お仕置きが必要みたいだ。」


アルバートはリエルの前に立ち、剣を構えた。


「リエル。俺の前には出るなよ。」


そう言うと、アルバートは剣を一閃した。

直後、竜巻のような風が巻き起こり、周囲の敵を蹴散らしていく。

後ろにいるリエルですらもその激しい風圧を感じた。

風に巻き込まれ、宙に投げ出された人達はそのまま床に叩きつけられたり、壁に激突したりして、気絶している。

サミュエルは目にも止まらぬ速さで敵を斬りつけていき、バタバタと敵を倒していく。


「お、女を捕まえろ!あいつを人質にすれば…!」


そう言って、男達がリエルを捕まえようと近づく。リエルは銃を構えると、狙いを定め、パン!パン!と音を立てて、発砲した。


「ぐあ!?」


「ぎゃあ!?」


弾が命中し、男達が倒れていく。


「リエル!?」


アルバートが焦ったように声を上げた。


「私は大丈夫!」


リエルはアルバートにそう答えるがふと、視界の端にあの仮面の男が逃げようとするのを目撃した。


「!待ちなさい!」


「リエル!馬鹿!お前、離れるな!」


仮面の男の後を追うリエルをアルバートは止めようと追いかけるが敵に行く手を阻まれ、進めなくなった。


「くそっ!」


すぐに敵を斬り伏せるが次から次へと敵が襲い掛かってくる。

雑魚ばかりだが、数が多すぎるのだ。


「リエル!待て!」


「あの男が逃げてしまうわ!追わないと!」


アルバートの制止の声も聞かずにリエルは走った。

途中で斬りかかってくる男達を銃で撃退しながら、男の後を追った。

仮面の男は一瞬、振り返ってリエルを見やるがすぐに背を向けて歩き出した。

そのまま奥まった場所に入っていく姿が見えた。

途中で倒れていく男達を踏まないように気を付けながらもリエルが駆け付けると、そこに男の姿はない。


「!い、いない!?」


リエルは銃を構えながら、どこかに男が潜んでいるのではないかと警戒した。しかし、気配がない。

リエルはふと、微かに埃が舞っていることに気が付いた。

じっと床を注視する。…特に違和感はない。次に壁を凝視する。


「…?」


リエルは壁の一部分が少しだけ出張っていることに気が付いた。

壁に触れて、力一杯押してみる。すると、ガコン、と音がして、壁が回転し、中に空間が広がった。

見れば、地下に続く階段があった。暗くて奥までは見えない。

これは隠し通路だったのね。リエルはすぐに小型の照明灯を手に取り、明かりをつけた。


「あ、そうだ…。」


リエルはイヤリングに触り、通信機を作動した。






「グッ…、うっ…。」


薄暗い部屋の中で男の呻き声が聞こえる。

見張りの男は全員、血を流して倒れていた。

そんな男達を黒髪の女が冷ややかな目で見下ろした。その手には血に染まった短剣が握られている。

ポタポタと血が滴り落ちる音が聞こえる。

三人中、二人は絶命している。生きているのは一人だけだ。

女はクルクルと短剣を手の中で回転させながら、息のある男に近付いた。


「ヒッ…!ま、待って、くれえ…!」


男は女を見て、顔を青褪めた。這ってでも逃げようとするがもうそんな体力もない。

腹を切られたため、痛みで動けないのだ。

女は無表情で立ち止まった。

その顔にはべったりと返り血が付着していた。それがかえって男に恐怖を与えた。

男は混乱していた。何が起こったのか分からなかった。


突然、この女が現れ、最初は見惚れてしまったがいきなり現れた女に警戒した瞬間、女が豹変した。

女が手を振ったと思ったら、仲間が声を上げる間もなく、口から血を流して、倒れてしまったのだ。

その後の事はよく覚えていない。二人目の男もあっさりと倒され、男も反撃したが全く敵わずに気が付いたら腹から血を流して倒れてしまった。


「た、助けて、くれえ…。い、命だけは…、」


「…。」


「し、死にたく、ねえよ…。」


女はじっと男を静かに見下ろすと、重たい口を開いた。


「助けて…。死にたくない。殺さないで…。彼女達も…、そう言って、あなた達に命乞いしたのではないの?」


「…?」


男は鼻水と涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げる。


「…止めてと。痛い、苦しいと泣き叫んでいた筈。…そんな彼女達にあんた達は何をした?」


「お、俺達は…、ただ命令されただけで…、ぎゃあああああ!?」


突然、女が男の肩にナイフを突き刺した。男は悲鳴を上げた。


「嘘吐き。あんた達はただ、欲望のままに女達を輪姦して、楽しんでいた癖に。…よくも、そんな事が言えるね。この…、外道が。」


女は心底、蔑んだ目をして、男を睨みつけ、ナイフを引き抜いた。男の絶叫が薄暗い部屋の中で反響した。


「どうせ…、あの牢にいる子もあんた達は散々弄んだんだろう。どこまで…、」


女は唇を噛み締めると、手にしたナイフを振り上げた。

そのまま躊躇なく男の身体にナイフを振り下ろした。


「どこまで腐ってるんだ!あんた達は!」


「ぎゃああああ!?」


男の断末魔の悲鳴は徐々に小さくなっていき、やがて、その声は聞こえなくなった。


「はあっ…、はあ…!」


女は肩を上下させながら、荒い息を吐きだした。

女の足元には物言わぬ骸が転がっている。


「…腐ってるのは…、俺も同じか…。」


女は俯いて、震える声でそう呟いた。

やがて、顔を上げると、ナイフを手にして、牢に向かった。

牢の鍵を開け、中に入るとそこには鎖で繋がれた女がいた。

元は赤い髪をした女の変わり果てた姿に黒髪の女は息を呑んだ。


「…あんた…。」


すると、生気のない目をした女が微かに反応し、こちらを見つめた。


「…して…。」


「え?」


「こ、ろ、して…。」


「…!」


小さくてか細い声。それでも、はっきりと聞こえた。女は懇願した目をこちらに向けた。

ここまで言わせる程に…。この女は…、

黒髪の女は目を閉じ、ナイフを強く握り締めた。


「…分かった。」


音もなく、赤い髪の女に近付き、ナイフを振り上げる。そのまま心臓を一突きした。

女は一瞬、身体が痙攣し、そのままガクッと首を項垂れた。

口から血を流した女は目を開けたまま、息絶えた。

その目からは涙が流れていた。

殺されたにも関わらず、その死に顔は安堵の表情を浮かべていた。

女の手錠と足枷を外し、床に横たえる。


「…ごめん…。」


死体となった女の髪を撫で、そう呟いた黒髪の女の肩は震え、頬には一筋の滴が伝った。

グイッと涙を拭い、女は立ちあがった。

ぐずぐずしていられない。早く戻らなければ…!

そう思って、部屋を出て行くと、不意に階段を降りてくる足音が聞こえた。






「邪魔だ!どけ!」


アルバートは敵を斬り捨て、薙ぎ払いながらリエルの跡を追う。


「あそこだ!殺せ!白薔薇騎士を殺せ!」


見れば、入り口からまた続々と敵が現れた。

また、増えた。どれだけ戦力があるんだ。これじゃ、キリがない。

アルバートは舌打ちした。ただでさえ、急いでるのに…。

一気に片をつけるかと思ったその時、


「…?」


アルバートは何か不穏な気配を感じた。

何だ?直感的に上を見上げる。

次の瞬間…、ドッカーン!と大きな破壊音と衝撃が走った。


「うわああああ!?」


「ぎゃあああ!?」


男達の悲鳴が聞こえる。天井から石やら木材が崩れ落ちる。瓦礫に下敷きになった男達の悲鳴が響いた。






リエルは照明灯で足元を照らしながら階段を下っていく。


「随分、あるのね…。」


照明灯だけでは男の姿は確認できない。

リエルは辺りに警戒しながら足を進める。

その時、上の方で物凄く大きな音が聞こえた。


「…?何?今の音は。」


リエルは上で何が起こったのか気になったが引き返すわけにも行かず、先へ進んだ。

アルバート…。大丈夫だよね?

二人は薔薇騎士だし…。

もうすぐルイ達も応援に駆け付ける筈だし…。

そう思い直して、リエルは階段を降りていった。





「うまくいったな。これで、やっと姉上に合流できる。」


「だ、旦那様!何考えてんすか!?いきなりバズーカをぶっ放すなんて!」


ルイは自分の背丈以上のあるバズーカを肩に背負いながら、感心したように呟いた。

そんなルイにロジェが悲鳴を上げた。

屋根から侵入すると言い出し、下がるように命令された時点で嫌な予感がしていたのだがまさか、バズーカをぶち込むとは思わなかった。


「こっちの方が近道だろう?まあ、ここまで穴が開くとは思わなかったが…。」


「穴どころが屋根ごと吹っ飛んでますが!?」


「そうだな。これなら、順番待ちしなくても、一度に大勢で乗り込めるな。」


「そういう問題じゃないでしょう!」


ロジェの叫びなど意に介さず、ルイはバズーカを部下に預けると、タンッと足を蹴って、地面に着地した。


「さて…、姉上はどちらに…。」


ルイは辺りを見回し、例の地下室はどこだろうかと視線を巡らせた。

辺りには瓦礫や木材に押しつぶされていたり、打ち所が悪かったのかそのまま気絶している男達が倒れ伏していた。


「おい!こら!ルイ!」


不意に背後から声がかけられ、ルイは顔を顰めながら、振り返った。

振り返れば案の定、そこにはアルバートがこちらを睨みつけて立っていた。


「手前、何やってくれてんだ!俺達まで殺す気か!?」


「煩いですよ。駄犬。あれしきの攻撃、薔薇騎士ならば防いで当然でしょう。むしろ、感謝して欲しいものです。これで敵を一掃できたんですからね。」


「一歩間違えれば俺達まで巻き添え食らってたんだぞ!?っていうか、駄犬って呼ぶな!」


「駄犬を駄犬と呼んで何が悪いのです。結果的に無事だったんですからそれでいいじゃありませんか。」


「ふざけんな!咄嗟に防御壁張ったから無事だったが、まともに食らってたら死んでたぞ!もし、これがリエルに当たったらどうするつもりだ!」


「姉上はこの部屋にいないことは知ってましたし、駄犬と黄薔薇騎士なら少し無茶をしても問題ないかと。」


こいつ、今すぐぶん殴ってやりたい…!

アルバートは目の前のルイに殺意を抱いた。

嫌!駄目だ!駄目だ!

アルバートは心の中で必死に首を横に振った。


ここでルイを殴ったらリエルが何て思うか。

ルイが被害者面でリエルに泣きついたら俺が完璧に悪者にされてしまう。

そうなったら、リエルに可愛い弟を傷つけた酷い男だという印象を与えてしまう。


耐えろ!耐えるんだ!俺…!

アルバートはググッ…、と拳を握り締めて怒りに耐え抜いた。


「…フン。」


ルイはそんなアルバートを鼻で笑った。


「まあまあ、アルバート。伯爵のお陰でお互い無事だったんだからいいじゃないか。」


アルバートと同じく防御壁を発動して無事だったサミュエルは剣を鞘に収めながら笑って、そう窘めた。


「それより、君は早くリエル嬢の所へ行った方がいいんじゃないのか?」


「そうだ!リエル!」


サミュエルに言われ、アルバートはハッとした。


「お嬢様なら、隠し扉の階段を使って地下室に向かわれたそうですよ。」


いつの間にかリヒターが現れ、アルバートにそう言った。


「地下室!?また何でそんな所に…、」


「さあ?そこまではわたしには…、それより、早く行かれては如何です?旦那様はもう先に行かれてますが。」


リヒターが指さした方を見れば、ルイはさっさとロジェ達を連れて走り出していた。


「なっ!?待て!こら!ルイ!」


アルバートは高速能力を使ってルイ達に続いた。

やれやれとリヒターは溜息を吐いた。


「いつも、愚弟が迷惑を掛けて申し訳ありません。」


「いえいえ。アルバートは普段はよくやってくれてますよ。リエル嬢が絡むとああなってしまうだけで。」


リヒターが頭を下げ、謝罪するとサミュエルは笑ってそう答えた。


「昔からああなのです。大人になった今でも全く変わらないので、もう諦めていますが。」


「アハハッ!そうでしたか。昔からか。それはそれは…、随分、執念深…、いえ。一途なのですね。」


リヒターの言葉にサミュエルは笑いながら、そう言った。言い間違えたのは勿論、わざとだ。

リヒターは肯定も否定もせずに微笑んだ。


「レオンバルト卿。よろしければ…、この店の娼婦から少しお話を聞かせて頂くことをお許し願えませんか?」


リヒターの頼みにサミュエルは目を瞠ったが「構わないよ。」と笑顔で頷いた。


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