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第一話 さあ、伯爵。ここにサインを。

緑豊かな大地の国、ウェルザー公国…。数十年前の大戦より、国々の間には平和の協定が結ばれた。

平和の協定により、その後はのどかで平和な日々が続いた。

ウェルザー公国は大陸の中心にあり、最も広い領地を持つ王国であった。国を治めるのはアレクサンダー皇帝である。

ウェルザー公国には皇帝の権力の下に三つの機関が存在する。「五大貴族」、「薔薇騎士」、「鴉」である。


五大貴族は、皇帝の次に地位のある有力貴族であり、五つの貴族家系を指す。この五つの家柄が互いの均衡を保つことにより、皇帝を補佐する立場にあった。そして、皇帝は五大貴族の間で権力争いや反乱が起こらないように互いの家柄同士の婚姻、あるいは王族の降嫁を取り計らうことが多々あった。故に五大貴族の家系は古くから王族に連なる家系であり、王族とは強い協力関係があった。


次に、「薔薇騎士」とは、王立騎士団に所属する近衛兵である。「薔薇騎士」は七つの部隊が形成され、王に剣をかけて騎士としての忠誠を誓っている。


最後に、「鴉」とは、皇帝直属の特殊秘密機関であり、五大貴族や薔薇騎士とは違い、影の存在である。暗殺と密偵を生業とし、皇帝に害なす者を人知れず排除していくという裏の仕事をこなす役割を担う王国の闇であった。故に、「鴉」は決して表舞台に上がることはなかった。


この三大機関は皇帝が所有し、皇帝はこれらを動かす権利を持っていた。そして、三大機関は皇帝に忠誠を誓っていることでその関係は成り立っているのである。どれか一つでも欠ければ国は混乱を招いてしまう。故に三大機関は必要不可欠な存在だった。


ウェルザー公国は一見、平和に見えるが貴族の不正や陰謀、地下組織の犯罪や人身売買等の問題があった。それを収拾する為に五大貴族や薔薇騎士、鴉は互いに協力しながら関わり合っていた。もし、誰か一人でも野心を抱き、皇帝を引きずり下ろそうと企んでしまえば王国は不安定になってしまう。それを心得ている分別のある者が三つの機関に連なっていた。だからこそ、国内の秩序は保たれていた。

だが、貴族の中には野心を抱く者もいた。貴族の世界で地位、名声、権力加えて皇帝の寵愛もある五大貴族は目の敵にされることが多く、一部の貴族は、皇帝の寵愛を独占する五大貴族を妬ましく思い、中には自らが取って代わろうとする者もいた。



「という訳でして…、フォルネーゼ伯爵。貴殿に、是非とも我が会社と手を組んで頂きたく…、」


そう言って、笑みを浮かべる壮年の男性はぎらつかせる眼を隠そうともしない。

まるで、獲物を狩る獣の目のようだ。壮年の男性は趣味の悪い指輪や貴金属を身に付け、その装いも派手なものだった。そして、贅沢を貪り尽くしたかのような太った体つきをしていた。

そんな男の前にいる人物は…華奢な少年だった。金髪に青い瞳を持つ少年はまるで天使のように愛らしい。少年は、ソファーに座って優雅に紅茶を飲んでいる。その上品な動作と仕立ての良い装いから彼もまた、貴族であることが分かる。小柄で華奢な体格から繊細で儚げな印象を抱くがその佇まいは堂々としており、気高さを感じさせる。


「さあ。伯爵。ここにサインを。」


ズイ、と目の前に差し出された一枚の紙…。それを少年は目を向ける。男はにやりと嫌らしい笑みを浮かべながら少年にサインを促す。


「とりあえずは…、当面の指示はわたしがなさるという方向で…、伯爵は確かに才覚がありますが何分、若い上ですので他の者に示しがつきません。ここは年輩者のわたしが…、」


ピクリ、と少年の美貌に変化が生まれた。そのまま、静かにカップをソーサーに戻すと、口を開いた。


「お断り致します。」


「なっ、何故です!?伯爵。我々が手を組めば、莫大な利益へと繋げるというのに…!」


「グロスハイム卿の仰る通り。僕はまだ若輩者の身…。だからこそ、物事には、慎重に動かねばなりません。それに…、先代は僕にこう言いました。当主になったからには最後まで責任を持ち、義務を果たすように、と。他人任せにしては、フォルネーゼ家当主の名折れです。それを曲げてまでも契約を結ぶのは先代の遺言を軽んじるも同然の行為です。」


「し、しかし…!」


「話はこれだけなら失礼させてもらいますよ。この後、所用がありますので。」


「伯爵!話はまだ…、」


「ああ。そうだ。グロスハイム卿。ご存知ですか?最近、とある海運商を経営している貴族の者が苦しい経済状況に陥っているそうですよ。おまけに多額の負債を抱えているとか…。その者は夜毎、賭け事や酒にのめり込んでおり、領民から捲き揚げた税金も底を尽きているそうで。」


顔色を変える男に少年は言った。


「今では、何とか現状を打開しようと投資をしてくれる資金のある貴族や商人に取り引きを持ちかけているそうですよ。」


笑顔を浮かべた少年伯爵の言葉に男は愕然とした。少年が言う貴族の男とは、まさに自分自身のことだったからだ。必死に隠蔽した事実を知られていることに驚きを隠せない。何故、どうして。そんな思いが胸を占める。少年伯爵の天使の容貌とは裏腹にその口から出る言葉は、男を地獄に叩きのめす内容だった。


「今のお話…。もし、陛下のお耳に入れたら、どうなるのでしょうね?」


ヒイ、と情けない悲鳴を上げる男はそれ以上、少年に対して反論する術を持たなかった。

小説執筆初心者です。よろしくお願いします!

温かく見守って頂けると嬉しいです。

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