9
アルベルトが魔女を連れて食堂に現れると、辺りがとてもざわついた。
2人が一緒に研究をしているという噂は立っていたが、信じている者があまりにも少なかったことが原因だ。
アルベルトはまだ実験に顔を出す方だが、魔女が誰かと共同で作業をするなんて誰が信じただろう。
こうなる事が分かっていたアルベルトは、先に注文しておいたサンドイッチ2セットを受け取り静かな庭へ出る。
ここはいつも人がおらず、アルベルトが息抜きによく使う場所だ。
ベンチにハンカチを引いてやり、魔女をそこに促す。
すると驚いたようにアルベルトのほうを向き固まってしまった。
「なんだ、魔女は立って食べるのが流儀なのか?」
アルベルトはそう言うとハンカチの隣に座ってサンドイッチを食べ始めた。
「え、ここに、座れって事ですか?」
「俺が隣だと不満か?」
「いや、違います、けど……」
魔女がゆっくりとアルベルトの隣に座り、手を握りしめた。そして一度立ってまた座る。
やはり再度立ち上がってアルベルトにこう言った。
「や、やっぱ!ハンカチ汚れちゃうんじゃ」
「一度座ったんだからもう汚れてるだろ、それに、俺にかかれば一瞬で綺麗にできる。問題ない」
「あ、そ、そう、ですか」
アルベルトの言葉に安心したのか魔女は普通に座った。しかし、サンドイッチには手を出そうとしない。
「食べないのか?」
「え!?これ、わたしの、なの?でもお金」
「別にこれくらい気にするな。俺が誘ったんだし」
「あ、そ、なのですか」
魔女はそう言うと恐る恐るサンドイッチまで手を伸ばした。
このサンドイッチはたっぷり卵が入ったタマゴサンドと厚切りハムとシャキシャキのキャベツ、甘い厚切りのトマトが挟まったBLTサンドの2種類が入っている。どちらもアルベルトの好物でよく注文する物だ。
「……美味しい」
「当たり前だ、俺の好物だからな」
「なんで貴方はそう、偉そうな言い方しかできないんですか?」
「これが通常なんだ、慣れてくれ」
アルベルトがそう言うと、魔女はパンを両手で掴み、口に咥えたまま彼の方を見てきた。口元しか見えないため表情は伺えないが嫌そうな顔をしている事を感じ取れるそれに、アルベルトは思わず笑う。
「くっ……お前、表情見えないのになに考えてるかよく分かるな」
「うぐっ」
アルベルトが笑うとは思っていなかったのか、魔女は驚いてむせたようだ。
それがよりアルベルトのツボに入ったのか笑いが止まらなくなる。
「ちょっと!失礼な方ですね」
「お前が面白いのが悪い」
「なぁ!?」
「悪い、別に面白がって言ったわけじゃなくて」
「ど、どういう意味です」
「表情が豊かなんだなと思ったんだよ、そんなの被ってるのに」
「……うるさいですよ」
サンドイッチをすでに食べ終えているアルベルトは魔女がサンドイッチを食べ終えるのを待ってから相談があると持ち掛ける事にしていたため、黙って前に生えている色とりどりの花を眺めていた。
そんなことは知らない魔女はサンドイッチを食べ終わるとすぐに立ち上がる。
急に立ち上がった魔女を見てアルベルトは慌てて腕をつかんだ。
「まて」
「うわぁっ!ちょっとな、なんです!」
魔女のあまりの拒否対応にアルベルトは今相談するべき内容ではないかもしれないと腕を離して両手を前に挙げて相手を落ち着かせるように言った。
「悪い……」
「い、いえ、そういえば何か話があると言っていたのに忘れて立った私がいけませんでした」
「ああ、覚えていてくれたのか」
「まぁ、一応」
魔女は再度ベンチに戻っては来た。
しかし、今の拒否反応から『愛の力』について話すのはどうなんだろうかと思っていたアルベルトは悩む。
彼女は最後の人材かもしれないのだ。自分と良い関係を築くことができる相手。
大切に対応していったほうが良いのかもしれない。
魔女とは違う方向にため息をついてアルベルトは立ち上がった。
「今日は、やめておく、戻ろう」
「え?」
「ほら、立て」
「あ、はい」
ハンカチを回収するとすたすたと歩き始めるアルベルトに魔女は慌ててついてく。
一体どんな相談をされるよていだったのだろうか。そう考えながら研究室まで向かうのだった。
お読みいただきましてありがとうございます。