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エリーが常に身に着けている黒いフードには特殊魔術が組み込まれている。
エリーが初めて編み出した術式で、そのフードであれば前を覆われていてもどんな物体が前にあるのかシルエットで分かる仕様だ。
人と話すことが嫌なエリーは、そのフードがあることで人と話すことが出来たし、実験にも参加した。彼女にとって誰と話したかは全く重要ではないし、人に自分の姿を見せたくなかった。
つまり、彼女を直接見たことがある人物は、昔関わったことがある施設の中の人間、シリス、そしてこの間廊下でぶつかった男位だと思われる。
その位エリーは人との関わりを絶っていた。
エリーはあの、廊下で男とぶつかった日、研究長にフードは被って来ないようにという命令が下され、必死に走って待ち合わせ場所まで向かっていた。
なるべく人と接触がないように人通りの少ない場所を選んで走っていたのだ。だからこそ男とぶつかってしまった。
結果。
あのちょっと親切な男は一体誰だったのかを考える時間ができてしまったのだった。せめて名前を聞いておくべきだったと気が付いたのは、彼女が自室に戻って今日の反省会を始めた頃。
時すでに遅し。
このフードを被って出歩いたところでシルエットしか分からない。それだけで判断するのは難しいだろう。
そもそも、その黒いフードを被らないで探せば簡単なのだが、彼女にその考えは全くないようで、すでに諦めの気持ちに傾いている。
それ以上に、これから会わなければいけない研究長の息子、アルベルトの事がエリーにとっては大問題だったのだ。
なぜなら、そのアルベルトとかいう男は、何人もの女を誑かし、人を見下し、常に偉そうにふるまうという噂がエリーにまで伝わっている。
そんな男、こっちから願い下げしたいところである。
ただ今回は研究長からの頼み、無下にすることはできない。
しかし、あの優しさの塊のような研究長の息子がそんな屑な男に完成するものなのだろうか。
少し疑問に思うところはあるが、火のない所に煙はなんちゃらだ。
頑張って早く嫌われなければ。そう意気込んでシリスのいる部屋に向かった。
「研究長!!」
「おや、来たのか。約束の時間より早いじゃないか」
「ええ、出来ればあなたの息子、アルベルト様の詳細をお聞きしようかと思いまして。どうにも悪い噂しか聞きませんし、とても不安で心配で、とんだ狼のような男なのではないでしょうか?」
彼女の一先ず研究長にこの魔女には息子を任せられないと思わせる作戦で行くことにしていた。しかし、この作戦が裏目に出るとは彼女は全く予想していなかった。
「ほぉ?この俺が、狼のような男だと」
「ひっ」
「魔女様がそんな噂ごときに動かされる人物だとは、とっても驚いたよ」
「な、な、な」
「で?私はどんな人物なのでしょうか、魔女様?」
研究長の部屋の壁に寄りかかっていた人物がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
その男は恐らく、とてもいい笑顔を張り付けていると想像ができる。
まさか、先に部屋にアルベルトが来ているなんて予想外だ!
どんどん近づいてくる男から逃げるように扉に向かう。
_____ダンッ!!!!
扉に手を伸ばそうとしたところで男に追いつかれたエリーは、後ろから覆いかぶさるように扉を抑えられてしまった。
ぎりぎり触れていない位置に、アルベルトがいる。
「逃がさねぇよ?」
「……………っ!」
た、助けて!
そう思っていると後ろの方からシリスの笑い声が聞こえてきた。
「あははは!そんな初めから仲がいいなんて嬉しいね、私としては大歓迎だよ!ほら、2人とも、そこのソファに座るんだ。お茶を淹れてあげよう」
そんなシリスの言葉があったからなのか、アルベルトはすぐにエリーから離れていった。
エリーは背中に流れる冷や汗が止まらない事を言い訳に帰ってしまえないかを必死に考えていたが、研究長から2度目の座ってほしいという言葉を受け、逃げることが出来ない。
どうしよう。初めに悪態をついてしまった上に、先ほどの感じだと逆に逃げられなくなってしまった雰囲気が否めない。
エリーは、ソファに座るまでの僅かな時間でたくさんの言い訳を考えなければいけなくなったのだった。
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