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第十二話 黒猫に会うために

「お嬢様。お帰りなさいませ。」


「ただいま。メリル。」


「あら?どうなさいました?何か嬉しいことでもございました?」


「うん。ちょっとね。…ねえメリル。」


「はい?」


「近いうちに…、また夜抜け出してもいい?」


「ええっ?」


そう言ってリエルは茶目っ気たっぷりに言った。


アグネスから『人魚の涙』を見せてもらい、リエルはその際、近いうちにこの宝石をお披露目する夜会が開かれるのだという情報を得た。

リエルはその夜会に紛れ込むために屋敷を抜け出した。

リエルは引きこもり娘と言われているが実際はこうして夜中に屋敷を抜け出すという行為を幾度もしているのだ。


「お嬢様…。旦那様に一言言えば言いのでは?」


「憶測でしかないからルイには言わないわ。無駄足だったらルイに迷惑を掛けてしまうもの。それに、仕事で忙しいし…、」


「夜中に屋敷を抜け出す方が余程迷惑なのでは…?」


護衛のサラの言葉に耳を貸さず、リエルは目的地へと向かった。


「っていうか…、何で俺も?リヒターを連れて行けば良かったじゃないですか。あの人の事だから二つ返事で引き受けてくれるでしょう?何たって、お嬢様のこと溺愛してるし。」


ロジェの言葉にリエルは首を捻る。

確かにリヒターはリエルに対して人並みに優しくしてくれる。

今までの事を思い返せば、一応は対等な人間として扱われている自覚はあるが溺愛する程の愛情はない筈だ。

彼は元々、父の命令でリエルに仕えているに過ぎない。

偉大な父の娘でなければリエルは凡庸な女でしかない。

リヒターほどの人物が気にかける程の価値は自分にはない筈だ。リエルは笑い、


「溺愛?リヒターが?私を…?フフッ…、ロジェったら面白いこと言うのね…。そんな訳ないでしょ。」


「…。」


そう言うリエルを何とも言えない顔で眺めるロジェ。


「それに、リヒターは今、忙しいですから。」


意味深に笑うリエルをロジェとサラは首を傾げた。


「わあ…!凄い人…!展示品もたくさんあるのね…。」


リエルは辺りを見渡し、そう呟いた。

美術館の建物を借り、それぞれ自分の持つ宝石をお披露目する会がここで行われるのだ。

一言で言うとただの自慢し合う集いの場である。


「お嬢様…。こういう場は苦手なのに、何でわざわざ?」


「そうです。そろそろ、お話下さいませんか?ここまで来た訳を…。」


サラとロジェの質問にリエルは答えた。


「怪盗『黒猫』に会うためよ。黒猫は、神出鬼没でいつ現れるか分からない。でも、彼が現れるのは決まって貴族の持ち物を盗む時。そして、盗む物は全て値打ちのある物ばかり…。この間盗まれた『真紅の皇帝』だってそう。」


「成程…、それでお嬢様はこの場に黒猫が現れると?」


「そう。でも、これはあくまで推測よ。ここに現れるとは限らない。けれど、これだけの価値ある宝石が揃えられている場なら黒猫も現れるかもしれない。」


「それなら、旦那様や薔薇騎士の連中を使えばいいでしょう?何でわざわざこんな回りくどい真似を?」


「王宮に引き渡す前に私の手で捕まえたいの。そして、黒猫をこの目で見極めたい。…何故か。会って話をしてみたいの。」


「お嬢様は普段は異性に対して全く興味を示さないのにこういう事には興味を示すのですね。」


「そんなんじゃ…。」


「ま。確かにこんなのがバレれば旦那様は黙っちゃいないでしょうね。」


「そうね…。ルイは私に対して過保護な所があるからね。」


「お嬢様の好奇心旺盛は美点ですけど限度は守ってくださいね!」


「分かっているわ。」


本当に分かっているのか…。

傍付きの二人はリエルの言葉に不安を覚えた。

何せ、リエルはおっとりした見た目に反して行動力がある。

しかも、突発的だ。大胆不敵といえば聞こえはいいが振り回されるのはいつも彼らだ。

だからこそ、毎度毎度警告しているのだがあまり反省がされていない主人の姿に二人は溜息をついた。


表面上は社交界が苦手な引きこもり娘だと言われているリエルだが実際はその逆であることを彼らはよく知っていた。

しかし、一方でそんな主人を陰ながら支えていきたいと思っている。

だからこそ、何だかんだ言いつつもリエルに付き従うのだった。


「ん…。美味しい!サラ、あなたも食べたらどう?」


「あの…、お嬢様。こんな隅の方でよろしいので?」


「ええ。ここの方が落ち着くもの。それに、何かあったらすぐに走れる。そうでしょう?」


出口に近い位置に陣取り、取ってきたお菓子を口にするリエル。

サラは異性ではなく、菓子に夢中になる主人に教育の仕方を間違えたかもしれないと溜息をついた。


リエルは美しくもない片眼の自分に縁談は来ないと思っているが彼女がその気になれば相手は幾らでもいる。

だが、裏でルイが縁談を片っ端から断り、更にはリエルに男を引き寄せないようにと執事のリヒターに厳命している有様だ。

それが原因か。サラは思わず嘆息してしまう。


「ロジェ。凄い量ね。」


「ほふなほひひは…、」


もごもごと口いっぱいに肉を頬張っているせいか何を言っているのか聞き取れない。


「そうね。こういう時こそ食べておかなくてはね。」


リエルは何故か理解し、頷いていた。

その時、サラが異変に気づいた。


「お嬢様!あれを…、」


「え?」


瞬間、ガシャンとシャンデリアが落ちる音がした。


―来た…!


「サラ!ロジェ!」


前もってドレスの下は活発に動きやすい服を着ていた。すぐにドレスを脱ぎ、リエルは走った。二人をそれぞれ別の場所へ向かうように指示した。


―もしかすると…!

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